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【読書メモ】『仕事のアンラーニング 働き方を学びほぐす』(松尾睦著)

アンラーニング(Un-Learning)は、従来は組織レベルでの概念として捉えられてきましたが、個人レベルでも捉えるべきであるという著者の想いから本書は著されました。鶴見俊輔氏による「学びほぐし」という絶妙な和訳を紹介しながら、「個人が、自身の知識やスキルを意図的に棄却しながら、新しい知識・スキルを取り入れるプロセス」(13頁)と定義されています。

読みやすい研究書を目指したという松尾先生のお言葉通り、深い洞察に満ちた研究書でありながらも実に読みやすい書籍です。英文誌に掲載された六本もの学術論文を基にしながら、和文で噛み砕いてエッセンスを抽出し、日本の組織での事例をふんだんに用いているため、社会人がイメージしやすい内容となっています。

贅沢なフルコースを一品ずつつまみ食いするようで心苦しい限りですが、本書を俯瞰した以下の図表に基づいてポイントをまとめます。

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アンラーニングのきっかけ(促進要因)

アンラーニングの起点には外部と個人の二つがあります。まずは、促進要因として挙げられている外部の要素について見ていきます。

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ここでの大変興味深い分析結果は、人の成長要因としてよく持ち出される70(経験):20(フィードバック):10(研修)の法則が、アンラーニングの外的要因である昇進・異動、他者の行動、研修・書籍等でも同様に70:20:10として見出されたという点です。

昇進や異動を経ると新しい働き方が求められるため、従来の働き方を一旦脇に置く機会が出てきます。また、他者の行動については、上司の探索的活動(革新的行動)がメンバーのリフレクションを刺激するということが明らかになりました。

学習志向(個人の原動力)

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個人起点での要素としては学習志向が挙げられます。他者承認を重視する業績志向と対比した結果、学びを重視する学習志向自己変革スキルの向上を促し、リフレクションおよびアンラーニングに影響を与えることが明らかになりました。

自己変革スキルについては、94頁に先行研究を基に以下の四つが挙げられています。

①変革の準備(自分の中で変える必要がある点を理解する)
②計画性(自分を変えるための現実的な計画を立てる)
③資源の活用(変革のために必要な資源を探す)
④意図的行動(成長の機会を見逃さないようにする)

阻害要因(図の左下)への対応として、自己変革スキルを用いた日常の行動が活きるのです。

リフレクション

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リフレクションとしては、二つのタイプのものが取り上げられています。自身の仕事の進め方の振り返りとしての内省と、自身の仕事を前提から疑う批判的内省の二つです。

興味深い点は、通常の内省が批判的内省を促し、その結果としてアンラーニングを促すという関係を明らかにしたことです。学習志向からの矢印を考えれば、価値中立的に内省や批判的内省を行うのではなく、自身の学びを意識してリフレクションすることでアンラーニングが促されるのです。

アンラーニングの内容

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まず内容としては、自己完結的な働き方からネットワーク志向の働き方へ、保守的な働き方から顧客志向の働き方へ、定型的・受動的な働き方から革新的・能動的な働き方へ、という態度や言動の変化によってアンラーニングが行われていることが明らかになりました。

次に、マネジメントの階層が上がるごとに、意思決定・対人・情報に関するマネジメントスキルを更新していくことが求められることにも着目するべきでしょう。

アンラーニングの成果

ここまでアンラーニングへと至るプロセスを見てきましたが、アンラーニングは何をもたらすのでしょうか。

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働く個人として働きがいをより感じられるようになり、他者との関係構築が進み、業績向上ももたらされるという結果が示されています。個人の学習志向が内的なきっかけでアンラーニングが促されながらも、組織にとって望ましい成果が見出されているということは意識するべきでしょう。

終わりに

松尾先生といえば経験学習の碩学というイメージでしたが、経験を通じて熟達する過程においても、新たな熟達へと移行する上でも、アンラーニングは重要なのでしょう。仕事を通じてキャリアをすすめる上でも、経験学習とアンラーニングという組み合わせを意識していきたいものです。


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