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連載終了とスクープ

こんなことは書きたくないのだが、未来のジャーナリストとこの国の将来のために、書き残したい。

7年ぶりに『週刊SPA!』での連載を再開した。五輪汚職と五輪談合。自画自賛するようでかっこ悪いが、再開当初からスクープの連発だった。検察の狙い、家宅捜索、逮捕者、企業の動き、さらには政治の反応。面白いほど報道の通りに進行し、同時進行ドキュメントとしては、最高の出来となった。

スクープ連発の理由は簡単だった。筆者は20年近く同テーマで取材を続けており、当時からの情報源が改めて教えてくれたり、部下を紹介してくれたり、取り調べ内容を漏らしてくれたりしたからだ。当時と違うのは、ソースらが、実名のコメントを許してくれたこと、それは連載するにあたり、きわめて大きな力となった。

ひとは本名を出して答える際には「嘘」をつきにくい。ましてや自身にとって不都合になる可能性のある証言に関する場合はなおさらだ。慎重に、事実に即してコメントするように心がけるものだ。筆者が、ソースの実名主義にこだわるのは、長年のジャーナリズム生活でのポリシーもあるが、こうした人間の性(サガ)という面もある。

一方で、未だに日本の報道においては、〈わかった報道〉〈関係者報道〉が横行している。ともに筆者の造語であり、拙著『ジャーナリズム崩壊』で示した問題点だが、15年経ったいまも改善の兆しすらみえないのは残念なことだ。今回の五輪汚職報道や五輪談合報道でもその傾向が変わらず、むしろアンフェアな匿名報道が増しているような気がする。

実名コメントについては、当時は現場の中心にいて、家族や仕事上の立場から匿名に限っていた者が大半だったが、いまは違う。20年も経つと現場を離れたり、引退したり、あるいはまた鬼籍に入られる者もあらわれ、考え方や対応も変わってくるのだろう。

しかし、変わらないのはマスコミや記者や同業のジャーナリストたちだ。これだけの報道を続けながら、一社たりとも、いやひとりたりともこの連載に触れることはなかった。それはなぜか。簡単である。彼らがお世話になっているマスコミが、スポンサールートも談合ルートも共犯関係にあるからだ。

とりわけ、東京地検が談合ルートに着手してからはひどい。一か月経過するが、この未曽有の大捜査について触れたのは、4社程度である。ジャーナリストもわかっておらず、捜査が終了したと思っている。真摯に捜査をしている東京地検への同情を禁じ得ない。

きょう、マスコミは、昨年中に筆者が『週刊SPA!』誌上にて、実名で報じていた組織委員会の元次長が立件されると一斉に報じた。この国のメディアは、こうした横並びの不健全な報道姿勢をいつまで続けるのだろうか?20年付き合ってきて、心の底からうんざりしている。

おそらく、検察人事のある今年度中には、官製談合による大物の逮捕となるだろう。この最高のタイミングで、週刊SPA!の連載は終わる。いや、そもそもウェブにも転載されず、一切の反応もさせないというのは、哀しいかな、日本のジャーナリズムの限界なのだ。

『週刊SPA!』には一切恨みはない。むしろ連載を復活させてくれた感謝があるのみだ。じつは、「これから」という時に連載の場所を変えることを報告しなくてはならないのが申し訳ない限りなのだ。

ここで初めて明かすが、次号から、五輪談合追及の連載は『ZAITEN』に移る。こちらも3年ぶりの連載再開である。五輪の汚職を糺す前に、日本はメディアの不正をどうにかした方がいい。さもなくば、この国にジャーナリズムが還ってくることは永遠になくなってしまう。

学閥を中心としたお仲間だけでのマスコミスクープは断じて真のスクープではない。すべての日本人のリテラシーが高まり、まともな情報に届くよう祈らざるを得ない。

https://www.mag2.com/m/0001112241  
https://theory.ne.jp/uesugitakashi/  
https://op-ed.jp/mail-magazine  
https://ch.nicovideo.jp/uesugi


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