脚本家 × 作詞家 × 漫画家 × アナウンサー 対談④ エンターテインメントの仕事の実務と作家性について ~漫画家の仕事~

それぞれの仕事の実務と仕事をしていて感じる世間のイメージとのギャップ


漫画家の仕事…とにかくオリジナリティー、自分の我の力

村田:漫画家の世間のイメージとのギャップは、想像以上に時間掛けていることでしょうか…。読者さんが読む1コマは、下手すると0.5秒ぐらいで読めると思いますが、描く側だと半日ぐらい掛かっていたりします。特に、背景がとても時間が掛かります。あとは、けっこうポジティブな人多いですね。強気というか、ぐいぐい行く人が結構いたりします。最近はデジタル環境が浸透しているので、先生が1人でもくもくと描いている職場も増えているんじゃないかと思います。

 

高瀬:私個人の感覚になりますが、子供の頃は漫画というと絵のイメージが強くて、次第にストーリーの重要性にも気付かされたのですが、絵の上手さとお話の作りの上手さについて実際の漫画家と読者で印象の差は感じますか?

 

村田:話が上手い人の方が結果を出していることの方が多いです。生き残りやすいという感じでしょうか。絵が上手い人は本当にごまんといるので。でも、絵の上手さよりも独特さの方が大事です。オリジナリティーですね。逆に言えば、話が普通でも絵にオリジナリティーがあればこれも生き残れます。まとめるととにかくオリジナリティーがあることが大事で、オリジナリティーとは自分の我の力という感じで、ごり押せる力です。

 

高瀬:またカレーに例えますけど、漫画家はカレーそのものというか…新しい料理を生み出しているようなものだと思います。音楽やドラマですと、原作があってアーティスト、役者、プロデューサー、監督など、たくさんの人の発想や知名度、情熱など色んな力が合わさって作品が完成して、たくさんの人に届けることが出来ていますが、それに比べると漫画家は自分ひとりが生み出しもので勝負しているところが非常に大きくなると思うのでそういうところが本当に凄いなと思います。

 

村田:漫画も編集の人とか自分の力だけではないなと、漫画家になって数年経ちますが、感謝だなという感じです。

 

高瀬:打ち合わせは、どのくらいの頻度でしますか?

 

村田:担当次第ですが、『妻、小学生になる。』は、3カ月に1回のペースで、大体4話分くらいを打ち合わせしています。

 

高瀬:それはシナリオのみですか? それともネーム?

 

村田:シナリオのプロットみたいなものですね。大体、今後どうなっていくか、単行本単位で山をどう作っていくか打ち合わせをします。

 

高瀬:ああ、だから3カ月に1回ということですね! 1話分のプロットが出来たところでも見てもらっていますか?

 

村田:見てもらっています。

 

高瀬:オリジナリティーが大事と言っても、漫画雑誌で連載するには、自分の描きたいことと漫画雑誌の年齢層やカラーにマッチしてないと連載できないと思うので、そこが難しそうだなと思っているのですが、実情としてはどう感じていますか?

 

村田:出版社に合わせて作品を作る人もいますが、大体はそういう人は失敗しているみたいで、オリジナル性が強い人を編集がちょっと整えてあげる方が上手くいくようです。漫画家がやりたいことがあってお互いの最大公約数を探すような感じです。僕がよく言われるのは、グレーなことをなるべくしない方がいいということです。法律が絡んできたり、見方によっては炎上の火種になってしまいそうなところを編集がネームを読んだときに訂正したり、今後のストーリーでも表現的にまずいからというような舵の取り方をされています。

 

高瀬:倫理観の部分を見ているということですね。

 

村田:そうですね。作品の軸がブレないように整えてくれるのが編集さんで、漫画家は我を突き通す人が多いと思うので編集さんが舵を取るくらいの方がいいのかなと思っています。

 

高瀬:作詞家の仕事は、原作や歌手という存在がいてオーダーに応えることが仕事のメインに感じているので、我を突き通すという部分は作詞家と大きく違うと感じました。仕事を比べると、作詞家はクリエイターよりで、漫画家はアーティストよりだなと思います。

 

小山:脚本家も同じですね。みんなのためになっていて、面白くするための我であれば

いいと思いますが、「私はこういうのは書きたくないから」というプライドの方の本当の自我になってしまうと脚本家の仕事はしにくくなりますね。漫画家さんでも我を出して上手く行っている人は、作品のための我だから上手くいくし、作品のための我を考えられる人が多い印象です。

 

村田:色んな漫画家さんの話を聞いていると、結局ヨイショヨイショで生きていく人は、選ばれなくなってくるというか、生き残れなくなってくると感じています。

 

高瀬:脚本家が、まとめる力も必要だけど、オリジナリティーも必要と話していたことに通じるのかもしれませんね。作詞家もそうだと思います。

 

小山:みんなやりたい部分とやりたくない部分の狭間に立ちながら仕事をしているのかもしれないですね。僕が漫画家で一番大変だなと思うのは、それが有難いという見方もあるかもしれませんが、連載だと何年も同じ作品を作り続けて、尚且つ新鮮さを失わないようにさせられるのが凄いと思っています。

 

高瀬:よく思うのは、作詞家が仕事として携わる期間は、原作者さんと比べると非常に短く、原作者さんは何年~何十年と作品を作り続けているので、作品は人生そのものだと思うんですよ。だからこそ1曲1曲に対して人生に携わっているという気持ちで真剣に取り組まないといけないと思っています。

 

村田:僕の場合は、ゴールを決めて描いて、先に終わらせるタイミングもある程度決めて描いています。僕は、1つの作品は何十年も続けるというよりはたくさん作品を出したいと思っているタイプで、なぜかというと実写化する可能性をたくさん作りたいからです。『妻、小学生になる。』も、自分がボロアパートに住んでいて食っていけないときに、絶対実写化してやる~!という気持ちで書いた作品で、漫画原作のドラマを観て、「この役者さんって素敵だな。今までにこんな役はやっていないなからこんな役を演じてもらって実写化したら面白そう」というような発想が浮かんで漫画になりました。漫画で完結するよりは、実写化したりアニメ化して色んな人と仕事をしたいというチームプレーへの気持ちが強いです。

 

高瀬:それぞれが得意なことを活かしながら作り上げるコンテンツの中の自分が1パーツであることを感じながら、みんなで作っている感じが私も好きです。

 

小山:僕はまちまちですかね。小説を書く才能があったら脚本より小説の方がいいな

と思うこともありますし、凄くいいキャストさんやスタッフさんに恵まれたときは、「チームプレー最高!」と思いますね。日替わりの感情で軸がない…。

 

平井:今、アシスタントさんは何人いるんですか?

 

村田:レギュラーで4人ですね。前は1人だけ通いだったのですが、今はコロナの影響で全員リモートになりました。

 

高瀬:漫画家さん本人とアシスタントさんが描く境界線はありますか?

 

村田:キャラのペン入れは漫画家本人ですね。アシスタントは、背景や自然物を描いたり、モブを描いたり、トーンとか…。キャラは描かないです。

 

高瀬:漫画家さん、脚本家さんへの質問になりますが、私はキャラクターが憑依して演じるように頭の中で人格を使い分けて作詞しているような感覚があるのですが、みなさんもありますか?

 

村田:僕は、俯瞰で見ているときの方が多いですかね。たまに憑依しているときもあったり両方です。

 

小山:集中しているときは台詞を音読しながら書いたりします。

 

高瀬:漫画原作だと、ドラマ用に構成し直すために尺や盛り上がりの関係で原作をそのままドラマにはできないことも多いですよね? 歌詞もそうなのですが、そのために原作のエピソードをオリジナルで繋がなくてはいけない場面も多いと思います。私は、そういうときに「このキャラってこんなことしそうだよね」「こんなこと言いそうだよね」って勝手にどんどん頭の中で膨らんでいくので、原作の凄さを痛感します。

 

小山:確かに原作のおかげで浮かぶときは結構ありますね。自然とキャラが動いているような感覚です。作詞と一緒だと思います。基本は、原作の良いと思うところを使わせてもらいつつ、ピークとフックがなければ連ドラの場合は次回に行けないので申し訳ないと思いながら、原作にあるものをちょっと分解してセリフだけは残して活かしながらピークシーンを作ったりします。例えば、原作ではサブキャラがメインの回が長く続いてしまっても、ドラマでは主演の役者さんが1話分出てこないという状況は好ましくないので、主人公目線で描かなくてはいけないなと思うことがあります。


対談⑤へ続く


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