小説 男岩鬼になりたくて10

 午前7時。
 マウンド付近でムツが腕組みして寮の方向を見ている。
 ジンジンと太陽光線が照りつける中、ジリリジリリと憤慨している様を隠すかのような仁王立ち。間違いなく、平穏無事では終わらない姿だ。オレンジ色がかった朝の光が照らされる中、微動だにしないムツの肩の辺りがワナワナと微かに震えている気がする。
 ドタドタと走って来る2年生。この慌てぶりの2年生たちと泰然として構えているムツの対極の構図は、絶対にただじゃ済まない。
「あぁ〜、おらぁ!!」
 もはや怒号じゃない。雄叫びだ。震え上がるほどの声でグラウンドの土埃が一瞬吹き上げられるようだった。
 2年生は帽子を取り、急いで一塁ライン上手前で整列するが、すかさずムツが近づき、口を真一文字にして順々に平手打ちを喰らわせる。個別に殴っているのは日常茶飯事だが、整列して順々に殴っているのは初めて見た。
「ガツッ! カツッ!」
 いつものスナップが効いたパチーンという音じゃない。骨と骨がぶつかり合うにぶい音だ。ん? グーパンチ!? よく見ると拳で殴っている。平手打ちは数えきれないほどあるが、拳で殴られたことはまだない。見ているこっちも痛い。
 1年生は深めのショート付近で一列に並ばされ、2年生が殴られている姿を遠くから俯瞰気味で見ている。隣にいる慶太が呟く。
「おい、ムツめちゃくちゃやな」
「今は壮観でも、明日は我が身だぞ」
「今はゴーカン?」
「……」
 面倒だから無視することにした。とにかく、腹の中では「ざまーみろ!」だったが、2年生が殴られている間は、少しでも俺たちが油断した顔をしたら、奴らは間違いなくそこに付け込んでくる。だから、腹の中を悟られないように神妙な顔でいた。
 大矢はよろめいて姿勢を正した後、俺と目が合った。少しニヤつきながら俺をじっと凝視していた。
「おまえら、練習しなくていい。外野で球拾いと草刈りだ。おい1年、レギュラーバッティングに入れ!」
 この時点で新チームの要となる2年生はスポイルされた。前日、決起集会と表して酒をしこたま飲み、案の定寝坊して練習時間に遅れた。どんないい訳も通じない。まだ二日酔いがバレてないだけマシだ。いやバレていたからこそのグーパンチだったのかもしれない。
 新チームの初日が、波乱の幕開けだった。
 その夜、1年生全員が呼ばれた。

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