見出し画像

【読書メモ】組織学習の定番テキスト!:『コア・テキスト 組織学習』(安藤史江著)

キャリア理論を研究していると、ついつい個人を主体として事象を捉えてしまいますが、組織という面で捉えることも重要です。本書では、組織における学習という学習論とも密接に関連する内容を扱っているので学びになることが多い良書でした。組織学習に関する定番のテキストと言える存在で、こういう本で読書会をしたいものです。

本書については、中原研博士課程の先輩である東南さんが以前にまとめていらっしゃいます。東南さんのnoteは、本書の全体像を俯瞰されていてかつわかりやすいので、以下をまずはお読みください。その上で、それでも時間にゆとりがある方のみ、私の関心に合わせた感想的まとめをご笑覧くださいませ。

組織学習の学びの主体

組織学習とは、「組織」が学習することを指しますが、学習する主体である「組織」とは何を指すのでしょうか?この学習の主体について精緻に整理し、学習する主体を三つに分けられるとしています。第1章の三項を基にまとめてみます。

  1. 組織メンバーである個人が学習する【個人】
    組織学習とは、組織目標を共有する、組織の構成員が学習することであり、組織のために個人が主体として学ぶと捉える。

  2. 擬人化された組織が学習する【組織】
    組織に特有なルーティン、優先順位、アイデンティティがあるという前提を重視し、組織が一つの学習主体として学ぶと捉える。

  3. 個人と組織の関係性が学習する【個人と組織の相互作用】
    個人と組織を二項対立的に捉えるのではなく、相互作用や関係性に着目した動的な学びとして捉える。

「組織といっても個人の集合であり結局のところ個人がどう学習するかだよね」という捉え方は1.の見方ですし、組織で起きた出来事の起因を組織の体質、システム、文化に求める方は2.で捉えているのかもしれません。

私自身は3.のような見方をとりがちですが、個人と組織の関係性を元に個人が学習するというような捉え方をしているので1.とのミックスなのかなとも感じます。組織学習の主体に関する枠組みを理解していると、他の人が何をもって「学習」と言っているかの前提を推察できるので面白いですね。

組織学習の種類

「組織」の捉え方がざっくり三つあることをなんとなく理解いただいたところで、ここからは組織学習についてです。

ビジネスの世界で組織学習の話が出てくるときには、シングル・ループ学習ダブル・ループ学習というアージリス=ショーンの概念が使われます。本書では、同様な概念を束ねて、前者を低次学習、後者を高次学習と呼称し、以下のように整理して捉えています。

安藤(2019)p.108

昨今のビジネスシーンでは、イノベーションを生み出すという文脈で、経営やマネジメントは高次学習に関心をより高く持っていると言えます。では、日常的な過去からの延長線上における改善を目指す低次学習(悪いわけではありません、念のため)から高次学習へとシフトするためにアンラーニングが必要だと著者はしています。

アンラーニングを個人の視点で捉えた書籍にはいくつかありますが、経営学の文脈で言えば松尾先生の書籍がオススメです。

心理的安全性と両利きの経営

アンラーニングを組織および個人として行えるようになるには職場の状態性に依存します。アンラーニングを実現できる組織の状態性が、昨今バズワードになりつつある心理的安全性です。心理的安全性とは、職場が安心・安全であるという状態性が大事なのではなく、アンラーニングを個人と組織が実現し、職場において高次学習を促すためのものであると経営学では捉えていると言えそうです。

ここまで高次学習ばかり述べてきましたが、先ほどチラリと書いた通り低次学習が望ましくないということでは決してありません。これまた最近の流行り言葉である両利きの経営とは高次学習と低次学習とを両立したマネジメントを指しているのですから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?