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想像力というOS・優しく頼りないファイター

以前ツイッターでこのような一連の投稿をしました。

この気づきに至ったのは、猫山課長さんのnoteの以下の引用からです。

節目はただ通過するのではなく乗り越えるものであり、かつてのままでは乗り越えることができないのです。

節目を前にして強制的に成長を迫られる。そしてそれは今後定期的に発生する。

黒猫回:「若く見えます♡」と言われたら人生を見直したほうが良い理由|猫山課長|note

こちらの猫山課長のnoteをひどく雑に要約すると、だいたい以下の通りだと思います。

若く見られる人は、恋愛・結婚・出産等のいわゆる人生の節目を経験しておらず、そのようなイベントから強制される成長ができていない。
逆に、そのような節目を潜り抜けて来た人は大人として成長できているのだ。

ここから、ある仮説に思い至ります。
それは、大きな人生イベントを乗り越えた大人は皆、注視しなければ見落としてしまうような深みや魅力を持っているのでは無いか、というものでした。



私は現在43歳。
勤務先は家族の暮らす横浜から遠く離れた愛媛県で、国内では割と大きな支店の課長職のポジションです。
部下には、伸びしろだらけの20代や働き盛りの30代、支店長クラスまで経験し嘱託で働くベテランまで様々です。そしてその中には、中途で採用された所謂業歴の方々も混じっている。
その中に、周りから『この人ほんとに大丈夫か?』という仕事できないレッテルを貼られてしまった一人の50代半ばの職員がいました。

仕事を覚えるのが遅い。
パソコンの操作がぎこちない。オンライン会議でファイルの共有できない。
作成すべき書類がなかなか出てこない。
分からない事を抱え込み、周りのスタッフに質問する事ができない。
仕事を教えてもらっている時に、メモをとらない。
英語のポップアップを読もうとしない。英作文はグーグル先生だより。

どうでしょう。この人『ほんとに大丈夫?』って思うと同時に、あなたの職場にも似たような人がいませんか。

そしてよくある日本の企業よろしく、吐き出す仕事の量と質に比べて若手より多くの給与を貰っている。これでは、働き盛りの若手メンバーも到底納得はいかないでしょう。
成功報酬や歩合などない弊社です。
仕事を多くこなそうが、やるべき事に蓋をして適当にさぼりながら仕事をしようが、給料は年功序列で決まります。不手際をやらかしても(多少の賞与査定はありつつも)減給などは無いと言っていいでしょう。

これでは、当然若手職員の陰口の的です。
遅い仕事にイライラする元上司(私の前任)のあたりも相当きつかったと噂で聞きました。私も彼の上司として愛媛に赴任して来た当初は、やはりフラストレーションがたまる事も多かった。とにかく仕事を貯め込み、報告がほとんど無いのです。


あなたはそんな時、どんな感情を持ちますか?

歳だけとってそんな事もできないのか。
ホントに使えないな。
どうしてうちの会社はこんな人を採用してきて高い給料払ってるんだろう。
等と、無意識に見下していませんか。

職場の『使えないオジサン』を思い浮かべれば、いくらでも感想は出て来そうですね。


そんな時に、猫山課長さんのnoteを読みました。
仕事ができないできないあの人、お世辞にも若く見えるわけでは無い。
むしろ苦労が滲み出ている。
50代半ばの薄くなった頭髪は、既に白いものも多く混じっている。

家族は、ローンの残る地方のマンションに残し単身赴任中だったな。そういえば、先日は親の不幸に、忌引きをとって数日休んでいた。
息子さんは自動車関係の職場に就職し、数年前に親元を離れ一人暮らしを始めたとか。
大学生の娘さんがいらっしゃるが、その娘さんがまだ小さい頃に撮ったであろう写真を『私の娘です。もうすっかり大きくなりましたが。』と、少し古いスマホの写真フォルダから見せてくれた時の柔和な表情は印象的だった。

高校生の息子と小学生の娘のいる私の先を行く人生の先輩だ。
住宅ローンを払いながら遠くから家族を養う。
一人で暮らしていた年老いた父を、長男として遠くから面倒みながら、先日その役目はいよいよ終わったという。

よくある日本人の一生かもしれない。
あなたも辿る(もしくは既にいくつか辿った)普通の人生と言えるでしょう。

でも、その行間にはどれほどの葛藤があったのだろう。
どれだけの悩みや衝突や痛みを経験したのだろう。
歓喜の瞬間も何度も訪れていたはずだ。
奥さまとの出会い、結婚、少なくとも2度の出産。念願のマイホーム購入。

『仕事ができない』と見下すのは簡単でしょう。
隣人の人生など、基本的には私にもあなたにも何の関係も無ければ興味も無い。

それでも、そこには間違いなく彼だけの、誰にも代わる事のできないドラマがあった。人生を左右するほどの苦渋の決断があった。
侵されざる人生のきらめきがあり、安寧で充足した未来を望む権利がある。
セリフをプログラミングされた『ここはカザーブの町だ』などと話すモブキャラでは決してないのです。



職場におけるアウトプットとは、あなたの持つ億万とある経験のわずか十数パーセントの発現であると思うのです。

パソコン上のいろんなソフトを使いこなし、数字やデータを出入力しながら会社の利益となる戦略を組み立てる。
研修マテリアルや実務を通し様々なスキルを獲得しながら、時には人間関係を観察し自身のポジションを最適化するよう立ち振る舞う。

画期的な業務コスト削減のアイデアを提言したり、時事ネタにも詳しく資産運用の手法や経済にも明るい。

それは確かに優秀な人材と言えそうです。
元気が良く清潔感があり、見た目にしっかり気を配れるような人ならさらに周囲からの評価も高まる事でしょう。

それでも、

どんなに優秀と目される人材でも、他人への人格否定や陰口をする人と一緒に仕事をしたいでしょうか。
電話を切った瞬間に態度を豹変させる、立場が上の人にはあからさまに媚びへつらい、立場が下の人には横柄な態度をとる。
バックヤードを見下し、急に降ってきた業務には不満を隠そうともしない。


私の職場にいた『使えないレッテル』を貼られた彼には、そういう事は一切ありませんでした。
業務を吐き出す事にかけては圧倒的にスキルは足りていないように見える。
それでも、他者への敬意は欠かさない。
人の陰口をいう事も無ければ、感情の起伏も露わにしない。

こういう人ほど大事にしなければいけないと直観しました。
おそらく、上質なオペレーティングシステムを搭載している
そして、業務に関しては、前職でインストールされたアプリケーションが今の職場では十分なパフォーマンスを発揮していないだけだと推察されました。彼がそのパフォーマンスを発揮できる場所は必ずどこかにあるはずなのです。


彼のこれまでの人生を想像し、人生の先輩としての敬意を抱いた。
優れたOSは必ず業務改善を促していくはずだ。
そんな事を思うようになり、私は積極的に彼に話しかけるようになりました。皆は敬遠していましたが、飲みにも誘ったりしながら、もっと彼の事を知ろうと思いました。

やがて、そのアプローチは実を結びます。


あなたの職場にも、『仕事ができない人』と目される人物はきっといる事でしょう。限られた時間の中で結果を出さなければいけない。そんな競争のただ中にあって、自身の業務を吐けないどころか他人にまで迷惑をかけてしまう方と一緒に仕事されている方もいらっしゃると思います。

隣人を愛せよ、と言うつもりはありません。

自分の事で精一杯だ。デキナイこいつの過去なんかどうでもいいわ。

そういう思われるのも仕方ない事だと思います。
人間関係は複雑です。
閉塞感の広がる社会です。
他国の戦争はあなたの生活費を圧迫し、順調に積み立てていた投資信託はその値段を下げ始めている。
昨日も今日も、そしてきっと明日も、明るいニュースはそんなに多くない。

ただ、ここでひとつの考え方を提示したい。
思考の引き出しを増やして欲しい。

毎日職場で顔を会わすいけ好かないアイツ、今日も理不尽に怒る上司、仕事が遅いあの部下、彼らの人生を少しだけ想像してみて下さい。嫌いなものは嫌いだけれど、彼らにも尊重されるべき場所があり、そこを守るために誰もが必死に戦っている。否定され、見下される隣人など実はいないという事に気づくかもしれません。

誰とでも仲良くなんてのは無理です。
私も苦手な人は大勢います。
人格を否定してくるような人とは一緒に働きたくない。

それでも、思考の引き出しを持つ事が時にあなたを悩みから解放してくれる事があります。
目に見える事象はひとつだけれど、知識が増えれば、考え方が変われば、つまりあなたが変わる事ができれば、世界の見え方は変わるのです。

ここでは「勉強する」と言及していますが、事象の見え方という意味では桜のエピソードは腹落ちしやすいのでは無いでしょうか。



誰もが、自分の居場所を守り戦う戦士です。
あなたもそう。
悩みながら努力しても、成長しない(ように見える)自分に絶望し、後ろを向きたくなる事もあるでしょう。

仕事ができないレッテルを貼られた彼も、きっとそうだったかもしれません。それでも、彼の人生に思いを馳せた。いろんな話を聞いた。
そして分かりました。
彼は人生の荒波を乗り越えて来た強さを持ち、家族のために歯を食いしばって戦う優しいファイターでした。

始めは頼りなかったけれど着実に成長した彼は、この10月から新しい支店へと転勤していきます。

新しい環境で、さらに若い同僚と切磋琢磨していく事でしょう。
まだまだ業務スピードには難があります。始めはきっと、『仕事のできない人だな』と陰口を叩かれるかもしれません。
それでも、彼の深い魅力をもったOSはきっと人生を好転せしめるでしょう。
足りないアプリケーションはゆっくりインストールしていけばいい。

彼の魅力に気づけてよかった。
良い関係を築けて、本当に幸運だった。

遠くから彼の活躍の報を聞けるのを今から楽しみにしています。

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