見出し画像

勘なのか、それとも予知なのか。「AI予測」の可能性を考える。

「AIで需要や売上を予測したい」「AIで未来の消費パターンを予測したい」「AIで生産ラインの欠損率や歩留まりを予測したい」。AI開発を請け負う当社にはこうしたご要望も多く、AI予測に対して多くの期待が寄せられていることを感じます。ですが、AIは本当にこれらの事象を正確に予測することができるのでしょうか。

みなさん、こんにちは。株式会社Laboro.AI のマーケティング担当 和田です。AI(人工知能)について、できるだけわかりやすくお伝えすることを目指したコラム、4回目です。今回は、以前のコラム(こちら)でAIができることとしてご紹介した「認識」と「予測」の領域のうち、「予測」について考えてみます。

今回も技術的な内容はほとんどなく、「そもそも予測ってなんだっけ」といった根本的なところからAIの可能性を探っていきたいと思います。

画像1

AIでできる「予測」とは?

上の図は、当社でお客様から「AIって何ができるの?」と聞かれた際、簡単にイメージをつかんでいただくことを目的に作成した図です。AIで用いられる機械学習という技術をベースに「ある対象を認識すること(左)」と、「ある事象を予測すること(右)」が、AIがとくに得意な領域として示しています。今回のテーマである「予測」については、その活用例を周辺に置いています。(「認識」に興味がある方は、以前のコラム(こちら)をご覧ください)


例えば、

異常画像検知:大量の画像の中から異常と思われるものを予測&検出する。
      (生産ライン上で製品を撮影して検品する、など)

購買予測:顧客のこれまでの買い物傾向から、次に購入する商品を予測する
      (ECサイトでオススメ商品をレコメンドする、など)

・需要予測:市場動向などから、商品・サービスの需要を予測する
      (営業企画で需要予測&施策立案を行う、など)

・マッチング:2つのものの類似度から、適合度合いを予測する
      (採用での人と職のマッチング、恋愛マッチングアプリ、など)

こうして見ると「AIはやっぱり色んなことが予測できるんだ!」と思えてしまいます。ですが、少し冷静に見てみると、言葉は違えど、これらには共通する点があることがわかります。それは、「過去の傾向に基づいて予測している」ということです。

予測に必要な「過去の傾向」について、改めて考える

ものすごく当たり前なことを言ってしまいましたが、この点は実際に誤解や過大な期待が多いところでもあります。AI万能論のようなイメージが先行してしまっていることが背景にあるからだと思いますが、「過去のデータはない(あるいは限られる)が、AIで予測してほしい」というお声は少なくありません。

ですが、これまでのコラムでもお伝えしていますが、AIと言っても「人工知能」という脳の形をしたSFなロボットやシステムが存在するわけではなく、その正体は統計学を基礎とした計算式でしかありません。そのため、計算するものがなければ答えが出てくることは残念ながらありません。また、たとえデータがあったとしてもそれが限定的なものや偏ったものであれば、出てくる答えも当然ながら偏った回答になるというのが、実際のAIです。

それを体感いただくため、具体的な例で考えてみます。例えば、比較的ご要望も多い部類のものですが、次月の営業施策の立案業務を完全自動化させるため、需要予測システムの開発を考えてみます。この際、どのようなデータをAI(=計算プログラム)に計算させればよいでしょうか?

通常こうした施策立案は営業企画部署の方などが頭を悩ませながら進められているわけですが、そこで用いられるデータは使えそうな気がします。過去3ヶ月の売上実績、昨年同月の販売実績、予定されている製品供給量などが思いつきます。完全自動化にはこれだけでは足りそうもありません。客足に影響する休日日数(カレンダー情報)、天候情報、近隣のイベント情報なども必要そうです。このご時世であればコロナウイルスの感染拡大の状況も踏まえる必要があるかもしれません。ですが、これでも完全自動化は難しそうです。足りないのは営業戦略的な情報でしょうか。来月の営業施策(報奨金やリベート)、同様にライバル他社の営業施策、販売員のシフト体制、スタッフ一人ごとの販売力・・・。

画像5

予測の段階に応じた情報が必要

すでにお気づきと思いますが、これらの情報にはそもそも入手が不可能なものや、計算式に落とすための数値化が不可能なものがあること、また、それぞれがどれくらいの割合で需要に影響するかが判断できないことが明らかです。

ここではあくまで完全自動化を目指したためにこうした極端な考え方をしてしまったわけですが、ここでは、「過去の傾向」と一言でいってもその定義や取得方法、形式化のハードルが非常に高く、伴ってそれらをベースにしてAIに予測させるということが相当難しいということをお伝えしたかった次第です。

AIだけでなく人間であっても、未来の出来事を予測するということには過去のデータの「量」と「正確さ」に応じて、いくつかのパターンがあると考えられます。

予測パターンの仮説

「予測の分類パターン」などを探してみたものの見つからなかったため、こちらの図は、私がそれこそ予測で作成したイメージ図です。間違いなく誤りがあるでしょうし、単なる言葉の使い方の違いなのかもしれません。ですが、こうして並べて見てみると、一言で「予測」といっても感覚的な予測である「勘」に始まり、超能力的な予測である「予知」まで段階があることは確かではないかと思っています。

この中でAIがどこまでできるかということを厳密に定めることは当然できませんが、ここでお伝えしたいのは、より精度の高い予測をAIにさせるためには、伴って過去の情報の量と正確さが求められるということです。

業務を完全自動化するための需要予測AIや命に関わる医療診断予測AIとなると、「予知」にも近いような根拠となるデータが事前に必要になってくるはずです。ですが、人による発注作業を前提とした推奨プランを提示してくれる発注予測AIであれば「見込み」くらいが可能なデータで十分かもしれません。一方、ゲーム感覚で楽しめ間違っても笑って済まされるようなゲーム系AIであれば「当てずっぽ」で使う程度のデータによる予測でも許されそうです。

画像6

AIによる予測と、どう付き合うか

予測AIは、残念ながら予知能力ツールではなく、あくまで元となる情報に基づいて予測を行うことを前提にした計算ツールです。そのため、AIによる予測システムを導入・活用したいとお考えの方にとっては、人の業務や活動に取り入れることをありきとして、

・どの程度の情報が、どれくらいの量と正確さで把握できそうか
・それをベースにしたときにどのような予測結果が得られそうか
・その結果は今の業務や活動に貢献しそうか(人手の方が早くて安いかも?)
・それをいまのオペレーションに組み込むことは現実的か

といった基本的なポイントを、AIや機械学習の知識はなくとも、まずは頭の中で想像してみることが非常に重要だと思います。

予測結果をどう使うか、人の役割がやはり肝

さて、昨今の状況から少しだけ触れたいと思いますが、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に対してもAI予測の力が期待されています。実際に、昨年12月頃に拡大を警告したカナダのBlue Dot、政府など公式な発表情報に加えてSNSなどの投稿情報も取り入れて感染症のリアルタイム把握を目指すHealthmap、またアメリカではホワイトハウスを中心にして新型コロナウイルスの研究前進に向け、2万9000の学術論文をベースにしたデータセットが開発者向けに公開されました。違う観点では国内の企業への影響予測をxenodata labが発表するなど、多くの取り組みが発表されています。

その一方で、AIを駆使した経済分析で投資成績を上げたことで知られるアメリカの著名投資家レイ・ダリオ氏が「大きな不確実性に襲われた。」として実績悪化を語ったことが日本経済新聞に取り上げられました。

新型コロナウイルスに限った話ではなく、AIによる予測には大きな期待感を私自身も持っている一方で、とくに私たち人間自身にとっても未知の対象や現象に対してはその根拠となる情報の量と質によってAIが出す答えも変動します。そのため、得られた結果をどう判断し、どう使っていくかという人が負うべき部分が非常に重要だと改めて感じさせられる両極の事例だと言えます。

画像7

さて今回は、AIが得意とする「予測」について考えてみました。次回からは少し趣向を変え、私の専門分野でもあるマーケティングとAIとの関わりについてお伝えしていきたいと思っています。

---ここから下は、私が勤めるLaboro.AIのご紹介です----------

画像3

(株)Laboro.AIについて

オーダーメイドのAIソリューション「カスタムAI」の開発・提供を事業とする、AIスタートアップ企業です。アカデミア(学術分野)で研究される最先端のAI・機械学習技術のビジネスへの実用化をミッションに、業界に隔たりなく、様々な企業のコアビジネスの改革を支援しており、その専門性から支持を得る国内有数のAIスペシャリスト集団です。

Laboro.AI WEBサイト

----------------------------------------

*本文掲載の画像は当社制作もしくはflickrから引用したイメージです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?