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自#042|ゴッドファーザー(自由note)

 北区の定時制高校時代にお世話になったN先生と云う元教頭先生が、ブログを読んで下さっています。N先生とは、職場を離れてからも、ずっと文通をして来ました。自分よりもひと回り以上年配の大先輩なのに、結構、私は、好き勝手なことを、手紙で、書いて来ました。つまり、まったく忖度をしてないと云うことです。

 私は、教え子たちには、常に、忖度をしています。彼等、彼女たちが、ポジティブ、前向きに、自分自身の個性を発揮して、幸せに暮らして行けるように、ネガティブなことは、絶対に言わないようにしています。将来の見通しが暗くても(今がまさにそうですが)
「いや、どうにかなるから。take it easyって感じで、軽く行け。重たく考えるな」と、さらっと言い放ちます。どうなるのかと云うことは、解りませんが、生きていれば、どうにかなります。All things must pass.です。65年間、無駄飯を食って来たわけではありません。

 N先生は、私よりひと回り以上、無駄飯を食(しょく)されて来られた筈なのに、私よりはるかに心配性です。インドにいる息子さんのことを心配され、可愛い孫の勉強が遅れているんじゃないかと懸念され、御自身の健康にも、気配り以上の余分な不安を抱かれています。

 N先生は、戦中派ですから、戦争を知らない私などとは、較べものにならないほど、戦争の暗い世界を、原体験としてきっとお持ちになっています。
「地獄の黙示録」については、ちょいちょい書いているのに、やはりコッポラの大傑作である「ゴッドファザー」について、書かないのはwhy? みたいなことを指摘されました。「地獄の黙示録」は、ドアーズやCCRの曲を使っていて、「ゴッドファザー」は、ニノローターだからって理由では、もちろんありません。ニノロータは、エンニオモリコーネと並ぶ、いやそれ以上の映画音楽の巨匠(マエストロ)です。
「地獄の黙示録」について書いているのは、それは私が、戦争を知らない世代だからです。戦争を知っていて、それを語ることは、容易なことではありません。私は、高知県庁に入って、酔った勢いで、Oさんと云う課長補佐から匍匐前進のやり方を教わりました。Oさんが私に伝えたのは、匍匐前進だけです。兵士として元フランス領インドシナに行ったらしいんですが、戦争の中身については、ひとことも語りませんでした。

 もはや戦後ではないと政府が表明したのは、昭和35年です。が、それは、東京の話です。私の田舎の街角には、まだ普通に手や足のない傷痍軍人さんが、アコーディオンを弾きながら、物乞いをしていました。つまり、戦争は知らないんですが、戦争の雰囲気は、間接的に知っています。

 私ぐらいの世代の多くは、憲法第9条支持派だと、私は思っています。もう二度と戦争をしてはいけないと、私の世代は、間接的に刷り込まれているんです。が、直接、戦争を知っている訳ではありません。だから、「地獄の黙示録」については、普通に語れます。
「ゴッドファーザー」は、ある意味、マフィアの美学です。マフィアの幹部の人は、観たと思います。路地裏でドラッグを売っている末端の構成員が、積極的に観たとは考えぬくいです。マーティンスコティッシュがメガホンを撮った「ミーンストリート」は、多くのマフィアの構成員が観たと想像できます。

「ゴッドファーザー」を楽しめるのは、そうは言っても、日本の警察が優秀だからです。問題は、まあいろいろあるとは思いますが(問題のない組織とかあり得ませんから)客観的に見て、世界で一番優秀な警察組織です。No1優秀なのは、もちろん、警視庁です。道府県の県警本部とは、すべてのレベルが違うと、私は、勝手に思っています。

「ゴッドファーザー」(パート①)に登場する初代、ドンコルレオーネは、マーロンブランドが演じています。マーロンブランドは、この役のために喉を潰していました。あれだけ潰したら、もう元には戻りません。パート②のドンコルレオーネは、ロバートデニーロが演じていました。正直、マーロンブランドと、ロバートデニーロとでは、役者の格が違うと感じました。無論、ロバートデニーロも超一流の俳優さんです。が、やっぱり昔は、すごかったってことです。

「ゴッドファーザー」は、ファミリーの愛情の世界と、外の人殺しの世界の対照と云うか対比が、もう超ド級に強烈です。美学としか、言えません。

 ドンコルレオーネは、狙撃されて、病院に入院します。その後、退院して自宅療養します。ある日、母親を始め、家族が全員、泣いている光景を見かけます。ドンコルレオーネが、狙撃されて、血で血を洗う復讐戦争が始まりました。堅気で、父親の誇りだった次男のマイケルは、ドンを狙撃した黒幕の二人をイタリアンレストランで射殺して、シチリアに亡命しています。ドンの長男のソニーは、すでに殺されています。対抗マフィアのタッタリア家の跡取り息子は、こっちが撃ち殺しています。ドンが入院、自宅療養している間に、抗争は、どんどん激化してしまったんです。ドンは、ニューヨークの五大ファミリーを集めて会議を開くと、弁護士である義理の息子に伝えます。

 ニューヨークの高級レストランで、五大ファミリーの会議が開催されます。その冒頭、ドンは「オレ息子のソニーも死んだ。タッタリア家の跡取り息子も死んだ。もう、戦争は終わりだ」と、しゃがれて潰れた声で、厳かに宣告します。このセリフを聞いた瞬間、鳥肌が立ちました。

 実は、関根恵子主演のポルノ映画が、「ゴッドファーザー」と同時期に、公開されました。私の高校の同級生は、全員、関根恵子の方に行ってしまったんです。私は、一人で、「ゴッドファーザー」を観に行きました。
 Frailty, thy name is woman!
これは、ハムレットがオフェリアに投げつけた言葉ですが
 Frailty, Thy name is men!
と、私は、同級生たちに投げつけたい気持ち、満々でした。ポルノなんて、大人になったら、いつでも見れます。「ゴッドフアーザー」は、まさに高2の今でしょうって感じでした(当時は映画が記憶媒体に録画されて、いつでも見れるようになるとは、まったく想定できませんでした)。

 今から4000年近く前に、制定されたハムラビ法典以来、刑法の原則は、やられたらやり返すです。いくらきれいごとを言っても、死刑は復讐です。やられた被害者に成り代わって、国家が復讐をします。

 やられたらやり返す、これを延々と続けて行ったら、人類は死滅します。どこかで、誰かが、やり返さないと云う歯止めをかける必要があります。やり返さないと云う歯止めをかけたと云う意味で、イエスは偉大でした。キリスト教は、本当は偉大です。真のクリスチャンであれば、戦争はできない筈です。人が人を殺すことは、例外なく、許されないことだと、私は思っています。

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