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歌謡曲レコード その10 スカイレストラン(75)/ハイファイセット 物語がある歌詞と、物語る歌唱。

森川七月、柴田淳、ギャランティーク和恵。同じ時期に偶然この3人がそれぞれのステージでカバーしているのを見聞きし、「どこかで聞いたことあるなぁ」とずっと引っかかっていた。

ハイファイセットがオリジナルということを程なくして知ったのである。そしてということは....と思い作詞者を見るとやっぱり、ユーミンだった。

「出がけには髪を洗った」「あなたへの恨みも消えた」こういうフレーズは瞬時にしてユーミンだとわかる。日常の仕草を切り取ったフレーズではあるが、いざ文字に起こそうとすると出てきそうで出てこない言葉。この歌にはこういう印象的な、でも押し付けがましくないフレーズがたくさん出てくる。ユーミンだからこそ紡ぐことのできる「らしい」言葉である。

この曲の出会いから一連の事象がとある1ヶ月の間にダダダダと起きた。これは曲の持つ吸引力によって引き寄せられたに違いない。そう思えるほど偶然が重なり、忘れられない音楽体験の1つとなった。

75年にリリースされたハイファイセットの「スカイレストラン」。

作詞は荒井由美、作曲は村井邦彦。この村井氏はアルファレコード(大好きないしだあゆみのアルバム「いしだあゆみ」を発売したレコードレーベル!)の創設者で、日本の音楽業界の大御所といわれている人である。

余談だが、御子息は映像クリエイターで、チャイルディッシュガンビーノの「This is america」のMVでグラミー賞の快挙を成し遂げたのだが、あまり日本ではニュースにならなかったのが残念。

そんな御大ふたりが手掛けた「スカイレストラン」はデビュー4曲目のシングル。次が「冷たい雨」、第7弾シングルが「フィーリング」といったハイファイセットの代表曲がリリースされる前であることを考えると、初期の隠れた名曲といえると思う。

この曲を印象づける要素のひとつにイントロがある。靄の中から出現するボーカル・山本潤子の豊かな表現はグラデーションのようにたおやかで、洗練された歌唱の頂点とでもいおうか。一声聴くだけで気持ちがリラックスする彼女の声はグウープの要であることを決定的に印象づける。さらにコーラスワークとしての役割りにも長けているのが、真のヴォーカリストであることの証明になっているのだ。

70年代特有のモノラル感がまたいい。3次元ではなく、2次元の表現が十分なのだ。美しい本をめくりすすめているような感覚。物語がある歌詞と、物語る歌唱。どちらの豊かさが重なり極上の1曲として、今日もわたしの中で響き渡るのだ。

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