モンターニュの折々の言葉 387「ゴールデンウィークの明暗から」 [令和5年5月7日]

 今日でゴールデンウィークも終わりということで、明日からは日常生活が再開する訳ですが、昨日、岸田総理は、ヘヤーモード・キクチという散髪屋さんに行かれたようですが、カットだけで4000円。年金生活者と一国の首相では、髪をカットするのに支払うお金も倍以上違うようですし、多分、散髪屋に行く回数も違うでしょう。年金生活者は、なるべく節約しないといけませんので、月一回は無理。一国の首相となれば、最低月に1回、ないしは2回は行くでしょうな。

 さて、英国ではチャールズ国王の戴冠式が行われ、まさしく金ピカモノのオンパレード。よくもあれだけの金を保有し、また宝石類を溜め込んだものだと思います。貧乏人の僻みではありませんが、あのような金銀財宝は、英国内に埋蔵していたものとは思えませんし、あまり、これみよがしに見せびらかすのはまずいと思って、普段は隠しているのでしょう。しかしながら、英国民は、大英博物館にある様々な歴史的遺産に対して、何のやましい感情も抱かないのかなあと思うのです。それはフランス人に対しても抱く疑問ではありますが。

 戴冠式については、巷で評判になっている「英国王室と日本人」(八幡和郎・篠塚隆)の語彙説明の箇所がとても役に立つのですが、チャールズ国王(チャールズ3世)は、どうも晴れ男ではなさそうですな。国王や皇帝は、晴れ男でないといけませんよね。日本の天皇は、国際法的には、元首ではありますが、権力的であるよりも権威的で、国民の精神的支柱とも言えますので、天皇はとりわけ晴れ男的でないといけません。

 「英国王室と日本人」を読むと、歴史的にこの「チャールズ」の家系の話が出てきますが、かなりフランスと縁があるようで、この辺は面白いですね。フランスがカトリックで、英国がプロテスタント。カンタベリー大主教が英国教会のトップのようですが、テレビで見ていて、戴冠式は宗教儀式やのおと。多様性云々とは言いながらも、キングはプロテスタントとして使命を果たさないといけない立場なんですね。

 多くの日本人は完璧に宗教音痴ですから、ただ、綺羅びやかな、美しい情景を眺める程度にしか、この戴冠式には関心はないのでしょうが、私は、熊ですから、世界最大級のダイヤモンドがどうだとか、身につけた古式ゆかしい服がどうだとか、皇室ファッション全般にまったく関心が向かないのですが、人間は年を取れば取るほどに、派手な色合いの服装を身につけるんだなあと。熊なら、なるべく目立たない色の毛皮というか、服を身につけるのが、防護的なにに、何故か、エリザベス女王も歳とともに、派手になっていきましたね。派手というか、目立つ装いに。日本人は年齢を重ねる程に、色合いが地味になる傾向がありますが、西欧人は一般にそうではない(大阪人はその点では、西欧人的かもしれませんが)。

 色といえば、金ピカが好きなのが西欧人とか、あるいはアフリカや中南米の国民に多いように思いますが、金ピカで飾ってあったあの馬車もそうですが、現世を金で埋め尽くすのがキリスト教ではないとは思うのですが、仏教では、浄土が金の世界でもあった気がします。古代から輝くものに、異常な関心を示してきたのがヒトですから、今輝くか、それとも後世において輝くかの違いかもしれませんが。

 熊の目線で一番驚いたのは、なんといっても、こうしたお目出度い式典で、新国王を見たい、拝みたいと思ってやってきた英国民や物見石山の外国人の多さ。参拝者の多さに驚くとともに、また一つ、日本との違いを再確認しました。それは、そう、広場の存在ですね。聞きかじりですが、都市という空間は、なんらかの中心的な場所がないといけません。それが概ね西欧の都市観でしょう。ところが、日本の都市というのは、多分、明治の廃仏毀釈からなのか、中心点としての場所が消滅、ないしは拡散してしまった空間に。これを多様性のある日本の都市空間と考えることも出来るのですが、圧倒に、吸引力のある、人を惹きつけるような場所としての中心が、日本の都市でも、そして農村部においても、もはや無くなっているのが日本でしょうね。

 英国という国に国王がいるのが良いことなのか、悪いことなのかは私熊には関係ありませんが、かつての大英帝国時代の国王はそれなりに存在意義が世界的にあった、英国にとってもそうでしょう。英連邦として、チャールズ国王を盟主としている国は15カ国ということですが、政治、経済、安全保障上の意義は殆どないでしょう。カナダは、ご案内のように、英仏の植民地抗争の場として世界史に登場した国で、結果的に英国の植民地であったことは消し去ることはできないし、英国との所謂絆はこれからも継続されるのでしょうが、他の国はどうなんでしょうね。後100年、200年もすれば、白人系の人よりも所謂現地人の子孫がマジョリティーを占めるでしょうし、そして、なんといっても、宗教(キリスト教)を信じる人が今よりも少なくなるであろうと予想されます。

 英国で王室が存続できるかどうかは、一重に、宗教界との共存共生ができるかどうかであって、特に、宗教界からすれば、自らの存命のためにも、王室を存続させることで生きながられる、持ちつ持たれつという、というかなり微妙な立ち位置にあるのかなあと。
 今日のまとめです。英国民にとってお目出度いこうした出来事はそれはそれで結構なんですが、日本国民としては、そんな海の向こうの話よりも、現実の話が大事。それは石川県の珠洲市を中心として発生した地震が、です。地震に慣れっこになっている人もいるでしょうが、私の生まれ育った秋田は地震が極めて少なく、怖いもの知らずの熊もこれだけはどうにもしようがない程に怖い。特に、マンションで生活するようになってからは、揺れに敏感になっています。とは言え、養老孟司さんも警告しているように、今後50年か100年後には大きな地震が関東地方で発生する可能性も高い訳で、私が生きている間には、そうした大型の地震が来ないかもしれないけれども、来ることは多分、間違いないでしょう。まさに、ヒトの死が必ず来るのと同じで。
 珠洲市や輪島市にはこれまでも何度か旅行で訪れたところで、素晴らしい自然があって、また美味しい料理や日本酒もあり、観光地としての切り札を沢山持っている魅力的な場所。私にとって、珠洲市は、そうした観光の場所でもあるのですが、最初に訪れたのは、珠洲市にある飯田高校での高校生講座の講演でした。2007年初夏の頃で、公共交通機関がないので、事前に空港でタクシーを予約して現地に。民宿に宿泊したのですが、海岸通りを散歩しながら、どこか懐かしい、昔のよき時代の日本を想起させる、そんな場所に飯田高校はありました。その翌日は、別の高校で講演をしたのですが、学校の先生が親切にも、輪島まで車で送ってくれて、熊の勘で美味しそうだなと思った寿司屋に入って、昼食を。店に入ってそうそうに、店主さんが「お、新聞に出ている人ですね」と。小さな記事でしたが、地元新聞に飯田高校での講演の話が掲載されていたのです。

 そんな珠洲市での思い出もあり、今回の地震は他人事には思えませんでした。自分と無縁の出来事には、人は無関心であります。私もそうです。ところが、世の中には、この日本には、そうした出来事があった時に、無関心ではない人がいるのです。それが天皇様ですね。難しいことは熊にはわかりませんが、英国の王室制は、所謂機関説によって成り立っている気がします。ある存在を、国家とか、社会の組織の一部として、効率性や効用性から役割を果たすべき存在とする機関説。英国は歴史的に、戦争ではあまり負けたことの無い国。植民地戦争でもしかり。負けていなければ、それまでの体制を変える必要性はない訳です。英国は、勝ち続けることで、英国である訳です。経済力もかつての植民地であるインドに肩を並べる程度になってはいますが、一応世界の第5位。数年後には、そのインドに追い越されるであろう英国ですが、負けたことがない、上手く行かなかったことがない、今も悪くはないと国民がそう思っている間は、機関説による王室は「安泰」なんでしょうね。

 他方、我が国の皇室というのは、そんな機関説に基づいてはもはやいないでしょう。思うに、私と天皇の違いは何かと考えると、私は常に自らの存在証明をしないといけない。マイナンバーカードがその一例。仕事を見つけるためには、採用のための書類には写真もそうですし、履歴書も必要。どこの馬の骨かわからない存在。他方、天皇は、自らの存在を証明する必要のない存在。そこに居るだけで存在している。天皇にしても、皇后にしても、あるいは上皇・上皇妃にしても、彼らの存在証明はどのようにして成されるかと言えば、それは祈ること。

 日本の天皇の即位の礼というのは、殆どが日本人の生活習慣とは無縁の儀式が中心で、こうした儀式や所謂神器を継承することが天皇の証しでもありますが、こうした形式やモノを継承するというのは、その形式やモノに内在していると考える日本人の古来からの先祖の「魂」を継承するということで、それ以下でもそれ以上でもないと思うのです。ですから、皇室の方々をヒト目線で、あるいは、機関説目線で、ああだこうだと、批判めいたことを言うのは可怪しいと、私的には思っていて、祈ることさえちゃんとお勤めして頂ければ、十分ではないのかなと。

 そういう意味では、天皇というのは、宗教的存在なんだと思うし、それがもう時代に合わないといってもですね、彼ら(皇室の方々)は、仮に天皇が質的に憲法でもって改正させられようが、「日本人の魂の継承者であること、祈る人、悼む人、寄り添う人である」ことを自ら放棄することはないのではないかと。そんなことを英国の戴冠式と珠洲市の地震という、明暗的な事象を見て思った次第です。

 どうも、失礼しました。

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