脚本家 × 作詞家 × 漫画家 × アナウンサー 対談③ エンターテインメントの仕事の実務と作家性について ~作詞家の仕事~

それぞれの仕事の実務と仕事をしていて感じる世間のイメージとのギャップ


作詞家の仕事…プロとしてずっと活動していける人というのは本当に限られた人


高瀬:作詞家の想像と違うのかな? と思うところは、提出までの短さです。2~4日というも珍しくはなく、短いものだと1コーラスを一晩で仕上げてくださいというのもあります。一週間後が締め切りのものも多いですが、一週間あるとじっくり仕上げられるなという印象です。

 

小山:そんなに短いんですね…。

 

高瀬:原作ものにおいては、原作を読んでそれを歌詞にするか、脚本にするかという違いだけで作詞家と脚本家は似ていると思います。脚本と大きく違うのは、作詞の方が具体的すぎずに曖昧で想像力を掻き立てられる表現の方が良かったりします。だからと言って、脚本のセリフも説明的すぎない方が良いとは思いますが。

 

小山:確かに、ある歌詞の背景を歌手の方が語っていて、恋人に宛てた曲と思いきや、実はおじいさんへの曲だと後で知って驚いたことがあります。

 

高瀬:確かに脚本ならおじいさんという言葉がセリフに出てくると思いますし、登場人物としてキャスティングされていて、誰に向けてのセリフか曖昧でよく分からないということはないと思いますね。

 

小山:その曖昧で自分なりに想像して解釈できるところが逆によかったりもしますよね。

 

高瀬:あと、曲が先に出来ていてそれに詞を乗せるというケースの方が圧倒的に多いので、決まった音数に合わせて、例えばAメロは元気、Bメロはゆっくり、サビでまた盛り上がるというように楽曲に合わせて作詞をしなければならないのが、脚本と大きく違うところだと思います。それから、ソロのキャラソンだと、原作では脇役の子が歌の中では主人公になったりするところも脚本と違うところだと思います。おとなしいキャラクターの場合は、原作やアニメのセリフではほとんど無口だとしても歌詞では無口にはできないので、キャラソンで初めて心情が歌詞になることもあります。そこが難しさでもあり、キャラソンの面白いところだと思います。

 

小山:作詞のオーダーはどんな感じなのでしょうか?

 

高瀬:オーダーは、本当にケースバイケースです。カレーで例えるなら、「カレーを作ってください。あとはすべておまかせします」というような自由度の高いものから、「カレーを作ってください。玉ねぎは絶対に入れて、お肉は豚肉にしてください」というようなこんな歌詞が良いという要望や方向性がいくつかあるもの、他には「カレーを作ってください。材料はこれでこの手順でレシピに沿って作ってください」というようにどんな歌詞にしたいか細かいところまで決まっているものもあります。「カレーを作ってください」は、「アーティスト、もしくは原作はこれで、楽曲はこれです」というようなイメージです。悲しいけど、最後は少し希望が見える感じが良いという方向性や”今は無理かもしれないけど、一緒に頑張ろうよ”というようなメッセージ性がいくつか提示されたりもします。アニソンもアーティストへの作詞もライブをすることが多いので、歌詞だけに限らず楽曲全体としてライブを意識してくださいというオーダーは多いです。デモでは合いの手が入っていない曲に合いの手を追加してほしいというオーダーもあります。

 

小山:コンセプトに合わせて作るということですね。確かに脚本と似ていますね。「あーにんじんを入れちゃダメなのね」みたいな…。修正は、どんなものがありますか?

 

高瀬:原作のあるアニメの作詞だと、原作やキャラクターのイメージに合わせてここを直してほしいというのが凄く多いです。あとは、リリースされるときにそのキャラクターのメイン回はまだ放送されていないので、ネタバレはしないように直してほしいなど、アニソンはなぜ修正する必要があるのか分かりやすいものが多いです。アニソンではなく、アーティストへの作詞の修正ですと、歌詞の表現についての修正がほとんどでアニソンと比べるとぼんやりしていることが多いです。

 

小山:音楽や歌詞のことだけじゃなくて、想定しなくちゃいけないことが広範囲で難しそうですね。どういう頭の使い方をしているのか気になります。

 

高瀬:歌詞を書き始める前に、脚本のプロットみたいにAメロでこれやってサビでこれやってというようにある程度想定してから書いていることが多いです。楽曲全体の中でも言葉が乗せにくいメロディーやキャッチーでフックになっていて見せ場のようなメロディーがあるので、そこで何をするのか考えつつ全体でどう繋げるかということを考えています。脚本家と一緒で作詞家も構成力というのも求められていると思います。

 

小山:自分の中では歌を作るって、絵を描くより想像できないですね…。

 

平井:1つの音に何文字も乗せることもありますよね? そういうのは先に駄目と言われることは、ありますか?

 

高瀬:逆に1つの音に2文字以上乗せるようないわゆる”洋楽的”な歌詞の乗せ方をするように最初にお願いされることはあります。

 

平井:今まで採用された曲と採用されなかった曲で共通点はありますか?

 

高瀬:そうですね…。みなさん全員が知っているわけではないと思いますが、歌詞や楽曲はコンペという方法で1つ案件に何人もの作詞家、作曲家が作品を書いて、その中で1つの採用を決めることが多いです。駆け出しの頃はコンペからスタートして、目に留まった人は指名でもお仕事がくるようになります。作詞は、作曲に比べると誰でも出来るようなイメージがあると思いますが、趣味でただ音数に合わせて言葉を乗せるだけなら、確かに誰でも出来ると思います。でも、プロとしてずっと活動していける人というのは、タイトな締め切りの中で複雑なオーダーにも応えて音楽的にもセンスのある言葉の乗せ方が出来て、毎回クオリティーの高いものを提出し続けなければいけないので本当に限られた人だと思います。私自身続けていくのに常に必死です。ちょっと質問とズレる回答になってしまうかもしれませんが、最初は悪いところを直さなくちゃいけないという考え方だったのですが、続けていく中で自分の良いところが見えて来て、採用されやすいものや得意なものの共通点が見えて来ました。幅広く色んな歌詞を書かせてもらっているので私自身としては偏りがあまりない方だとは思っていますが、前向きな歌詞の方が多めなのでそういう歌詞が特に得意なのかなとは思っています。

 

平井:書いた歌詞と自分の性格は、合っていると思いますか? シリアスな歌詞を書く人は、その人柄が歌詞に反映されることもあるのでしょうか?

 

高瀬:うーん、私自身はポジティブな方だとは思います。自分自身の性格に近いから得意というのはもちろんあると思いますが、人によっては自分自身の性格と違うエンターテインメントに触れるのが好きで、作品として作る上では自分の性格とは違うようなものが得意な人もいると思います。性格と好きなものの系統が必ずしも一致するわけではないと思います。


対談④へ続く


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