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×年前のお薬メンヘラーの話
深夜になると我々はどこからか集まる。
月明かりだけが優しく照らしてくれる。
静かだ。
居心地がいい……。
昼間は無理だ。
人が多すぎる。
喧騒と活気が私たちにとっては最悪だというのに……。
太陽とうまく付き合えるところを見ると、眩しくて目が潰れてしまうから……。
鳥のように空を飛び、愉快に鳴いている姿が私たちにとっては〝同じ〟だと信じられないから……。
そんなひとたちに〝変わった〟我々の這いつくばる醜い姿を見せたくないから……。
ともあれ、仲間たちとの会合はいつも墓場の運動会といったところ。
意外と陰気でいて陽気なやりとりではあるが……。
この日は違った。
仲間の一人が泣いている。
どうしたのだろうか……みんなはいつもと違う様子に戸惑っているのか……それともここには私と彼しかいないのか。
それすらもわからない空間である。
とはいえ、他人だ。
ポツリ
「毎日毎日、手のひらから溢れるほどの薬を飲んで」
ポツリポツリ
「生きながらえて、迷惑をかけて」
ポツリポツリポツリ
「喉を通るのはそのときの水だけで、食べられなくても嫌でもお腹は膨れていく……」
ポツリポツリポツリポツリ
「全くよくならない……」
ポツリポツリポツリポツリポツリ
『辛い』
血は少しずつ滴っていき地面を赤黒く染める。
傷口は月明かりでは見えない。
……気の利いたことが言えるのなら、みんな、ここにはいないよ。
私は肩をすくめる。
とはいえ、他人だとしても、偶然にも我々は居場所をともにした仲間だ。
私には知恵などない。だが、可能な限り頭を回転させた。
「……薬が何十年後かに今のメガネのようになるかもしれない」
「精神を病むことが脳の病気だというなら、未来ではもっといい薬ができて、辛いときだけ助けてもらってさ。私たちはみんな〝普通〟の暮らしができるんだよ。メガネをかけているひとをおかしく言うひとなんて見たことないじゃないか。ちょっと失礼します……と少しばかりの薬を飲んで。学校に行って、働いて、恋愛して、結婚して、子供を育てて……〝普通〟に……」
おそらく、これはなにも知識のない素人の浅い考えで、出てくる語彙のない言葉には誠実さなどなにもなくて。
今、苦しんでいる彼には意味もないだろう。
仮に解が合っていたとして……何十年後の話をしているんだ……。
涙がでてくる。
「あきらめずにいれば、私たちの人生にも……意味が……」
彼はなんとか話を返してくれた。
「……そうだよな。もう少しだけでも……わざわざありがとう。みんなも運動会の途中にごめん。じゃあ、いつも通り遊ぼう」
本心はわからない。
でも、少しは元気になったのかな……。空元気でも。
様子が落ち着いた彼に、私は少し安堵する。
血はとりあえず止まったようだ。
全てを忘れて遊ぼう。
来年のことを言えば鬼が笑うという。
遠い未来の話で笑える我々は〝なに〟になるのだろうか……。
とにかくこう思った。
「私たち、人間じゃなくて、よかった」
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