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【エンリル】ノアの方舟の元ネタ!サイコパスすぎて大洪水で人類を滅亡させようとした話【シュメール神話】

どーも、たかしーのです。

今回は、シュメール神話に登場する『エンリル』について、書いていきます!

これまでサイコパス神として、スサノオを書いたことがありましたが、

エンリル』は、スサノオをはるかに超えるサイコパスさでした…。

※この記事には、現代の倫理観では不適切な内容も含まれておりますが、神話のヤバさをお伝えするため、内容をあまりボカさずに書いております。何卒ご理解のほど、宜しくお願い致します。


そもそもシュメール神話とは?

シュメール人が創造した神話

シュメール神話」とは、チグリス・ユーフラテス川の下流域に居住していたシュメール人が、世界で最初に登場した文字である楔形文字を使って粘土板に刻んだ神話や叙事詩のことを指します。

楔形文字が刻まれた粘土板(wikipedia)

世界四大文明であり、人類最古の文明でもあるメソポタミア文明の基礎を築いたシュメール人の世界観は、後世のメソポタミアやバビロニア、そしてギリシア神話に大きな影響を与えたと言われています。

↓ そんなスゴい「シュメール人」については、こちらをどうぞ。

都市国家の登場により形成された多神教の神話体系

シュメール人は、世界で最初に都市国家を築いた民族としても知られています。

今から約4700年前(紀元前2700年)までには、ウル(Ur)、ウルク(Uruk)、ラガシュ(Lagash)など20もの都市国家を、メソポタミア南部に形成するようになりました。

さらにシュメール人は、それぞれの都市の中央に「ジッグラト」と呼ばれる塔を作るようになりました。

ウルのジッグラトの復元図(wikipedia)

この塔に、その都市を守護する神が祀られるようになります。
これを言い換えると、シュメール人は都市ごとに、それぞれオリジナルの神様を祀っていたことになります。

ところで、なぜこのような大きな神殿を築いたのか?ということですが、これはシュメール人が王を中心とした神権政治を行っていたためです。

神権政治とは、権力者が神またはその代理人として権力をふるう政治のことを言います。具体的には、権力者が「私は神の子孫である」と自称し、神の権威の下、国民を一つにまとめて、統治する手法のことを言います。

元々は神官(シュメール語では「エン」と呼ぶ)が、神の権威を借りて、都市国家の権力を握っていましたが、やがて武力や資力を持った(シュメール語では「ルガル」と呼ぶ)へと支配権力が移ることとなります。

そして、都市国家に王が登場すると、都市国家同士で抗争が勃発し、征服したり統合したりといったことが発生するようになりました。

これにより、それまで都市国家ごとに信仰していたオリジナルの神様が、征服や統合を繰り返すことで、他の神様と同一視されたり、親子兄弟関係などが生じるようになりました。

シュメール人は、日本と同じ多神教の神話体系を持つ民族ですが、こうした背景から形成されたんだなと考えると、とても面白いですね。

↓ 「日本の神話・伝説」については、こちらでまとめております。

世界を創造したシュメールの神々

こうした背景から、シュメールの神々には、それぞれ守護する都市国家があります。言い換えると、それだけ信仰が厚かった都市が、シュメールの神々が守護する都市に指定されているということになります。

シュメール人の信徒
by Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg)(wikipedia)

また、諸説ありますが、シュメール神話では、最高神であるアン、その息子であるエンキエンリル、大地の女神であるニンフルサグの4柱の神々が協力して創造を行ったとされています。※3柱の説話もあります。

アンは、主にウルクで信仰されていた神様で、アッカド語では「アヌ」とも呼ばれています。元々は「」を意味する普通の名詞だったようです。

エンリルは、主にニップルで信仰されていた神様で、「エン(主人)」と「リル()」の合成語であろうと考えられており、おそらくは風神であったと推測されています。

エンキは、主にエリドゥで信仰されていた神様で、「エン(主人)」と「キ(盛り上がった土)」の合成語であろうと考えられており、地の王(もしくは地下の王)であったと推測されています。

ニンフルサグも、主にエリドゥで信仰されていた神様で、「ニン(貴婦人)」と「フルザク(聖なる山)」の合成語であろうと考えられており、山の女神であったと推測されています。
ちなみに、諸説ありますが、ニンフルサグはエンキの妻とされています。

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の経典の元ネタ

シュメール神話は、アブラハムの宗教、すなわちユダヤ教・キリスト教・イスラム教の経典にも絶大な影響を与えています。

代表的な説話としては、旧約聖書の「ノアの方舟」へと継承された「大洪水伝説」があります。

実際、シュメール人が遺した粘土板には、大洪水があったという記述が遺されています。

また、先ほど書いた「ジッグラト」ですが、神殿を祭る以外に、洪水が起きたときの避難するための高台としての役割も担っていたと考えられています。
※シュメール神話の「大洪水伝説」については、のちほど詳細を書くことにします。

サイコパス神「エンリル」の伝説

シュメール人が考える天地開闢

さて、シュメール人は、世界の創造をどう考えたのでしょうか。

そもそも、シュメール人は、世界は閉じたドーム状であると考え、その外には原初の海が広がっていると考えていました。

このドーム状の空を司る神アン地上を司る神と呼んでいました。また、原初の海はナンムと呼んでいましたが、アッカド人であるサルゴンに支配された後、シュメールで再び興ったウル第三王朝の中では、ティアマトと呼ばれるようになりました。

↓ シュメールを支配したアッカド人「サルゴン」については、こちらをどうぞ。

アンとキは夫婦なのですが、この二人が最初に産んだ神が『エンリル』です。なので、ここから「天」と「地」が交わって「風」が産まれたと、シュメール人が解釈していたことが伺えます。

そして、このエンリルが産まれた際に、 天地開闢てんちかいびゃく、つまり、天と地が分かれたとされています。

これは、巨人の盤古が1万8千年かけて 天地開闢てんちかいびゃくした中国神話と内容が全然違いますね!

↓ 中国神話における「盤古」が 天地開闢てんちかいびゃくした話については、こちらをどうぞ。

ですが、このエンリル。
この後のエピソードからもわかる通り、かなりサイコパスな神様として、シュメール人から語り継がれることになります。

風神 エンリル
by Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg)(wikipedia)

エンリル、秒で冥界に追放される

エンリルは、最高神アンの息子ということもあり、シュメールの神々の中でもリーダー的な存在として、成長することになります。

しかしながら、エンリルは、そんな存在でありながら、ディルムンという地で家族とともに暮らす女神ニンリルを嫁にしたいと、あろうことか、強姦をはたらいて、受胎させてしまいます…(おいおい…)

その結果、エンリルは、他の神々から強姦の罪に問われて、逮捕。
住んでいた天界を追放され、冥界へと落とされることとなりました。
(なぜかこのあたりはスサノオと似ているんだよな…)

↓ サイコパス神「スサノオ」については、こちらをどうぞ。

ところが、あろうことか、被害者であるはずのニンリルも、なんとエンリルの後を追って、自ら冥界へと旅立つことになります。
(このあたりは、イザナミに会うために、黄泉の国にイザナギが向かう話と似てると言われれば、似ているかも…)

一方、冥界に追放されたエンリルは、冥界の門番にこう告げていました。

エンリル「もしニンリルが冥界までやってきても、絶対にワイの居場所は教えたらアカンでー!」

ですが、この門番が信用ならなかったのか、エンリルは正体を隠すために門番に姿を変え、ニンリルが来るのを待つのでした。

すると、エンリルを追って冥界にやって来たニンリルは、

ニンリル「エンリルが来ているはずなんだけど、どこにいるのかしら?」

と、門番のふりをしたエンリルに問いかけます。

もちろん、エンリルはその問いに応じようとはしません。

なので、何も答えない門番に対して、ニンリルは続けて…

ニンリル「私のお腹には、エンリルの子供がいるんですけど!」

と、エンリルに会いたい理由を必死で訴えます。

これを聞いた(門番のふりをした)エンリルは、

エンリル「その子は、月の神やで。せやから、いずれは天まで上がっていくことになるわ…。せや、天へ行くエンリルの子の代わりに、ワシの子を(すなわち「」)へ行かせたろ!」

と言って、エンリルはニンリルを誘い、あろうことか、冥界でもニンリルを強姦してしまったのです…(はい??!!)

ちなみに、最初にお腹にいたお腹にいた子は、エンリルが言っていた通り、のちに月の神ナンナとして産まれることになります。

月の神 ナンナ(中央)by Jastrow (wikipedia)

そして、門番のふりをしたエンリルとデキてしまった子は、のちに死の神ネルガルとなります。

死の神 ネルガル(wikipedia)

さらに罪を重ねるエンリル

ですが、エンリルの強姦は、これだけでは終わりませんでした….。(????!!!!)

今度は、冥界の川である人食い川にやってきたニンリルに、川の近くにいた人のふりをして近づき、通算3度目の強姦

これにより、デキてしまった子が、医療神ニンアズとなります。

さらには、人食い川を渡るため、渡し船に乗ったニンリルに、船頭のふりをして近づき、通算4度目の強姦!!

これにより、デキてしまった子が、川と運河の神エンビルルとなります。

このように、冥界に来てもなお、罪を重ねまくったエンリルですが、奇妙なことに、この神話のラストは延々とエンリルを褒め称える言葉が続いて、結ばれています。(一体どこに褒める要素があったのか…)

ところで、なぜこんなにエンリルは冥界に来てもなお、ニンリルを孕ませ続けたという謎ムーブの理由なんですが、これはエンリルがニンリルやお腹の子ナンナとともに、冥界を脱出するためだったと考えられています。

冥界へ下りた者が再び地上へ戻るためには「対価として身代わりを用意しなければならない」というルールがあり、一計を案じたエンリルは、エンリル自身・ニンリル・ナンナの3人に変わる犠牲を用意する必要がありました。

それゆえ、冥界でデキた子供たち(ネルガル・ニンアズ・エンビルル)は、そのまま冥界に置き去りにされ、その後、冥界の神になることを余儀なくされてしまうのでした。

そう考えてみてみると、門番のふりをしたあたりから、エンリルは「よっしゃ!冥界から出られるぞ!」と思いつき、ウキウキしながらコスプレをしていたのかもしれません...(恐ろしい…)

エンリル「せや、大洪水起こして、人類滅ぼしたろ!」

その後、めでたく月の神ナンナを産み、そのナンナはニンガルという女神と結ばれ、そこから太陽の神ウトゥ金星の神イナンナが産まれることになりました。

このように、神様と神様が神様を産み…とだんだんと数が増えてきたため、シュメールの神々は食糧難に悩まされる事となりました。

この問題を解決するため、最高神アンの子であり、エンリルの弟でもある知恵の神エンキが、自分たちの代わりに労働力となってくれる人間を創造します。つまり、人間は神々に供物を与えるものとして、神話に登場するのです。

知恵の神 エンキ(wikipedia)

これにより問題は無事に解決をしたのですが、しばらくして、神々のリーダー的存在であるエンリルが、こう思いつき、皆に告げました。

エンリル「人間増えすぎだし、滅ぼしちゃおうぜー!

あろうことか、エンリルは地上に大洪水を引き起こして、人間を全滅させることを決定します。(冥界から帰ってきたかと思えば…)

ちなみに、この決定の理由が、粘土板の破損により失われて明らかになっていないのですが、きっとサイコパスな理由には違いないかと思われます。

そして、当然ながら、この決定にエンキはブチキレます

ですが、エンリルはこの決定を曲げようとはしなかったので、エンキはシュルッパクという都市国家の王であったジウスドゥラに、エンリルが大洪水により人類を全滅しようとしていることをチクります。(ナイス、エンキ!)

そして、エンキは、大洪水を逃れるため、大きな船を作るようにと、具体的な指示も下します。ここら辺が旧約聖書の「ノアの方舟」の元ネタとされる説話になります。

それから、エンキのお告げどおり、地上には大嵐が吹きすさび、大洪水が7日間も続くようになります。大きな船を作って備えていたジウスドゥラは、無事に生き残ることができました。

その後、ジウスドラは、大洪水がおさまったのち、神様が起こした災害であるにも関わらず、アンとエンリルに対して、供物と祈りを捧げます。

この献身的な行動が効いたのか、アンとエンリルはジウスドゥラに「永遠の生命」を与え、遥か東方に位置する海の彼方の地ディムルンへ住まわせることにしました。

このディムルンは、女神ニンリルが住んでいた地としても出てきましたが、シュメール人における「エデンの園」と考えられていたようです。
※というか「エデンの園」も、こちらが元ネタか…。

エデンの園(エラストゥス・ソールズベリー・フィールド画)
(wikipedia)

また、このシュメールの大洪水伝説ですが、のちにバビロニアに取り込まれ「ギルガメシュ叙事詩」にも登場します。

不死になることを求めて、ウトナピシュティムに会いに行くといった話があるのですが、このウトナピシュティムがシュメール神話というジウスドゥラにあたります。

↓ 「ギルガメシュ叙事詩」のあらすじについては、こちらをどうぞ。

なお、ギルガメシュが不死を求めるきっかけとなったエンキドゥへの死の宣告ですが、この宣告を行ったのも、実はエンリルなのです。(どこまでサイコパスなんや…)

おわりに

今回は、シュメール神話に登場する『エンリル』について、書いていきました!

度重なる強姦、大洪水で人類滅亡未遂、気に入らないから死の宣告…。

かなりのサイコパスみのある神様であったことを、この記事で感じていただけると幸いです。

そういえば、エンリルは風神とされていますが、同じくスサノオも風神とされています。風は、時として嵐となり洪水を引き起こすので、こうした荒々しい性格の神様として、神格化していく傾向がどうもあるようです。

ですが、嵐が過ぎ去ったあとには、大地に水をもたらし、作物が育つ土壌を与えてくれるといった恩恵にもつながるので、これだけの災害を与えられても、信仰の対象として、語り継がれていったのだと思いました。

他にも、歴史上の人物神話などをベースに、記事を書いていく予定ですので、是非フォローなどしてもらえるとありがたいです!

それでは!

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