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2019年 夏、エストニア タリンで電子政府とノマドワーカーの働き方を考える

ヘルシンキのAirbnb宿に荷物を置いて、1泊2日でフィンランド湾の対岸、旧ソ連領のエストニアのタリンに行きました。

今回(2019年夏)の北欧行きにあたり、エストニアのタリン行きを決めたのは、エストニアの電子政府と電子国民のしくみが「未来の国家のカタチ」のひとつとして、日本のメディアでも話題になっていたこと。そして、当地で同国が世界から取り込んでいる国際的なノマドワークの可能性を考える機会ができればと思ったためです。
現在、日本を拠点に独立業務請負人(フリーランス)として働く僕も、将来は世界を旅をしながら仕事をするワークスタイルを目指しています。

エストニア行きの決め手となった本の紹介

エストニアの電子政府・電子国民の話は、2018年から19年にかけて日経グループのメディアを中心に話題になっていましたが、この本にむちゃむちゃ刺激を受けたことが渡航の決断につながったと言ってもよいでしょう。

ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた「つまらなくない未来」小島健志著 ダイヤモンド社

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ジャーナリストの方がエストニアの電子国家の現状や背景を細かく取材され、日本から同国に投資する企業の紹介や今後のグローバル、日本におけるAI教育についても触れている著書です。ブロックチェーンの理屈については、僕もふわっとしていたのですが、この本を読んでよく理解できました。

フィンランド湾を渡ってエストニアの首都タリンへ

ヘルシンキからタリンへはフェリーで2時間半、1日に何本ものフェリーが行き来しているので、思い立ったら、簡単に行くことができます。海外旅行先でのちょっとした大型クルーズ体験くらいの感覚での国境越えです。フェリー内にはDUTY FREEもあるのですが、同じEU内で、入出国にあたり、パスポートを見せなければならない場面もありませんでした。

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フィンランドと比べると、物価が6掛けと安く、消費税は20%(フィンランドは24%)のため、フィンランドからタリンにビジネスや安価で行ける週末旅行として出かけ、お酒などをまとめ買いして帰る方々が多いそうです。実際、ハードリカーの入ったダンボールを持って帰ってくる人たちをたくさん見かけたものでした。

バルト三国 エストニアは91年にロシアから独立した国ですが、フィンランドとロシアの両方の影響を受けている印象です。 移動はUberやBOLTで行い、ヘルシンキと同じ感覚。食事や街並みはヘルシンキに近いものがありますが、少しアラブチックなオリエンタルなものを感じたものでした。

e- estonia showroomで感じた国民主権に基づく個人データ活用

エストニア、タリン訪問の目的のひとつであるe-estonia showroomに行きました。
建物の中に入るのはアポなしでもOKですが、e- estoniaのプレゼンテーションを聴くには事前オンライン予約が必要です。もちろん渡航前に日本からも予約出来ます。

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行政手続きの99%がオンラインで済むという電子政府の生い立ち、しくみ、未来、ご本人もその取り組みに共感してエストニアのe-regidence(電子国民)になったドイツ出身のFlorianさん自身の個人情報サイトの一部をご披露頂きながらいかに手軽かを示して頂きながらプレゼンテーションを受けました。

国民にはIDカードが付与され、個人が管理する2つのパスワードで管理画面にログインして、ほぼすべての行政手続きを行うことができます。

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例えば、引っ越しして、いろいろな役所にさまざまな登録をし直す必要はありません。1つの役所に対してオンライン手続きをしさえすれば、すべての役所の必要情報が更新されます。これは便利。

医者にかかった時のカルテ、処方箋もオンライン化されていて、病院や医師を変えた時にも、ユーザーが範囲指定と閲覧権限を与えれば、過去の履歴を見ることが可能です。
また、事故に巻き込まれ、病院に担ぎ込まれたような緊急時には、病院側は患者の必要最小限の履歴を閲覧することが出来、患者の意識がなくても、間違った対処をしなくて済むようです。

選挙の投票もオンライン。期日前投票はもちろん、投票日まで、誰に投票するか、一旦投票しても、気が変わったら変更可能です。選挙がオンライン化したことによって、デジタルに明るい若者の投票率が上がったのではなく、むしろお年寄りの投票率が上がったという話が印象的でした。つまり、体が不自由で投票に行きたくても、いけなかった人の投票率が上がったのです。関心のない人はオンラインにしても投票しないのでしょう。これは今後、投票率をオンライン投票を実現しようという国にとっての教訓です(笑)

子供が生まれた時の新規登録(出産届け)は医者が行います。その登録により、役所に行かなくても、一生の社会保障や教育体制がスタートします。現住所から小学校は何処に通うのか?中学校は何処に通うのか?も明らかになり、引っ越しすれば、1回の登録で、変更事項がすべての情報に連動して更新されます。

そんな情報を利用して、行政は未来の学校の新設や統廃合も先回りして検討することを考えているという話には正直びっくりしました。

オンラインで手続きができない、99%の残りの1%とは、結婚、離婚、不動産売買の3つです。オンライン化しても、それだけはワンクリックではなく、しっかり考えた上で、役所に書類を提出しろ、というわけです。納得です(笑)

このエストニアの国民IDの話は日本のマイナンバーと比較しながら、聞いていましたが・・・

エストニアの場合は国民が主役、個人情報の主権は国民にあり、国民の利便性と役所の効率化のために設計されています。その情報の一部を第三者が見ようと思えば閲覧可能なものもありますが、すべて、誰が、いつ、見たかをユーザーが管理画面で知ることができる。万が一、個人情報漏洩によって、ユーザーが被害を被った場合、国家が全力でユーザーを支持して、悪用したものに罰を与える、ユーザーを守る、と宣言しているそうです。

一方、日本のマイナンバーは国家主権で国民から税金を徴収する、義務を履行させるためのものにしか感じられないのは、僕だけでしょうか?性悪説に基づいていたら、誰も使いたくない、使う人を増やすことはできませんよね、ポイント付与で釣れると思っている発想が短絡的ですよね、と思います(笑)

ソ連からの独立後に130万人という限られた人口と人手のなさを背景に、先進国と同じ道をたどって、紙による手続きを前提にしていたら、間に合わない、回らない。できるだけ多くの手続きを当時普及始めていたインターネットを上手く利用して、デジタルで行わざるを得ない、という切実な環境の中で政府が決断した、リープフロッグ的に成し遂げたデジタル化です。

この仕組みは、小国だからできる、と思われる方もいらっしゃいますが、同国においても、一朝一夕にできたのではなく、90年代に着手してから、今日、世界で評価されるようになるまでに実に20年近くを要しているわけです。

僕はそれを聴いた時、やはり、新しい社会的なしくみやインフラの定着や常識化には、その環境が当たり前に感じる、ものごごろのついた子供たちが大人になるまでの期間(10~20年)を要する、長期ビジョンをもって、腰を据えて、取り組まなければならない、と感じたものでした。

オンラインの利便性で世界から資本と労働力を集め、世界を味方につける国

e-estoniaのコンセプトのもうひとつの柱は、自国民だけでなく、広く世界に門戸を広げることです。
外国人が母国に居ながらにして、オンライン申請を経て、電子国民になれるe-Residencyという制度があります。安倍前首相もエストニアの電子国民であることは知られていますが、日本にもすでにたくさんの電子国民がいるようです。

この電子国民ができることは、会社設立、口座開設、契約書への電子署名などだそうです。法人税は20%と低く(利益を配当ではなく、内部留保するなら納税義務なし)、同国にいなくても、リモートでEU市場向けにビジネスをする、そのビジネスのために電子署名を使って契約をし、エストニアのスタートアップ企業と組んだり、世界から同国でのチャンスを求めて集まるテック人材を雇用をするようなこともできるわけです。

エストニアはもともと旧ソ連の中でITの研究開発拠点だったため、テック人材が豊富です。
独立時、ロシアがそういった人材や教育機関を置き土産に残して行ってくれたおかげで、同国でご存じSkypeが生まれ、その創業者たちがSkypeをマイクロソフトに売却して得た莫大な資金を使って、最新テクノロジー系のビジネスのスタートアップへ再投資しているため、同国には新しいテクノロジーが生まれる地盤があります。

また、このe-Residency制度は人口130万人の小国が、いろいろな国に支配された後に、独立に至った歴史を持つことから、どうやって国際社会の中で自分たちの国を守ることができるか?を考え抜いた上での知恵のひとつだそうです。

つまり、世界中の人たちを電子国民として受け入れ、世界の多くの人々に味方になってもらうことによって、強国が安易に攻め込んで来られないように防御する処世術のひとつだというのです。

そして、電子政府のデータサーバーも自国に置くのではなく、世界で最も安全なルクセンブルクに置いてバックアップをすることで、国民の生活の命綱である個人データを守っているとのことです。

スタートアップや国際ノマドワーカーが集まるTelliskivi Creative City(テリスキビ)

e-estonia showroomの後、Florianさんにここが面白いと教えてもらったTelliskivi (テリスキビ)Creative Cityに行きました。

この界隈はアートデザインから手工業的なプロダクトからマーケティングからテクノロジーまでクリエイティブ系~サイエンス系の人たちがたくさん集まる倉庫跡のようなエリアです。

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エリア内に、上述の書籍でも紹介されていた、スモールビジネスやフリーランスが集まるコワーキングスペース、LIFT99があったので、ダメもとアポなしで見学に伺ったところ、スタッフのMariaさんに快く内見&ご案内頂きました。

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国内外の主にテクノロジーやマーケティングに携わるフリーランスが出入りしてスタートアップのインキュベーションやそれを支援するフリーランスの働きかたを支援することを目的に設立されたスペースです。

伺った時は、フィンテックやブロックチェーンやAI関係のエンジニアが多いとのことでした。

当時の料金体系は、固定デスク月額250ユーロ、1日単発利用は20ユーロの低料金。固定席100弱&フリースペースに対して月額契約者は現在のところ150人程度、フリースペース契約の方が多いとのことでした。
オンライン予約をすれば、僕のような旅行者も使える、とのことでした。

僕が日本で契約するRegus(OpenOffice)やWeworkとはまた一味もふた味も違うコワーキングスペースです。

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このエリアの空気を吸いながらヴィジョンや未来のビジネスプランニングをしていると、また一層、広がりのある発想が出来そうな気がしました。

今度エストニアに来る機会があれば、是非このエリアで数日過ごしてみたいと思ったものでした。

エストニア タリンを訪問して

この他にも、現地ガイド付きのオールドタウンツアーやHOP ON HOP OFF(乗り降り自由の観光バス)で街を回るなどして、1泊2日ではありましたが、当地を知る、充実した旅になりました。

冒頭にも申し上げましたが、「世界を旅しながら働くこと」を理想としている僕にとって、同国の国家ぐるみのデジタルを活用したボーダレスな取り組みは、理想的で魅力的な国のひとつだと思いました。

コロナ禍で、窓口や郵送での書類中心の行政手続きが多く、役所も国民も苦労した日本において、行政手続きのデジタル化が進んでいるエストニアのことが話題になりましたね。

新首相もデジタル化に邁進するとのことですが、国の規模にかかわらず、是非、エストニアの国民主権の個人データのありかたを大いに参考にして頂きたいと思います。

フィンランド湾グルメ:帰路はフェリーの中で、シーフードブッフェ

タリンからヘルシンキへの帰りのフェリーの中で夕食を取ることにしました。フィンランド湾他、北欧で採れたシーフードを中心としたブッフェです。おススメのシャンパンで頂きました。

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美味しい♪北欧は新鮮なシーフードも充実しているので日本人の口にはピッタリだと思います。

次回は2019年、アリババの本拠地、中国の杭州で体験した最新のリテールテックについてご紹介します。


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