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ARMの売却はAI業界に何をもたらすのか~後編~

前回に続き、NvidiaによるARM買収がAIの今後にどんな影響を与えるかについて記載したいと思います。

ソフトバンクによる、ARMの次の一手

2016年のARM買収を皮切りに、ソフトバンクは未来に向けて素晴らしい一手を打ち続けます。その中でも私が驚いたのは、2018年のARMによるTreasure Dataの買収です。

Treasure Dataは2011年に日本人3人がシリコンバレーで立ち上げたビッグデータを取り扱う企業で、平たく言えばデータの蓄積・分析を手掛ける企業です。

多種大量なデータを簡単に蓄積することが出来き、蓄積されたデータは、外部システムに簡単に連携することが可能で、データの活用を希望する企業にとってはとてもありがたいクラウドベースのデータマネジメントプラットフォームを提供しています。

この買収当時、私が所属する会社でもTreasure Dataを利用していましたが、データ蓄積やデータ活用にかかる負荷は劇的に軽減され、本格的なデータ活用を簡単に実現出来る環境に大変驚きました。Treasure Data無しにはデータを活用した事業の推進は叶わなかったと思います。

そのくらい優れたサービスを提供している企業を、ソフトバンク参加のARMが買収すると聞いたときには、これから起こるであろう未来にワクワクしたことを覚えています。

来たる5Gの世の中においては、世界中のありとあらゆるものがインターネットに繋がります。そして世界中のそういったデバイスにはARMのチップが内蔵されていて、そこから大量のデータが発生します。この大量のデータをTreasure Dataに格納していくことが出来れば、データを生み出しそれを保管するということを一気通貫で行えるいうことですね。しかも、Treasure Dataは広告配信やマーケティングツールなどの外部サービスに簡単に接続することが出来ますので、蓄積されたデータを簡単に活用まで持っていく事が可能になります。

いやー、本当にすごいシナリオですよね。

ソフトバンク孫さんはまさにIoTの川上から川下までを押さえに行ったんだと非常に興奮しました。
そして、そのバリューチェーンで得られた膨大なデータどうするかと言えば、ここでAIの登場ですね。AIでそれらのデータを有効的に活用し、企業の課題や社会課題に挑む。そして、いつか起こり得るであろうシンギュラリティに対する備えを着実に行いその日を迎える。

孫さんはそんな絵を描かれていたんだと思います。

AI社会の覇権を担うのはNvidiaか

しかしながら、今回の報道によってARMはソフトバンクの手からNvidiaに移り、ソフトバンクが得た果実は事業の未来ではなく、投資に対するリターンであるという理解をしています。

長きにわたり低成長に悩む日本の経済のトレンドを大きく変える可能性がAIにはあります。

世界でも類を見ないスピードで進行する超高齢化社会に対し、日本がどう挑むかは今後の世界の試金石となるはずであるし、そういった現状を打破するためには何らかの変革が必要であるはずです。そこで大きな期待をされているのがAIであり、その日本代表のような期待を私はソフトバンクに抱いていました。

個人的にはとても残念ですが、私のそういった感情を抜きに考えれば、今回の買収はとても素晴らしいものです。

Nvidia の創業者・CEO であるジェンスン フアン (Jensen Huang) から、Nvidiaの従業員に向けて、次のようなレターが送られたようです。

みなさん、こんにちは。
本日、ARM 買収についての正式契約を締結したことを発表しました。
私たちは ARM とともに、AI 時代の最高峰のコンピューティング企業を生み出します。AI は、今の時代で最もパワフルな勢いのあるテクノロジです。データから学習するAI スーパーコンピューターは、人間には書けないようなソフトウェアを書くことができます。驚くことに、AI ソフトウェアは環境を認識して、最高のプランを推論し、インテリジェントに行動することができるのです。                              この新しい形式のソフトウェアにより、世界のすべての街角にコンピューティングがもたらされるようになるでしょう。いつの日か、AI を実行する数兆台のコンピューターが、現在のヒトのインターネット (internet-of-people) の数千倍の規模を持つ、新しいモノのインターネット (internet-of-things) を生み出すようになるでしょう。Nvidia の AI コンピューティングと広大に普及された ARM CPU が一体となると、私たちは、非常に優れた AI がもたらす、前途に待ち受ける絶好の機会を活かして、クラウド、スマートフォン、PC、自動運転車、ロボティクス、5G および IoT でのコンピューティングをさらに前進させることができるようになるでしょう。         Nvidiaは、世界をリードする AI テクノロジーをARMのエコシステムに提供することで、現在 200 万人の開発者が利用しているNvidiaのテクノロジーを、1,500 万人以上のソフトウェア開発者に届けることができるようになります。                               今から楽しみでなりません。
ジェンスン

AIの領域においては、今回の買収により国内企業が世界をリードできるかもしれない僅かな希望が無くなってしまったような感覚を持ちました。Nvidia&ARM連合は、5Gの本格普及によりその存在感を大きくしていくでしょう。


ただ、今回の報道後、ARMからは以下の声明が出ております。

「今回の取引には、トレジャーデータとArmのIoTプラットフォーム事業で構成されるARMのIoTサービスグループは含まれていません。」

つまり今回Nvidia に渡るのはIPライセンス事業のみでありデータの蓄積や活用基盤は対象外ということのようですね。

データの発生源とその蓄積基盤が残るのであれば、まだまだ面白い展開が今後期待できるのですが、この辺りの詳細を引き続きウオッチしていきたいと思います。


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