脚本家 × 作詞家 × 漫画家 × アナウンサー 対談⑤ エンターテインメントの仕事の実務と作家性について ~アナウンサーの仕事~

それぞれの仕事の実務と仕事をしていて感じる世間のイメージとのギャップ


アナウンサーの仕事…メディアに出ている時間より取材をしている時間の方が莫大に多い

平井:アナウンサーの世間のイメージとのギャップは、メディアに出ているところがすべてだと思われがちですが、実際は取材や調べものをしている時間の方が圧倒的に多いです。感覚としては、9:1でメディアに出ている時間は1割です。実況の仕事でいうと、現地に取材に行ったり、実況の資料を作ったり、前の試合を全部観ないと……となるので。

 

高瀬:原稿は誰が作るか明確に決まっていますか?

 

平井:ディレクターがいれば、基本的にはディレクターです。実況でいうと前枠、後枠、ハーフタイム、伝えなければいけない情報など、最低限決まったコメントを用意してくださいます。前枠というのは例えば「2021明治安田生命J1リーグ、解説は○○さん、実況○○でお送りしていきます」といった文言です。ただ、原稿より、ディレクターが用意してくださっている、中継開始から終了までの流れが書かれた進行表のようなものの方が大事だと思います。そこに直接、最低限決まったコメントが書かれていることもあります。進行表には、番組の流れやCMにいく前のコメント、守らなければいけない時間などが書かれています。中継はたくさんの人が関わりそれぞれの持ち場で仕事をしていますし、想定通りいかないこともあります。だからこそ、進行表が重要ですね。「この順番を入れ替えましょう」など、指示もしてもらいやすいです。そのほかディレクターとはその中継にどんなテーマを設けるか話し合ったり、試合中にデータなどの差し紙を入れて下さるので、それを中継に活かしたります。ちなみに、実況部分に原稿はありません。話は基本的には解説と実況で進めていきます。ちょっと話はそれますが、先輩から「アナウンサーは(リレーでいうと)アンカー」と言われたことがあります。アンカーであるアナウンサーは目立つ立場かもしれませんが、その裏ではタスキをつないでくださっているディレクターやカメラマン、音声さんなどたくさんの方がいます。感謝しかないですね。

 

高瀬:ゲストを招いてインタビューするようなラジオの情報番組の原稿は誰が書いていますか?

 

平井:まず、インタビューですが、私がディレクターを兼務する場合のインタビューの質問事項は私が書いています。ただ、大きく幹の部分を考えて、枝葉部分はその場の流れになることも多々あります。一つの質問に対して次の疑問が湧いて、それについて深堀りします。通常の会話と似たような感じです。そして、ワイド情報番組の場合(私が担当した番組は)、ニュースやインフォメーションなどの原稿はありますが、オープニングやフリートーク、メッセージ紹介コーナーなどは、ほとんど原稿がないですね。あるとしても、たとえばオープニングでは、番組名、どんな番組か、自分の名前ぐらいです。ちなみに、原稿がない部分をどう話しているかというと、私の場合はメモ書き程度。自分しか読めないぐらいの走り書きですが。特に、最後の結論部分だけ忘れないように、そのゴールに辿り着けるように意識して話しています。もちろん話しているときに、「いや、違う」と結論が変わることもあるのですが(笑)

 

高瀬:アナウンサーのイメージというと伝えることに注目されがちで喋りのプロというイメージが強い人も多いと思うのですが、実際には調べたり、自分で文章を組み立てたりすることの方にウェイトが大きいということですね。

 

平井:人によるかもしれませんが、私の場合はそうですね。だからこそ、就職活動の時は、エントリーシートや写真の他に、作文提出を求めている局が多いのだと思います。喋ることと書くことは共通している部分があると思います。

 

高瀬:ラジオのお仕事の方が多いですが、テレビだと変わりますか?

 

平井:私が担当しているテレビ(ニュース番組)では、ナレーション原稿はありますね。その、原稿は制作の方が作ってくださっています。

 

高瀬:色々やっている人もいるけど、スポーツ専門、バラエティー専門、報道専門と分かれていて、スポーツの中でもサッカーというようにある一つのスポーツに特化している人もいるので、想像している以上に個性が必要な仕事であると感じています。

 

平井:そうですね。でも、最初は実は全然知らなかったスポーツの仕事が来て、そこから観るようになって好きになっていつの間にか個性になっていたというパターンもあるかもしれないですね。例えば、私はずっと野球を観てきたから野球以外の他のスポーツの仕事が来たときに大丈夫かな?と思いました。周りからも「野球のイメージがあるけど、大丈夫?」とも言われました(笑)。でも、大丈夫じゃないとは言っていられずまず観る。観ているといつのまにか好きになって……そして、そのスポーツの仕事をしているようなイメージを周りの人から持たれるようなこともあります。師匠から、これまで担当したことがないスポーツを実況する時、「実況には変わりない。競技が変わるだけだ」と言われたことも印象に残っていますね。確かにそうだなと思います。あとは、ギャップでいうと自分で編集もしますね。

 

高瀬:ラジオの音声の編集だけではなく、テレビでもアナウンサーさんが映像の編集をしますか?

 

平井:私に関しては、映像は別の方が編集してくれています。でも、自分で映像の編集までするアナウンサーさんもいると思います。

 

高瀬:本当に想像以上に何でも屋さんなのですね。ここまでオリジナリティーについて話してきましたが、アナウンサーの場合はどう思いますか?

 

平井:伝え方や言葉選び、どう感じたかというのはそのアナウンサーによって変わってくるとは思います。私は、みなさんの作品を伝える側じゃないですか。だから、自分はどう感じたか、どうしたら聞いている人に興味を持ってもらえるかなということを考えています。

 

高瀬:作詞の場合も、原作やキャラクターのいいところをみつけて、それをちゃんと伝える歌詞にしたいと思って歌詞を書いていますね。

 

平井:やっぱり、人にその人の思い、作品の良さを伝えたいとは思いますね。

 

高瀬:歌詞そのものが原作のいいところを伝える1パーツだという感覚もあります。明確にこの作品のいいところはここだと自分なりに理解してから歌詞を書いています。

 

小山:脚本の場合は、キャストさんが強いですね。原作があったら原作の良さを確かに伝えなくてはいけないのですが、例えば、キャスト全員がアイドルのようなドラマの場合は、どうやったらこの子たちの良さを伝えられるだろうということを考えます。だから、良さを拾って伝えるという部分では、作詞家ともアナウンサーとも一緒なのかもしれません。

 

高瀬:作詞も歌う人によって変わって来ますね。アーティストやキャラクターのイメージから、声質や歌い方によっては、力強く踏み込むような響きが良いときやふわっと柔らかい響きの方が合うなど色々あります。

 

平井:あとは、この人たちの両親が観て、聴いて、失礼にならないように気を付けています。人がどんなに動き回っていても実況などで名前を間違えないように細心の注意を払っています。

 

高瀬:実況をしているサッカーの試合を観ましたが、本当に凄いですね。どうやって覚えているのですか?

 

平井:背格好や動きの特徴を観察しています。あとは、ポジションで予測をしたりとか。

 

高瀬:実際に実況をするまでには、どのくらいの準備をして本番に臨んでいますか?

 

平井:出来る限りのことをするようにしています。まずは可能が限り現地に取材に行く。それから、過去の試合や選手のTwitter、過去のインタビューなどあらゆるものを見ます。ただ、そもそも、私自身もスポーツが好きですし、自分が応援しているチームや選手のことをアナウンサーが知らなかったら失礼だし、嫌じゃないですか。私自身も観ることや、人の話を聴くことが好きなので、楽しいですね。

 

高瀬:アーティストか? クリエイターか? という観点からするとアナウンサーはどんな立ち位置だと思いますか? 個人的には、漫画家が1番アーティストで、脚本家に比べると作詞家の方が若干アーティスト寄りで、そのすぐ隣に脚本家がいるイメージを持っています。

 

平井:アナウンサーはカレーでいうと副菜かな? アナウンサーは目立たない方がいいので。アナウンサーが目立つのではなく、主役は選手だからなというのはよく言われます。みんなが自然に作品とか試合を楽しんでもらって、アナウンサーのことは思い出せないくらいの方が基本的には良いと思っています。

 

村田:アナウンサーは、ウェイターじゃないですか?

 

高瀬:確かにキッチンから運んでくれる人がいないと永遠に食べられない……。高級なレストランだと、「この食材を使った〇〇という料理名です」と説明してくれた上で料理を出してくれますからね。

 

平井:スプーンを用意したり、料理名を間違えないようにしたり。

 

村田:運んで伝えてくれる人は絶対必要ですよね。有難い存在です。

 

小山:アナウンサーから見ると、このアナウンサーが上手いと思う共通の着眼点はどこですか? 僕からするとみんな上手くてみんな凄いように見えます。

 

平井:まずは、発声、発音、イントネーションなど基本的なことがしっかりできて。その上で、これはそれぞれだと思いますけど、ラジオだと人に伝わりやすいように言葉を選んで自分の言葉で伝えられる人、描写が上手い人とかですかね。スポーツ実況やリポート、例えばサッカーですと視野が広い人ですかね。ボールを持っている人だけではなく、その前に入っている人や陣形、ゴール前の様子が見える人。それから師匠には、「初心者の人が観ても『ほー、なるほど』、観戦経験が多い人が観ても『ほー、なるほど』」と思ってもらえるようにと言われました。

 

小山:想像力と観察力の両方が必要ということですね。

 

平井:あとは人に興味を持って話を聞ける人、相手の話を上手く引き出せる人も重要ですね。

 

高瀬:漫画家、脚本家、作詞家とアナウンサーで違うのは瞬発力が求められるところじゃないかなと思います。私たち3人は準備していい仕事ですよね。

 

平井:確かに……。瞬時に反応できるように、アウトプットの訓練もしています。ただ、準備8割ということも言われたこともありますね。そこまで仕上げて後は天に祈るしかない……!

 

高瀬:瞬発力と言っても影の準備があるからこそ、本番で瞬発力が発揮できるということですね。


対談⑥へ続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?