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僕と幽霊

「うわぁ!」

夜中に目を覚ますと、僕の枕元に知らないおじさんが立っていた。

「おばけ!お化けがでた!怖い、やめてオバケ!」

するとお化けは言った。

「いや、あの、ちょっと待ってよ。いきなり何やねんな。確かに霊ではあるけど、いきなりお化け呼ばわりは無いんちゃう?別にワシ、化けて出てへんやん」

流暢な関西弁で、お化けのおじさんは喋る。

「だからお化けって言わんといてや。ほら、見た目は普通やんか。あぁ、これは上のナレーション的なやつに言うてんねんで?いや心の声かな?君に言うたんちゃうで」

お化けおじさんは、お笑い芸人のようにテンポよく喋り続けた。

「いきなり出てきたのは確かにワシが悪かった。でもな、ワシかてつい最近まで人間やってんから、お化けって呼ばれるのは嫌やなぁ。
 別にワシは怪しいモンやないで!ってこんな夜中に怪しいか。ガハハハ」

なんだか明るいお化けだ。いやお化けとは思えない。

「お、おじさんは本当に死んでるの?お化け、いや幽霊なの?」

「そうやで?君、あれやろ?霊感あるやんか?だからワシが見えるかなと思って遊びに来てん。ごめんないきなり。昼間はワシらの姿は見えへんからな」

どうやらおじさんは、悪い霊ではなさそうだ。

僕はドキドキしながら聞いてみた。

「あ、足は?・・・ある!ちゃんと足はあるんだね!」

おじさんはムッとした顔で言った。

「そらあるわいな。何やねんな、どいつもこいつも幽霊は足が無いとか、白い衣装着てるとか、そんなん偏見やで。
 ワシは生きてた頃、結構お洒落やってんからな。まぁ言うてもほとんどナイキやけどね。その時の格好のままやで。見てみコレ。
 あ、スニーカーはプーマやで。こだわりがあんねん」

おじさんは、聞いてないことまでペラペラしゃべり出した。

「へ、へーっ、そうなんだ。おじさんはいつ死んだの?」

「ワシは2週間ぐらい前かな。前の日まで元気やったのに、次の日いきなりポックリや。シャレならんで。まぁ苦しまんかっただけラッキーやけどな。ガハハハ」

幽霊が笑っている。そしてものすごく喋っている。

僕は頭が混乱した。

「おじさんは死んだのに、どうして天国にいかないの?もしかして地縛霊?」

「いや地縛霊て!君、知ってる単語、適当に言うてるやろ?心霊番組とかめっちゃ観てるんちゃう?愛読書は絶対「月刊ムー」に違いない。
ってそんなことはどうでもええねん。ワシは死んだことちゃんと認識してるし、この世に何の未練もないで」

おじさんの喋りはどんどん加速していく。

「ほんでな、今はアレや。49日間はこの現世で好きにしていいって言われたから、遊んでるんやんか。よく聞くやろ?四十九日って。あれやがな」

「じゃあその後は?その後はどうするの?」

おじさんは困った顔をして言った。

「それがやな、なんやワシの担当者が言うには、49日経ったら三途の川を渡ってあの世行くらしいねん。でもな、その前に閻魔大王の裁きがあるんやって。そこで天国に行くか、地獄に行くか決められんねん。はー、もうめっちゃ嫌やわ」

なんだか僕が読んだ本やマンガみたいな話だ。

「本当にそんなシステムなんだね!スゴイよ!」

おじさんはため息をつきながら言った。

「システムて君。ええ感じに言うけど面倒くさいで?それに何もスゴないがな。ワシは地獄に行くかどうか不安でたまらんってのに、君は気楽なもんやで」

「えっ、おじさんは何か悪いことしたの?」

「いや、刑務所に入るようなことはしてへんけどな、でも神様は全部お見通しらしいからな。捕まってなくても、悪いことは全部記録されてんねん。
 拾った財布持って帰ったこととか、タバコのポイ捨てとか、ほんでから、浮気、いや止めとこ。なんかヘコんできたわ」

おじさんはどんどん元気が無くなっていった。

「そうなんだ、変なこと聞いてごめんね。僕、霊や霊界のことにすごく興味があるんだ」

「うん、まぁ知ってるで。霊は人間の心は大体わかるからな。それに霊感があるってわかったから君のとこ来たんやしな。
 でもな、なんで霊に興味があるんや?そんなおもろいか?」

おじさんに聞かれて、僕は答えに詰まった。

「うーん、なんで興味があるのかはわからない。でも心霊番組とかドキドキするし、心霊スポットとか怖いけど行ってみたいんだ」

「それ、それよそれ!ワシ前から思っててんけど、それ絶対おかしいで?」

おじさんは身を乗り出して、熱く語り出した。

「あのな、例えばやで?ワシみたいなハゲでおしゃべりなオッサンが、君の家の隣に住んでたとしよう」

「うん」

「ワシのこと何か知りたいか?ワシに興味あるか?」

「ない」

「即答やな!まぁええわ。な?ないやろ?こんなオッサンのことなんて別に誰も興味ないがな」

「う、うん、そうだね」

「ところがや!ワシが死んで地縛霊になって、夜中に出現したらなぜか興味持つやん。ただのオッサンやのに。普通のサラリーマンやで?
 それが死んだらなんか急に興味持って写真撮ったり動画録ったりするし。おかしいやん、正体はハゲのオッサンやのに!ハゲのオッサンやのに!」

「え、なんで2回言ったの?でも確かに。普通の人が霊になっただけなのにね」

「そやろ?心霊スポットとか言うても、ただ普通の元人間が出てくるだけやんか。それ見て何が面白いねんって話やで。有名人の霊やったら話は別やけどな」

「そうか、そうだね。そう考えたらあまり面白くないや」

「そんな怖いもんに興味持つより、もっと自分の世界に興味持たなあかんで。君、寝る前にTwitterで『死にたい』って検索してたやろ?」

「えっ、おじさん見てたの?僕のことずっと見てたの?やめてよ!恥ずかしいよ!」

おじさんは申し訳なさそうに言った。

「あーいやごめんごめん。ずっと後ろで見てたわけちゃうねん。さっきたまたま通りかかった時に、チラッと見えてもうてん。ごめんな。
 でもそこだけやで見たのは。グラビアアイドルの画像めっちゃ見てたこととかは知らんで?」

「いやすごく見てるじゃん!」

「君、ツッコミうまなってきたな。ごめんやって。いやほんでな、ちょっとチラ見してもうたから、大丈夫かなと思って心配してたんや。
言いたくないなら聞かんけど、何か嫌なことでもあったんか?」

おじさんに優しく言われて、僕は苦しくなった。

「うん、実はこの前、彼女に振られたんだ。好きな人ができたんだって。本気で好きだったのに……。
 失恋ってこんなに辛いって知らなかったよ。辛くて毎日死にたいんだ」

おじさんは、何だか笑いをこらえてるようだった。

「ブフッ、いやごめんごめん。これバカにしてるわけちゃうで?若いってええなぁと思って、青春やなぁと思って微笑ましかってん。
 確かに失恋は何回経験しても辛いし慣れんもんや。あれはシャレならん。他の痛みとはまた別やしな。そら死にたくもなるわ」

「ありがとう……。わかってくれて。でもおじさんもそんな恋愛したことあるの?」

「そらあるわいな!ワシをどういう感じで見とんねん。ワシは若い頃モテモテやってんで?今はこんなんやけど、昔は髪フッサフサで、もっとシュッとしてたしな。あ、失恋しまくりやからモテモテちゃうか。ガハハハ」

「でもな少年。失恋して苦しいのはわかるけど、どうせ時間経ったらまた好きな子できるし、出会いなんてナンボでもある。だからそんなことで死んでたら、命いくらあっても足りへんで」

僕が話をしようとしたら、おじさんはそれを遮って喋り出した。

「いやわかる!言わんとしてることはわかる!そう言われても辛いもんは辛いやんな?
 何言われても今の苦しみはすぐ消えへんって、そう言いたいんやろ?それもわかるで!でもそれをわかったうえで、ワシは言うてんねん」

おじさんの目は真剣だ。

「ちょっと話変わるけどな、今こんなこと君に言うても通じんかもしれんけど、人間って未来のことがわからんから不安になったり、悪いこと考えてしまいがちやんか?
 でもな、未来のこと、明日のことなんてどんな有名な占い師でも予言者でもわからへんし、結構ハズしとんねん。
 だからワシらなんかが自分の未来なんてわかるはずないねん。明日の晩飯もわからんやろ?
 人間なんてそんなもんや。未来がわかるのは神様だけやで」

「うん、まぁ、確かにそうだね」

「だからワシが言いたいのはな、自分でこの先の人生お先真っ暗って決めつけるのはおかしいで?ってことや。
 もしかしたら明日、めっちゃ可愛い子に告白されるかもしれんやん?そしたら死ぬ気無くなるやろ?まぁ可能性は低いかもしれんけど、絶対ないとは言えんやろ」

「うーん、絶対なさそうだけど、可能性はゼロじゃない。それはわかるよ」

「だからやな、人生何が起こるかわからんのやし、どうせ考えるなら、暗いことより明日は良いことあるって思った方がええやん。
 心の中で何を思うかは君の自由やからな。何を妄想しても警察には捕まらへんで。だから好きなこと考えとったらええねん」

「自分で自分を傷つけたり苦しめる必要はないで。君を救えるのは君自身だけなんや!」

おじさんはスゴく興奮している。熱く燃えている。

「うん、そうだね。おじさんありがとう。ところでおじさんは、なんでそんなに僕を励ましてくれるの?」

おじさんは僕の目を見つめて言った。

「実はな、ワシはただの通りすがりのオッサンって言うたけど、実は君の、君の……」

「えっ、もしかして!?」

「あ、ごめん、なんも面白いこと思いつかんかった。ワシはほんまにただの通りすがりのオッサンや」

「なんだ!僕も意味もなく『もしかして』とか言っちゃったよ!」

「あはははははは」
「ガハハハハハハ」

「うっ!」

急におじさんは苦しみだした。

「どうしたの?おじさん!」

「いやさっきな、死ぬほど牛丼喰ったから腹痛くなってきたわ」

「えっ、幽霊になってもご飯食べるの?」

「そら食べるよ。この世もあの世も何も変わらんで。あ、ライン来た。ちょっと待ってな。え?何やそれ?今からかぁ」

おじさんはスマホでラインをチェックしている。

幽霊もスマホを持ってるのか。どうやって契約しているんだろう?

「話の途中でゴメンやけど、今から『初恋の人は今どこで何をしてるのかしらツアー』に行ってくるわ」

「へ?何それ?」

「いやまぁ、そのままなんやけどね。吉野家で知り合った人達といっしょに、初恋の人は今どこでどうしてるか、見に行ってみようってことになってん。ワシみたいにもう死んでるかもしれんけどねガハハハ」

「どうやって行くの?」

「どうやってって、まぁ瞬間移動的なやつかな」

「ええっ!そんなことできるの?」

「まぁ一応、霊やからね。行きたいところを思い描いたら飛んで行けるねん。人間と違って肉体が無いからな。でもそれぐらいやで。人間と霊の違いって。後は大体いっしょやで」

「そうなんだ!勉強になったよ」

「ほなそろそろワシ行くわ。またヒマやったら来るし、そん時は相手してや。話し相手になってくれてありがとうな」

「うん、僕の方こそありがとう!また霊界の話聞かせてね」

「うむ、ではまた会おう少年!さらばだ!」

そう言うと、おじさんはなぜか瞬間移動はせずに、普通に部屋のドアを開けて出て行った。

と思ったら、すぐに戻って来た。

「ごめん!トイレ貸してくれへん?」

おじさんはすごく人間みたいな幽霊だった。

おわり


【 短編小説 】
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