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渡米3日目 カタツムリみたいなペースで

ボストンでホテル暮らしを続けながら、新生活を立ち上げるための準備を進めている。だが思うように進まない。昨日銀行を契約したまではよかったものの、まだ携帯は未契約。子ども達の公立学校への入学手続きに加えて、フルブライトへの報告、エマーソン大学の手続きと、こなさなければならないタスクが多い。家族4人でホテルの一部屋を共有し、かつ大量のスーツケースを広げ出すと、足の踏み場もない。圧倒的にアウエイを感じる環境だ。

契約したアパートに少しは早めに入居できるかもしれないと一縷の望みを抱いて、少しでも早めに新生活のセットアップができたらと一週間前にやってきたのはいいものの、結局入居できるのは来月頭から。ホテル暮らしも一日300ドル近くかかってままならない。疲労と時差で体調が優れない妻、テレビに見入っている次男、ゲームに熱中している長男。様々な音が飛び交うカオスのような空間で作業も捗らず、まるでカタツムリのようなペースでしか進まない様々な手続き・・・。子ども達を現地校に通わせるには、不動産契約に加えて、電気やネット料金を支払っている証明が必要となるが、その契約も勝手がよくわからない。関係各所が動いている平日のうちに様々な手続きを終わらせてしまいたいのに、ほとんど手続きがオンラインに集約された慣れない異国の地で、慣れない作業をホテルの一室で進めているとイライラがピークに達してしまった。

ふー。よくないよくない。大丈夫、大丈夫。ちょっと落ち着こう・・・。

このままホテルにいても精神衛生上良くないと、作業を一時中断して、子ども達の現地校入稿の采配を司るブルックラインの公的機関(Public School of Brookline、通称PSB)を午後は直接訪ねてみることにした。

小雨の中をホテルからGovernment Center駅まで家族で歩き、地下鉄の切符の買い方に戸惑っていると、駅の案内員らしき男性がついてきなさいといって、案内してくれた。慣れない僕たちがよほど頼りなく見えたのか、切符も免除してくれたらしい。Dラインに20分ほど乗っていると、レッドソックスの球場があるフェンウェイ駅を過ぎたあたりで、電車が地下から地上に上がった。一面の緑が広がる落ち着いた住宅地。話には聞いていたが、ここがブルックラインか。僕は一眼でその街の佇まいが気に入ってしまった。かつてJFKが育った街に、親近感を覚えた。

PSBのオフィスを尋ねると、やはりオンラインで登録してから、詳細を判断しますの一点張りで何も進展はしなかった。しかし、街の空気を肌で感じられたことは今日は昨日より少しだけ前進したとも言える。長男がふと「僕がイメージでいたアメリカとは違う」といった。子供達は初めてみるもの、音や匂い、そして五感全てを使ってこの新たな環境を感じている。

たとえカタツムリのようなペースでも、前進し続ければいい。敢えてコンフォートゾーンを捨ててやってきたのだから。この世界の地図の上に、自分たちの行動範囲を日々少しずつ広げて、1センチでも1ミリでも日々自由を獲得するための旅を続けばいいじゃないか。

帰りがけに街角でT-mobileとVerizonの店舗に立ち寄り、どのキャリアの携帯を使うか検討し、シェイクシャックでバーガーを家族全員で頬張ってから夕方ホテルに戻るとまるで錆びた電池が切れるように1秒で眠りに落ちた。

そのまま泥に帰ったように眠り、次に起きたのは21時。家族もやはり全員眠っていた。そして深夜1時すぎに再び目を覚ますと、午前中に一度切り上げた地道なオンラインの作業を再開。子供達の入学に必要な情報をゆっくり着実に入力していくと、知らなかったこちらの学校の仕組みなどが徐々にわかってきて発見もあり、段々楽しくなってくる。

忘れていた単語を思い出したり、ボキャブラリーが増えていくも楽しいし、生活に必要な社会の仕組みがわかってくることも楽しい。全ては創作のヒントになり、新たな作品につながっていく。

「必要なことをするために、必要な時間を用意しする」昔、大切な友達が僕にそのことを教えてくれた。面倒くさいことから逃げずに、全てを楽しめばいい。そして、この体験を通じて、僕もまたこの歳にして、人間的にもひとまわり成長すればいい。必要なことをやるために、必要な時間をかける。そのためにアメリカに来たのだから。

今はカタツムリのようなペースかもしれない。でもできることとひとつひとつ着実に形にしていけばいい。何者にも揺るがずに。巨大な象のように、犀のツノのようにゆっくり、でも確実に進め。ふと浮かんだのは、そんな言葉だった。

DAY3 20230825金3025-3149


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