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The Saunaにはなぜファンができるのか『顧客起点の経営』からまとめてみた

今回のnoteは『The Sauna』について取り上げていきたいと思います。これまでサウナトレンドや事例共有などでThe Saunaの取り組みを紹介してきましたが、The Sauna単体で記事を書くのは今回が初めてですね。満を持してという想いで非常に高揚感を感じつつ、このたび筆を取っております。

というのも、9月中旬に行われた『LAMPフェス2022』に筆者はお邪魔したのですが、いちサウナイベントやいち野外フェスという概念を超越し、極めて満足度の高い参加者たちの声に驚愕したのです。1DAYでの参加が20,000円を超えるという、音楽フェス以上の値付けであったにも関わらず、です。

LAMPフェスの掘り下げについてはまた別の記事でまとめたいと思いますが、同じ参加者と話をしていて最も驚いたのは「これまで10回以上The Saunaを訪れている」「3ヶ月に1回は訪れているようにしている」という方が大勢いらっしゃるということでした。こういったイベントである以上はコアファンが集う可能性は高くなるとは思いますが、それでも、施設としてのリピート率の高さが伺えました。

思えば、筆者の知人にもThe Saunaのファンが数多くいます。親しい仲間たちとより親睦を深めるため、特別な記念日や、さらには新婚旅行およびプロポーズまで行うカップルまでおり、The Saunaを訪れるということが単なるサウナ旅の目的地だけではない、何か特別な意味をもって、ユーザー達に認識されているような気がしてなりません。

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これはあくまで仮説なのですが、The Saunaを訪れるユーザー達と向き合い続けた、スタッフの皆さんの努力が積み重なって今の結果に繋がっているのではないかと思うのです。筆者もThe Sauna開業時から足を運んでいるリピーターの1人ではありますが、LAMPフェスが行われるイマからは想像ができないほど、最初はゼロからのスタートであったように感じられました。

そんなThe Saunaがいかにしてファンができる施設となったのか。『顧客起点の経営』のフレームワークを例に取りながら、ネットでの公開情報や筆者が知る情報を組み合わせつつ、ゼロからファンを育てていったThe Saunaの顧客戦略について迫りたいと思います。(記事の後半では支配人である野田クラクションべべー氏にもインタビューをしてますので、お楽しみに!)

『顧客起点の経営』からThe Saunaを掘り下げる

本題に入る前に、一冊の書籍を紹介させてください。サウナの記事ばかり書いている筆者ですが、最近はサウナ以外の業界からトレンドを参考にすることが多く、そうした中で手に取ったのが『顧客起点の経営』という書籍でした。こちらの書籍、ぜひ全サウナ事業者に手に取って頂きたい傑作です。

顧客起点の経営』は西口 一希氏が執筆され、西口氏は世界的に著名な企業であるP&Gのご出身、マーケティング業界の第一線でご活躍されておられます。4年前に発刊された『顧客起点マーケティング』の書籍についても、マーケティング界隈では大きな話題となりました。その前著から、より経営者向けにフォーカスして書かれたのが『顧客起点の経営』になります。

とはいえ、経営者向けのゴリゴリな専門書として執筆されているため、専門書に抵抗がある方はインタビュー動画がおすすめなので、ぜひ視聴されることを推奨いたします。しかしそれでも視聴する時間が惜しいというのなら、冒頭1分から冒頭7分のところだけでも見てください。おそらく頭をレンガで殴られるような衝撃を受ける筈です。

❝ ほとんどの企業は、顧客が見えていない ❞

❝ ほとんどの企業は、顧客が誰なのかを答えられない ❞

企業を200社以上支援されてこられた西口氏が得た結論としてお話されている内容は、サウナ事業者であればきっと耳が痛い話なのではないでしょうか。例えば「あの施設はユーザーのことをよく見て接客しているな」「この施設はユーザーの声がなかなか届かない」というのは、仮にいちサウナユーザーの立場からみても、各々感じるところがあるのではないかと思います。

しかし冒頭に記したような状況を見る限り、The Saunaは顧客起点の経営を実践できているのではないかという想像をしています。The Sauna(事業主体はLAMP)においては、経営レベルの段階から「ユーザーを見てサービスの提供価値を設計し」「The Saunaを通じて幸せにするユーザーを定義できている」から、ファンが集う仕組みづくりができているという仮説です。

『顧客起点の経営』という書籍を手に取った時、事業者の例として真っ先に思い浮かんだのがThe Saunaだったのです。そして顧客起点の経営を通じてThe Saunaの顧客戦略を掘り下げてみると、全ての事業者の心の琴線に触れるような、筋の良い仮説にたどり着けそうな予感がしました…!

『顧客起点の経営』における代表的な図式を紹介

顧客起点の経営から、代表的な図式を紹介します。まずは『顧客起点の経営構造』について。経営まるごと、ユーザーと向き合う仕組みになっている図式で、「自社事業がどれだけ売り上がったか」「ユーザーがどれだけ増えているか」「KPIの達成度はどれぐらいか」という自社の範囲にのみ頭を巡らせていると、この表からどんどん遠ざかってしまうという構造になります。

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(サウナ仲間である堀田氏監修のもと、各スライドを拝借しております)

根幹となる顧客戦略は『WHO&WHAT』によって支えられます。これは「ユーザー(=WHO)がお金を払いたいと思う価値(=WHAT)」を指し、WHO&WHATの組み合わせをどれだけ揃えられているかを意味します。よく地方のサウナ施設で外来か地元にユーザーを絞るべきか、という議論があますが、ユーザーからすると各々が違う価値をその施設に対して感じていたりします。実はWHO&WHATの組み合わせは1つだけではありません。

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WHO&WHATが1つではないということは、すなわちユーザーは複数存在するということです。地元客もいれば外来客もいる。そして施設のことを全く認知していない客もいれば毎日のように訪れる常連客も存在します。そしてそれはコロナ前と後で大きく変化しているように、ユーザーの存在は常に一定ではなく、複数のユーザーが入り乱れ、絶えず変化していくのです。

『5segs』というのは、お客さんは5種類に分かれるという図式(西口さん曰く、WHO&WHATも5つ以上存在するのが一般的とのこと)に加え、『カスタマーダイナミクス』というのは新規ユーザーとリピーターによって提供すべきWHATというのは異なるそうです。例えば温浴施設であれば通うたびに優待ポイントが貯まるというのは、まさにリピーター向けの施策ですよね。

他にも顧客起点の発想を生み出す図式が数多く紹介されていますので、気になった方はぜひ書籍を手に取ってみてください。こちらのnoteでは、なるべく論点を絞って顧客起点をご紹介したいと思いますので、ここからは『WHO&WHAT』を中心に、The Saunaの顧客戦略を掘り下げていきます。

The Saunaはどのような事業モデルなのか

The Saunaの運営会社は『株式会社LAMP』。The Saunaのサウナ事業だけではなく、飲食と宿泊、アウトドアアクティビティまで幅広く手掛ける事業モデルとなっています。そしてThe Saunaがある『LAMP野尻湖』だけではなく、『LAMP豊後大野』や『LAMP壱岐』など他拠点も運営しています。

本記事では『LAMP野尻湖』の軌跡にフォーカスを当てていきますが、今からおよそ10年前は『アウトドアスクール サンデープラニング』という名称でした。およそ40年間に渡りアウトドアスクール&宿を経営していましたが、2014年にLAMP野尻湖として改装。今に至るまで長い歴史があったのです。

❝ 観光地として繁忙期であるはずのお正月にも関わらず、お客はゼロ。ちなみにこの年の1月の売上は7万円とかだったと記憶しています。会社の月商が7万円ですからね ❞

❝ そもそもアウトドアスクールがメインで、スクールにやってきたお客さんが泊まるために宿があり、その宿泊客のために食事を出すビジネスモデルでした。つまりこれは、集客の全てをアウトドアスクールが担っているので、スクールが集客できないと、宿も食事も機能しない状態でした ❞

上に紹介した記事からの引用ですが、集客の入り口はスクール事業のみ。そのスクール経由の集客もほぼ無いという状況の中、リニューアルにおいては『WHO&WHAT』が見直されます。「宿だけでも、食事だけでも目当てに来てもらえるように」ということで、現地食材を使ったレストランと、ゲストハウスLAMPの宿泊としてのリノベーションが行われます。

新生LAMP野尻湖としてレストランを大幅に見直し看板メニューが誕生、そして宿泊の集客に力を入れた結果、初年度で見事に黒字経営に回復できたいきさつが上記の記事に書かれています。読み物として大変面白い記事でしたので、お時間ある方は一読されることをおすすめします。(そして京都のIL LAGOにもお邪魔したことがあるのですが、控えめに言って最高すぎたので、ぜひ京都のサウナ旅のルートに加えてみてください!)

新たなWHO&WHATとして、『LAMPバーガー』が飲食事業の新たな柱となります。しかしながら看板メニュー誕生に至るまでには、大胆な意思決定が行われます。ご飯物やパスタなどの多様なメニューを取り止め、数種類のハンバーガーとサイドメニュー、ドリンク提供のみを行うというものでした。

❝ 一部の常連さんからは反対されましたし、来てくれたお客さんから「米が食えないなら他のところに行くわ」と目の前で去られたこともありました。「あ、これはやっちまったかもしれないな……」と不安になったのを今でも覚えています ❞

ー 飲食関係は結果が出るまで時間がかかるので、その不安も大きかったと思います。その不安はどのようにして乗り越えたのでしょうか?
❝ そもそも長期的な計画でしたし、「近くに競合となるお店がない」「アレンジや新メニューの開発を積極的にできる」「オペレーションを最適化しやすい」「新たな商圏を作れる」という根拠と勝算がちゃんとありました。なので自分を信じて愚直に続けただけですね  ❞

赤字経営から黒字へと向かう紆余曲折の中で、一見すると顧客起点と真逆を行くようなフィードバックもあったとこちらの記事では書かれています。しかしながら「自社が幸せにするお客さんを決め、自社が提供できる便益とは何か?」を突き詰めていった結果、LAMP野尻湖における「ユーザー(=WHO)がお金を払いたいと思う価値(=WHAT)」が具現化されます。いまではハンバーガー目当てに長野県中からやって来る方もいるそうです。

そしてLAMP野尻湖のリニューアルから4年後、The Saunaのプロジェクトが立ち上がり、2019年からサウナ事業が始まります。このようにLAMP野尻湖はサウナ事業のみでではなく、アウトドアスクールと宿、レストランなどによる、WHO&WHATの組合せが複数存在し、成り立っている事業モデルであるため、こちらの前提に触れた上で、いよいよ本題に入れたらと思います。

The Saunaの顧客戦略(Beforeコロナ)

2018年12月、LAMP野尻湖にてThe Saunaを建造するプロジェクトが始動します。現支配人である野田クラクションべべー氏がフィンランドまで視察を行い、社内プレゼンを経た上でLAMP野尻湖での施工が始まります。アウトドアサウナはおろか、セルフロウリュさえ認知されていなかった時代でした。

施工費は自分たちで全て賄うということで、当時まるで前例がなかった、サウナ建造のためのクラウドファンディング企画が走り出します。筆者も微力ながら支援させて頂きましたが、支援者の大半はサウナブーム前のコアなファンが中心であったように思います。最終的には264名の支援者が集まりました。そして翌年の2019年2月1日、いよいよThe Saunaがオープンします。

クラファンページの活動報告に施設利用者数が半年分公開されていまして、2019年2月から2020年1月までがThe Saunaの初年度であり、日本中がパンデミックで大騒ぎとなる2020年2月以前の軌跡を詳細に知ることができます。おおよその利用者推移を以下、グラフにまとめましたのでご参照ください。

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下半期(2019年9月~2020年1月)が横ばいと妙な推移に映るようですが、初年度の累計利用回数が4,000回とのことで、下半期の実績が月450回前後と算出しなければ数字が合わなかったためです。しかし下半期は月の予約上限を超え続けていた可能性があり、サウナ1棟当たりの月間回転数上限(営業日22日×1日4回転×最大6名)とほぼ一致しています。そしてその傾向は、ドラマサ道放映以降のブームと連動していたと考えても差し支えなさそうです。

累計利用回数が4,000回に対し、1人当たり平均2回に迫るほどの高いリピート率が目を引きます。中には遠方であるにも関わらず10回近く足を運んだ強者も。コアなサウナファンは7割で初心者は3割とのことで、男女比率は6:4、女性の利用者が意外に多いことが毎月の活動報告においても綴られています。そして2019年以前にLAMPを訪れていた客層とは異なるとのことです。

とはいえ、野田クラクションべべー氏は「オープンから半年くらいは結構しんどかった」と述懐しています。「軌道に乗るまではサウナの売り上げが足りない分、補塡策としてPRブログを月10本書いて宿泊客やレストランの利用客を伸ばします」等の地道なアクションを積み上げてこられたのです。

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Beforeコロナにおける、The Saunaの顧客戦略およびWHO&WHATを整理してみました。男女比まで分けると細かくなってしまうため、コアサウナファンとサウナ初心者の7:3の割合を前提としつつ、それぞれの顧客ターゲットに対してThe Saunaが提供していた便益(=WHAT)を推測し記載しています。

The Saunaの顧客戦略(Afterコロナ)

軌道に乗ったかと思われるThe Saunaの初年度でしたが、2020年2月以降はパンデミックによる影響を直に受けてしまうことになります。緊急事態宣言発令による営業自粛を余儀なくされ、2020年4月から5月21日まで、LAMP野尻湖全体の営業が休止されます。当時の様子が活動報告に残されていました。

「お客さんがこないと1円も売上が立たないので、収支表を見るたびに震えが止まらなかった」と野田クラクションべべー氏は振り返ります。そこから1円でも収益になるようなアクションが模索され、ECサイトの開設や地元客に向けたデリバリー等、三密回避に向けた施策が続々と立ち上がります。

さらに売上ゼロを回避する施策として、10%割引のLAMP無期限宿泊券が販売され、実に300万円ほどの売上を達成しました。周囲からはクラウドファンディング活用などを薦められたそうですが「営業できず困っている」というメッセージを発信せず「お客様への感謝の気持ちを込めたお得なチケットとして売り出した」ことが、売上達成に功を奏したとのことです。

緊急事態宣言後の営業再開状況ですが、6月に700名、7月に800人、8月に1000人と、むしろコロナ前以上の水準でThe Saunaの利用者数は推移していきます。前年の実績で記載していたように、サウナ1棟のみでの月間回転数が上限を迎えていた中で、2棟目のサウナが2020年9月にオープンします。

2棟目がオープンしたタイミングで、The Saunaヘルパー制度が開始。マネジメント体制に移行し、2021年2月までに最大5名のヘルパーがThe Saunaの業務に従事します。The Saunaチームは、お客様に自ら声をかけながら顧客と対話し、コミュニケーションとサービスレベルの向上に拍車がかかります。

2021年下半期、世間は空前のサウナブームを迎え、The Saunaは予約の取れない施設として認知されていきます。しかし施設人気に浮き足立つことなく「サービス業は100点で当たり前、120点でリピート化」「では120点の接客とは?」 をチーム内で自問自答し、顧客満足度を愚直に追い求めたのです。

The Saunaチームによるサービスレベル向上が図られると同時に、時代に合わせた便益も提示されるようになります。アフターコロナに対応したリモートワークを促進するプランや、個人やチーム単位で参加できるワーケーションプログラム等も積極的に企画され、顧客ターゲットの間口が広がります。

そして2022年初頭、完全貸切制の双子サウナ「コルメ」「ネリャ」がオープンします。翌月にはトレーラーサウナも営業開始し、予約を取ることさえ困難になったThe Saunaのキャパシティが大きく改善されました。と同時に、完全貸切によるプライベート需要の便益が新たに加わることになります。

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Afterコロナにおける、The Saunaの顧客像とWHO&WHATを整理してみました。コロナによる客層変化はもとより、コロナとともにサウナブームが加速します。(現在ではサウナ好きの若手社会人グループがメインの顧客層となり、彼らを筆頭に多種多様なターゲットが足を運んでいるとのことです)

The Saunaのカスタマーダイナミクス

ここまではWHO&WHATの図式でThe Saunaの顧客像をまとめてきました。冒頭で紹介した「5segs」「カスタマーダイナミクス」の図式から顧客を立体的に捉え、The Saunaチームが取り組んできた施策を整理していきます。

The Saunaチームの取り組みを、①一般顧客とリピーターのロイヤル化への取り組み ②離反顧客復帰への取り組み ③新規顧客への取り組み ④顧客離反防止への取り組みに分類し、以下の図式にまとめてみました。(ロイヤル化=サービスに対し抱く愛着など、好意的感情を高めるアプローチのこと)

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一般顧客とリピーターのロイヤル化への取り組み
サウナ棟を毎年のように新設することによる便益創出と、予約が取れないキャパシティの改善に取り組むなど、The Saunaを一度でも訪れた顧客に対する積極的な施策が行われています。店頭販売やECでのアパレルグッズ、サウナ後の飲食や宿泊環境なども常にアップデートが行われ、さらには四季ごとにサウナの楽しみが変わるなど、顧客を飽きさせない仕組みが絶えません。

何より、The Saunaの取り組みを語る上で欠かせないのが「120点の接客サービス」ではないでしょうか。顧客に対してスタッフが積極的に声をかけ、スタッフ個人にもファンができています。そして冒頭でご紹介したLAMPフェスの存在自体が、そうした空気感すべてを物語っているように感じます。

②離反顧客復帰への取り組み
LAMPフェスのように、これまでThe Saunaでは数多くのイベントが行われてきました。過去には薪割りをすることでサウナと宿泊が無料になるイベントが開催されたり、コストパフォーマンスに優れたお得情報をSNSで発信することで、遠方で足が遠のいてしまった顧客復帰への取り組みが行われます。

イベント以外にもサウナ飯や新サウナ棟の開発など、これまでにない新しい体験を作り出すことで、未だ見たことがないThe Saunaの異なる表情を再認識することができます。すると一度The Saunaを訪れたものの他のサウナ施設にも足を運びたい顧客に対し、再び訪れる動機とサイクルが生まれます。

③新規顧客への取り組み
2019年2月の開業から、オンライン/オフラインともに積極的な施策に取り組んでおられます。オンラインではSNS施策に力を注ぎ、Instagramは18,000近く、Twitterは3,700近くのフォロワー数に達しています。The Saunaチームメンバーも独自にSNS発信を行っているため、リーチ数はより多いことが推測されます。PRブログも月最大10本ほど、定期的に発信がなされています。

オフラインではチラシやポスターを作り、イベント出店による認知施策も行われていますが、The Saunaは数多くのメディアから取材依頼を受けており、あらゆるメディアを通じて、The Saunaが新規顧客に認知される機会が多くあります。オープン当初から「唯一無二のサウナづくり」を目指したからこそ、新規顧客を呼ぶ集客モデルが構築されたのではないでしょうか。

④顧客離反防止への取り組み
パンデミックによる不可避な離反も発生しましたが、先の項目でも紹介したように10%割引の無期限宿泊券が販売されました。「お客様への感謝の気持ちを込めたお得なチケット」として売り出すことで、再訪が難しい顧客に対して、再度LAMPを訪れたいというモチベーション創出に寄与したのです。

コロナが落ち着いてからは、昨今のサウナブームも相まって予約が取れるのが数か月先というプランも発生しています。しかしながら「当日サウナチャンスボード」の取り組みやキャンセル発生時のお知らせをこまめに行い、顧客離反防止の取り組みを実現しています。直近ではLINE公式アカウントの開設により、リアルタイムの予約枠状況を知ることも可能になっています。

-野田クラクションべべー氏に話を聞いてみた

ここまではネットの公開情報のみに頼り、The Saunaの取り組みをまとめてきました。The Saunaは業界の最先端をリードする立場でありながら、臆せず数多くの情報を公開してきたことがわかります。しかしせっかくなので、野田クラクションべべー氏にも実情を聞きたいと思いましたので、長野まで足を運び、お話を伺ってきました!

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「The Saunaの顧客層は、基本的には首都圏からのお客さんがメインですね。学生というより社会人になってからの若い方の利用が目立ちます。完全貸切のサウナを作ったんですが、グループ需要も増えてますね。みなさん、グループ内で話をしながらサウナを楽しむ体験自体を求めてるみたいで」

「The Saunaから足が遠のいてしまったお客さんに対しては、それでも基本はSNSを見てくれてると思うので、そちらの発信は引き続き積極的にやっています。でもこないだのLAMPフェスは、本当に懐かしい顔ぶれの方も多かったので、また訪れていただくイベントとしてはうまくいったと思います」

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「リピートについてはポイントカード制度を運用してみたり、イベントもやってみたりしますが、基本はLAMPの体験全般を通して120 %満足頂くことを徹底してます。そうすると新規のお客さんが来たら、今度は友達も連れてきますー!って言ってくれて、今はそのループが起きてるという認識ですね」

「たとえばサウナが足りなくなったらサウナを作るとか、宿泊の稼働数を増やすためにトレーラーハウスを作るとか、お客さんの120%を作るために、LAMPとしては常に課題解決に取り組んでいる感覚です。予算を超える投資もありますが、それでも先の売上に繋がるイメージがあれば動いています」

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「でもサウナ事業単体で利益を上げるのってやっぱり難しいんですよね。サウナを作る時の初期投資額を回収するのに時間がかかりますし、裏を返すと投資回収の間は変化できないということとイコールだと思ってます。すると会社として変化ができなくなってしまうので、お客さんも飽きちゃいますし、箱物なんで他から真似もされますし、だから変化って必要なんです」

「LAMPは親会社から分社して今に至りますけど、世の中もお客さんも変化してますし、そのためには会社も変化が必要なんですよね。実際にいざ変化しようと思ってチャレンジすると沢山の失敗が出てくると思います。ただそれでも、変化のための数多く取り組みをやった方がいいと考えてます」

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「会社のビジョンとしては実は日本一や世界一よりも、まずは地域一番店を引き続き目指してます。地域一番店を作るのって実はすごく難しくて、会社として売上を上げて存続させるだけではなくて、街の農家と契約したり、時には利益度外視で地域に投資をしたり… 地域そのものがコンテンツとして循環する仕組みを作らないと、本当の意味での地域一番店にはなれないなと」

「最後に120%の顧客満足度については、120%のサービスに必要な要件を分解して、いつもメンバーと議論しています。だけどお客さんに120%の満足度を提供するためには、メンバーの満足度も重要なんですね。例えばチームの風通しを良くしたり、環境面では育児復帰や託児所の環境を整備したり…メンバーにとって働きやすい、一生居たいと思える会社にしたいですね」

Tha Saunaから学んだ顧客戦略の気付き

『顧客起点の経営』ということで会社経営方針まで踏み込み、野田クラクションべべー氏にお話を伺ってきました。顧客満足と言ってもメンバーレイヤーでコミュニケーションを強化するという範囲に留まらず、会社の経営レイヤーから顧客の声を聞き、事業方針を決定していることが伝わってきます。

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こちら冒頭の図式を再掲したものになりますが、経営および財務活動に至るまで、顧客戦略が連結していることが『顧客起点の経営』に他ならないのです。そのためにはメンバーやマネージャーレイヤーのみならず、経営レイヤーでも顧客の声を知り、WHO&WHATを整理し経営を遂行しなければなりません。その他、The Saunaの顧客戦略を通じての気付きを以下に記します。

気付き① 顧客の要望を踏まえて変化し「適切な投資を行う」重要性
サウナ施設等の箱物ビジネスは一度作ってしまうと、後で大きな変化を加えることは困難になります。野田クラクションべべー氏の談話にもあるように、初期投資回収に時間を要するほど、身動きが取れなくなります。初手から完璧に作り込んでしまった場合、後からの変化は容易ではありません。

The Saunaはオープンの頃から建設予算はクラウドファンディング、物価高の今では考えられない費用感で1号棟が建造されました。そしてサウナ1棟の月間回転数が上限を迎えてから、初めて2号棟の建造に着手しているのです。2号棟についてもいきなり取り掛かるのではなく、コロナ後の営業自粛や顧客におけるWHO&WHATの変化を見届ける等の手順を踏んでいます。

サウナの世界も日に日に競争が激しくなり、競合優位性を確立したい目的で初手からフルに投資を行いたい気持ちはわかります。しかしながら社会や顧客の変化は大きいため、変化に適応でき可変性のある事業方針に切り替えた方が賢明ではないでしょうか。

気付き② 「顧客の声をダイレクトに聞き」事業に反映する重要性
サウナ施設は、例えるならECサイトやTo B事業とは異なり、顧客の声をより直に触れることができるビジネスです。サウナ事業単体で利益を上げることが難しいというのは前項でも取り上げました。ゆえに顧客の変化に敏感になり、その特性を活かさなければ、経営自体も覚束なくなってしまいます。

冒頭で紹介した動画では「顧客を知るには20名のロイヤルユーザーの声を聞け」とあります。The Saunaのスタッフは顧客に対して尋常でないレベルで声をかけコミュニケーションを試みるので、20名どころではなく、数百名~数千名規模の声が、彼らの身体に刻み込まれているのではないでしょうか。

動画の中で西口氏は「20名の声を知るとだいたい見えてくる」と話されていますので、The Saunaチームのようなコミュニケーション環境は難しくとも、まずは着手できる範囲で20名の声を聞いてみるのはいかがでしょうか。

気付き③ 顧客のロイヤル化以前に「ファンをつくる」ことの重要性
新規のお客さんが来たら「次は友達も連れてきます」という連鎖が起きているということを、野田クラクションべべー氏は述懐していました。リピーターが次のお客さんを呼ぶフェーズまで到達すると、新規集客に力を注がずとも、顧客満足度を最大限引き上げることに集中できる状態を生まれます。

どうすればこのフェーズにたどり着けるのか。そのためには「作ったものが誰に届き、どう楽しませ、どう感動させるのか」を考えることが出来ているか。顧客別のWHO&WHATを掘り下げ、HOWをいかに便益として届けられるか、突き詰めることに他なりません。リピートはあくまで結果なのです。

今この瞬間、あなたが経営している事業には果たしてどれだけのファンが実在しているのでしょうか。あるいはユーザーとして普段訪れている施設に、ファンであることの要素をどれだけ見出すことができるでしょうか。事業における収益性の観点も重要ですが、それ以前にファンとは何か、思案してみると新たな気付きが得られるかもしれませんね。

最後に

『顧客起点の経営』の観点からThe Saunaのファンづくりに迫るという、新たな試みでnoteを執筆してみましたが、いかがでしたでしょうか。こちらのnoteを読まれていらっしゃる方はおそらく社会人であり、さらには何かしらのビジネスに取り組まれてらっしゃるかもしれません。

主にはサウナ事業者に向けた内容になりますが、経営者やマーケティング従事者の方にも目を通して頂き、事業運営において何かしら参考になりましたら幸いです。最後に記事作成にあたりご協力頂きました皆様、深く感謝を申し上げます…!

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