南青山と呼ばれた猫
南青山という名前の白猫がいました。
生まれは北青山で、流れ流れて南青山へやって来たのが数ヵ月前。
先住猫たちは皆、彼女を南青山と呼びます。初めて会った日に彼女自身がそう名乗ったからです。
ところがなぜか白猫は、南青山と呼ばれるたび怒り出すのでした。
「南青山じゃないもん」
だって自分で言ったじゃニャい。
「南青山じゃなくて〜、あたしの名前は南青山」
え?
何度聞き返しても白猫は南青山と名乗ります。
だからぁ南青山でしょ。
違うの、南青山なの。
だからぁ(以下繰り返し)
そんな押し問答が続いたある日、向こうから黒猫が駆けてきました。黒猫は白猫の幼なじみで、北青山からはるばる訪ねてきたのです。
「美奈〜っ」
美奈?
「そうよ」と白猫。「あたしの名前は美奈。美奈ミャオ山」
ミャオ山‥‥
ミナミャオヤマ。
ミナミアオヤマ。
たしかに同じに聞こえます。あなたも声に出して言ってみて。
なぁんだ、そうだったのか。
ニャはははは。
そんな猫たちの会話を物陰からこっそり聞いていた人間がいました。
私です。
西暦2000年頃から南青山の片隅でデザイン事務所を営んでいる私は、猫たちの話を聞いて以来、人から住所を聞かれるたび「ミナミャオヤマ」と答えるようになりました。
「南青山ですか」
「はい、ミナミャオヤマ」
「どのあたり?」
「弁当屋の近くです」
誰も気づかないんすよ。
良かったらどうぞ、あニャたも。