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大阪発、青春18きっぷで“名古屋を食べに”出かける旅 #2

 名古屋駅周辺の金券ショップは……あと1軒。ここで手に入らなければ、潔く諦めるしかない。わずかな希望にすがるように、最後の一軒に問い合わせてみる。

「5回分、未使用なら1枚ありますよ」

 天はぼくを見放さなかった。

「今夜泊まっていかないか」という誘いにOKをもらったときばりのガッツポーズを素早く心の中で決める。しかし「旅にきっぷを買い忘れた間抜けな客なのでは」と見透かされてはいけない。喜びは胸の奥底にしまい、あくまでポーカーフェイスを装う。5回分、全ては使いきれないが、なに、残りは帰宅してから売ればいいのだ。(*青春18きっぷは、1枚で5回利用できます。5回分が1枚にまとめられているのです。)

 こうして無事、青春18きっぷを入手でき、これで旅を続けることができる。しかし安堵したらまた腹が減ってきた。宿の予約までたっぷり時間はあるし、もう1軒、名古屋めしとしゃれ込もうじゃないか。

 止まない雨はないのだと、雨がしたたる名古屋の街を再び颯爽と歩き出した。

幻の手羽先

 手羽先の唐揚げといえば、みそかつと並ぶ名古屋を代表するグルメである。そして手羽先の唐揚げといえば「世界の山ちゃん」をはずすわけにはいかないだろう。そうして暖簾をくぐったのが「世界の山ちゃん 名古屋駅東店」である。

 手羽先の唐揚げはどこの居酒屋にもあるであろう定番メニューだ。ならどこで食べても同じかというと、そんなことはありえない。世界の山ちゃんの一押し「幻の手羽先」は、ひと味もふた味も違うのだ。

 幻の手羽先1人前5本入り、480円。二人前を注文する。ほどなくしてドリンクと手羽先が運ばれてきた。

 よく見ると、やはり普通の手羽先の唐揚げとは違うようだ。

 タレがよく絡んだ衣をまとい、その上からコショウがたっぷりとかけられている。その姿が“幻”を連想させる、黄金色の唐揚げに見える。

 箸を取ると、箸袋に食べ方が記されている。

 関節をポキッと切り離して食べる。

 全体にまぶされたコショウの見事な仕事ぶり。

 ほんのりと甘いタレにスパイスが絶妙に絡む。

 10本などあっという間に食べ終わる。

 追加しようかな、ビール、頼んじゃおうかな。

 いやこの先、まだ恵那まで移動しなければならないのだ。ここで飲み始めると、宿に着くまで人間の原形を保っていられる自信がない。

「ごちそうさまでした」

 後ろ髪を引かれる思いで店を後にし、名古屋駅へと向かったのだった。

恵那

 名古屋駅13時24分発・中央本線快速、中津川行き乗車。恵那駅14時24分着。

 送迎バスでホテルに向かい、もろもろの感染症対策を経てチェックインを済ませる。

 今日の宿は「恵那峡国際ホテル」、外観は少し古いが、中に入るとなかなか立派なホテルではないか。温泉で汗を流し、景勝地「恵那峡」をひとまわり散歩して、夕食の時間を迎えた。和洋折衷の料理が並ぶ、食べ放題のバイキングだ。

 昼食を2軒もハシゴしたのに、まだ食べるのか。

 もちろん食べる、まだまだ食べる。

 そうしてすっかり日も沈み、恵那峡に夜のとばりが下りてくるころ、4度目のおかわりをたいらげたぼくは、苦しくてくるしくてたまらない。そして布団にうずくまり、うんうんとうなされるのであった。

 もういい歳なのだから、いい加減、食事の量をわきまえられる大人になりたいと切に願う。

 が、まだその願いはしばらく叶いそうにない。

 うなされながらも、みそかつと手羽先、また食べに行きたいなと夢想する、性懲りもないぼくであった。

恵那駅。きっぷを買い忘れるも、無事目的地に到着しました。


恵那峡。休日には遊覧船もあります。
帰路は滋賀県・彦根城に寄り道しました。

世界のやまちゃん 名古屋駅東店

  • 住所:愛知県名古屋市中村区名駅4-16-27

  • 営業時間:月~土:17:00~24:15 (ラストオーダー23:30) |日祝:17:00~23:15 (ラストオーダー22:30)

  • 定休日:なし(年末年始はのぞく)

  • 公式サイト:https://www.yamachan.co.jp


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