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熱波師には「漢」のイメージがある

錦糸町の楽天地スパに行った。私はスーパー銭湯が好きである。さいきん医学に基づいたサウナの入り方を学んだので、試したいと思った。

サウナへは以前の職場の宮田さんと行った。宮田さんはのぼせてしまうので、浴室には長く滞在できないという。あとセッカチだから早く上がりくなるともいう。

サウナ(前菜)→水風呂(メインディッシュ)→外気浴(デザート)を4セット。これが医学に基づいてサウナの入り方だ。これ以外に私は大浴場も楽しまなければならない。ざっと見積もって浴室に2時間は滞在する。

我々は現地で待ち合わせる運びとなった。私が早めにサウナに入り、時間差で宮田さんが入ってくる。そうすれば浴室を出る時間は同じになる。待ち合わせ場所は駅ではない、楽天地スパの浴室だ。そこに私は「粋」を感じた。

錦糸町の楽天地スパには「熱波師」がいる。熱波師とは大きなうちわやタオルを使い、サウナ客を仰ぐ従業員である。

熱波師は登場時間が決まっていた。登場スケジュールが浴室の入り口に貼っている。私はスケジュール表を見なかった。浴室に時計があったとしても、メガネがないので何も見えない。浴室の私には時刻を知る術がない。熱波師との遭遇は運に任せた。

予定通り最初は私ひとりでスパを楽しんでいた。着々と大浴場を楽しみ。それから医学に基づいてサウナに入った。

3セット目のサウナに入っていると、サウナが妙に混んできた。しばらくすると赤いTシャツの男が2人サウナに入って来た。今日の私は運が良いようだ。熱波師の登場である。

熱波師は浴場の客に、「これからしばらくサウナへの新たな入場が出来なくなる」旨を伝えた。それからサウナの客に向かってそれぞれが自己紹介をした。サウナ中に喝采が巻き起こる。

熱波師はアロマを焚き始めた。それから一方がタオル、一方が巨大なうちわで客を仰ぎ、次々と客に熱風をぶつけて回る。熱風は私の裸をくすぐり通り抜ける。熱風にくすぐられ、身体が一瞬ゾワッとする。

確かに風は熱いのに、私の脳が「ゾワッ」を「涼」だと認識する。熱風が通り抜ける瞬間、涼と熱が両立する。

ひと回りした熱波師は客に「おかわり」の要望を聞いた。私は「ピン」と挙手をした。他の客も全員ピンと挙手をしている。

熱波師が再び仰ぎ回る。そのときサウナの扉が開いた。浴場の客が、誤って入ってきてしまったのだ。その客は「なんだ?なんだ?」と茶化すような声を上げ、ヘラヘラと浴場に戻っていた。

たぶん調子に乗っている大学生だろうと私は推測した。

熱波師たちは大学生をまったく無視して熱波を生産し続ける。そして全員におかわりを配り終え、挨拶して出ていった。実に硬派だ。サウナは再び喝采に包まれる。私も良い気分でサウナを出た。

サウナを出ると私を呼ぶ声が聞こえた。声の方向に目をやると、泡だらけの宮田さんが風呂椅子に座っている。身体を洗っている最中だった。

「お前めっちゃピンと手挙げてたじゃん」

大学生の正体は宮田さんだった。宮田さんもまだまだ若いと思った。

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