見出し画像

Web制作で独立を考える人が、勢いで起業する前にもう一度冷静に確認しておきたいスキル以外の大切なこと。

Web制作はデザインからコーディングまで、一人で制作できる方も多いので、独立しやすい業界ではあります。
しかし、作れるから一人でやっていける、仕事がもらえる、かというとそこまで甘くありません。

フリーランスや法人として独立しても、数年後、結局再就職する方も多いです。

今はクラウドソーシングサービスもあるので、単価を気にしなければ、仕事は取りやすくなっています。
しかし、単価の安い仕事だけを受注しても、時間が割かれるわりには実入りが少なく、体力的にも精神的にも疲弊していきます。

現にフリーランスで独立して、アルバイトや派遣で働いている方も多いです。

本人が良ければ、それが悪い事だとは思いませんが、起業して企業と法人取引をし、長く経営し続けていくことを考えているのであれば、制作スキルだけでは足りません。

フリーランスの方や独立して間もない方と一緒に仕事をすると、もう少しちゃんと交渉すれば良いのにな、と思うことが多々あります。

私は人の褌(資本金)で相撲を取る形で、Web制作会社の創業に携わり12年目になります。
小さなWeb制作会社の一社員から、突然会社の経営を任されて、制作ビジネスが制作のことをわかっていれば良いだけではないことを強く感じました。

ですので、自分には一人で制作できるスキルがある、会社員勤めなんてやってられないと考えて、勢いで会社を辞めて起業する前に、今一度、自分の今の状況を見直してみることをお勧めします。

起業を勧める方は成功されているので、やりたいならやれば良いじゃん!と言います。その通りではありますが、そういう方は、起業する時のリスクやその後の細かいことは教えてくれません。

この記事では、私のような制作現場上がりの人間が起業する際、動き出す前に考えるべき、見直すべき、制作スキル以外のことをまとめています。

営業ができない、人をまとめることも苦手、というバリバリの制作人間である私が、起業に携わってからぶち当たった壁と、今から自分が起業するなら経営を続けるために、ここがポイントという内容です。

これからWeb制作会社またはIT関係のベンチャーを立ち上げようとする方のちょっとした参考程度にはなるかと思います。

自分に仕事をくれるクライアントはいるのか?

まず仕事を発注していただけるクライアントがすぐにいるかどうかです。

冒頭でも触れましたが、私はオーナー社長に誘われて起業に携わったので、自分は一円もお金を出さず、かつ給料を保証されるというかなりラッキーな状態でした。

最初は経営に携わるという自覚はほぼなく、自分の持っているスキルを提供して、Webサービスを開発するために誘われたという認識でした。
(取締役という肩書をもらって、ちょっと偉くなった気分でいた程度です)

制作に関する経験値とちょっとしたスキルのみ、それ以外は手ぶらでしたので、創業当初、しばらくは仕事がありません。
Webサービスで食べていこう、と立ち上げた会社でしたので、それでも1年くらいは売上の上がらないWebサービスを黙々とリリースしていきました。

しかし1年くらいすると、やはり売上がない以上会社の存続は厳しい、ということを言われるようになり、それはそうだ、と受託制作の受注に乗り出しました。

私自身は本当に制作現場で制作しかしてこなかった人間なので、ゼロの状態から営業や会社のPRをして、仕事を受注することにかなり苦労しました。
というか営業をかけて仕事を受注できたためしはありませんでした。

営業をしても仕事が取れない状況が続き、どうするんだ?と詰められ、そこでやっと、自分が仕事を取ってきて会社を動かすところまで求められていたんだ、と自覚を持ちました。

その頃、ちょうど運良く、以前勤めていた制作会社のクライアントが、仕事をお願いすることが出来ないか?と声を掛けてくれました。
そこで首の皮一枚、なんとか繋がりました。

これがなければ、今頃は会社はなかったかもしれません。

創業から10年以上経った今でこそ、新規に声をかけていただくことも増えてきましたが、最初の5年くらいはなかなか思うように仕事が取れず、会社の雰囲気もかなりピリピリしていました。

ですので、独立する前に自分に営業力があるのか、自分に仕事を発注してくれるクライアントや人はいるのか?というところはすごく重要です。

もう一度、自分の今の状況を冷静に分析して、今の自分に仕事をくれる人がいるか?ということを考えてみたほうが良いでしょう。
独立する前の準備として、仕事をくれる人、仕事をくれる企業、を作る種まきをしておくこともお勧めします。

種まきとは、信用を作っておくことです。
ですから、起業するから今のクライアントはもう関係ない、ではなくて今の仕事を真面目に誠心誠意対応することです。

制作だけをやってきた私のような人間にとっては、新規に案件を受注していくのは、かなりハードルが高いものです。

これは実際にやってみてすごく感じました。

自己資金で何年間、収入なしで食べていけるか?

資本金をびた一文出していない分際で、あまり偉そうに語れないのですが、自己資金だけで起業する場合、会社を運用できるお金と生活できるお金は多いほうが良いです。

1年間くらいは売上もほぼないような状況でしたので、自己資金でやっていたらとんでもないことになっていただろうなと思います。

もちろん、すでにクライアントがいて、独立してすぐに仕事を頂けるような方は別だと思います。

私の場合、社員を雇って給料を払い、オフィスの賃料を支払って、かつ会社に内部留保ができるような売上を作るのに、かなりの年数を費やしました。(自分の能力不足ももちろんあるとは思いますが)

うまくいっている人は、選ばなければ仕事はあるとか、恥を捨ててお願いすれば仕事なんていくらでもある、と言いますが、性格上それができない私のような人間もいます。

特に制作業界の人はプライドが高く、営業マンのように人の懐に飛び込んでいけない人も多いでしょう。

私は営業も不得意で下手でしたので、ブログやWebサービスなど作ったり発信することで興味を引くようなことをしていました。
でも、それには成果が出るまで時間がかかりますし、その間に生活して会社を存続させるだけの資金は必要です。

ある程度のお金があった方が、心のゆとりも違うと思います。
私は人の資金で給料をもらいながらやってこれたので、どうしたら仕事が取れるのか、ある程度ゆとりを持って考えられたのかもしれません。

これが自己資金で起業して、資金が底を尽きそうになったら、かなり焦って再就職への道を考えたかもしれません。

Web制作業界はそんなに給料も高くないので、潤沢な資金を用意するにはかなりの年月がかかるでしょう。
ですので、用意できない場合は、会社勤めをしながら副業など、サブの収入源をある程度準備しておくと良いと思います。

今のクライアントが必ず発注してくれるとは限らない。

今一緒に仕事をしているクライアントの担当者と、自分に信頼関係があったとしても、企業間取引になると、担当者の判断だけで発注をもらうのが難しい場合も多いです。

起業して間もないような会社だと、今までの個人間の信用があったとしても、企業としての取引は難しいといった場合もあります。

大きな企業になればなるほど、存続何年目だとか、どんなオフィスでどういう体制で制作をしているのか審査されます。
実際に打ち合わせと称して、視察来られるクライアントも多いです。

また、今まで仕事をもらえていたから、独立すれば同じように仕事をくれるだろう、と思っていると「■■という制作会社に所属している〇〇さん」だったから発注していただけ、というケースも珍しくありません。

実際に私の会社に、仕事を持ってます!と転職してきて、いざそのお客さんのところに行ってもまったく発注なんてもらえなかった、ということは多々ありました。

自分の信頼で仕事を受注していると思っていても、そう思っているのは自分だけで、企業に対して発注していたということの方が多いです。

独立すると、今まで所属していた制作会社の看板は下ろさなくてはなりません。

いくら前社で頼りにされていたとしても、それはその制作会社の看板があっての信頼である可能性も高いので、そこのところは念頭に置いておいたほうが良いです。

また、前社でお世話になっていた企業に売り込みをかけると、前社から営業妨害だと訴えられたり面倒な話にもなりかねません。
私はそういうことも考慮して、今までお世話になっていたクライアントに自分から直接声をかけるようなことはしませんでした。

ただ、先方から直接依頼があった場合は断るということはしません。

ビジネスは競争という側面もあるので、クライアントが発注先を選ぶのは自由であり、そこで遠慮することはないかと思います。

自分で見積もり作成、金額交渉をしたことがあるか?

制作者の中には見積書の作成をしたことがない方も多いです。

ひとつのプロジェクトを回すことができても、実際にそのプロジェクトが何の作業でどのくらいの工数・価格で受注していたのか、把握していない人も多いでしょう。

独立すると、金額設定から請求まですべて自分で管理することになります。

独立志向があるのであれば、制作会社に所属している段階から、見積書の作成、受注する際の金額交渉まで首を突っ込んで経験しておくと良いと思います。

金額交渉をしたことがない方は、目先の仕事が欲しいあまり、値引きなど相手の良い条件で受注して、結局忙しいだけで売上が思うように上がらない、などということにもなりかねません。

私があるクライアントの案件で、一緒に制作に携わっていた独立したばかりのデザイナーの方とお話した際、デザイン以外のカメラ撮影など良いように使われて、お金をもらえていなかったそうです。

ちゃんとお金もらえてますか?と聞かれたのですが、私の会社では同じクライアントに見積もりを出し、見積もりの範囲内で作業をしてきちんとお支払いをしていただいていました。

このデザイナーの方はデザインの腕は良いものの、そういう支払いや費用の交渉をきちんとできていなかったのです。

お金の交渉はある程度、経験したうえでないと、どこまで踏み込んで交渉して良いものなのか、さじ加減が難しいものです。

そういう交渉はマニュアルやセオリーがあるわけでもなく、ある程度自分の経験値が必要になります。
制作の仕事しかしたことない人が、金額交渉をしようとすると、たいてい相手の言い値に負けてしまいます。

制作業界には、お金の話に携わることを毛嫌いする方も多いですが、お金に敏感でないと、ビジネスとして続けていくのは難しいです。

私は経営に携わって10年で、すっかりお金と工数のことしか考えなくなってしましました。これが良いのか悪いのか分かりませんが。

独立したいのであれば、制作会社に所属して経験とクライアントとの関係性を築くことは大切。

会社という組織に所属したくない、という理由で独立をされる方も多いと思います。
たしかに会社に馴染めずに病んでしまうようであれば、自分だけで食べていくということを考えるのもひとつの手だと思います。

ただ、制作会社で給料をもらいながら失敗し、実務に必要なことを色々と経験させてもらい、制作ビジネスの一連の流れを学ぶということは無駄ではありません。

Web制作未経験の方は、1年やそこらで色々なことを任せられて経験をさせてもらえることは少ないでしょう。
ですので、最低3年くらいは制作会社に所属して、会社からの信頼を得る必要があるかと思います。

3年は我慢しろ、いや3年も我慢する必要はない。

という議論がネット上でなされることありますが、私は少なくとも3年くらいは制作会社で制作の進め方や見積り書の作成などの、制作ビジネスの一連の流れを経験しておくことは、無駄ではないと思います。

逆に少なくとも3年~5年くらいは勤めないと、独立してスムーズに制作進行や交渉、クライアントに声を掛けていただけるような人間関係の形成、コミュニケーション能力の習得は難しいのではないかと思います。

新卒で卒業した学生は、電話の取り方、ビジネスメールの書き方すらおぼつかない方が多いでしょう。

何度も言いますが、制作の仕事はスキルやセンスだけではやっていけません。
企業を相手にしようと思うのであれば、なおさらコミュニケーション能力が求められます。

その辺りものことも踏まえて、それでも独立して学びながらやっていくんだ、ということであればそれも良いとは思います。
元からコミュニケーション能力が高く、ビジネスセンスに長けている方もいらっしゃるので、人によるといえば人によります。

でも経験が少なければ少ないほど、トラブルなどに巻き込まれるリスクも高いと思います。

嫌々であっても、Web制作の流れを学べるのであれば、それに越したことはありません。
私はWeb制作未経験で業界に入ったので、やはりWeb制作会社で数年間勉強や経験をさせていただいたことは、今になって活きているなと感じます。

一人で判断して責任をもって物事を決めていけるか。

独立したら誰かに相談しながら進める、誰かに承認を得てから進める、ということはありません。

相談する仲間がいる方も多いと思いますが、日々の実務ではいちいち仲間に相談するわけにいきませんし、忙しいのでいちいち相手にもしてもらないでしょう。

すべて自己責任で物事を進めないといけません。
今まで上司の文句を言いながらも指示に従っていたところを、すべて自分で決めないといけません。

ミスをしても自分で謝り解決しないといけませんし、社員を雇うならば社員のミスも自分の責任で謝り解決しないといけません。

今まで「上司が無能」と文句を言いつつ、嫌々従っていた方でも、実際に自分が上司やリーダーとして、社員に指示する立場になると、思うように人って動かないな、と逆のストレスを感じることと思います。

冒頭でも書きましたが、私は最初は経営者とか経営に携わるという意識なく、起業に携わりましたが、すべて一人で任されることで意識が変わりました。

私は役員ではありますが、社長ではありません。
それでも、会社の売り上げや存続が左右をするような判断を責任もっておこなうのは、かなりストレスというか重荷に感じることがあります。

社長であれば、もっとなのかなと思います。

最近はさすがに慣れてきましたが、うまく売り上げが上がらず、経営が厳しい厳しいとせっつかれていた時は、本当にきつかったです。
そういうストレスは、制作会社に社員として勤めていた時には感じたことがありませんでした。

責任の重さというのは会社員の頃とは雲泥の差があります。

自分の思い通りに動く人はいない。

Web制作会社に社員として勤めていて、社長がワンマンだとか、上司が不条理だとか思ったことは数知れません。
しかし、社員の面倒もみながら経営をしていくと、ワンマン社長のあの時のいら立ちや苦労が、今なら分かる気がします。

小さな制作会社であればあるほど、一人の社員に多くのことを求めてしまいがちです。

しかしそれに反比例して、優秀な人ほど小さい制作会社になんて、応募をしてくることはありません。

私は起業に携わるまでは、上司として指示をするというよりは、プロジェクトのリーダー(ディレクター)として関わってきました。
お互い社員同士なので、プロジェクトメンバーが動きやすいようにスケジュールを調整したり、悩みに乗ったり、同じ立場で接することが出来ました。

それが経営側と社員という関係になると、そうもいかなくなります。

よく社長と社員もさん付けで呼び合うような、フレンドリーな関係という会社もありますが、関係性はそうであっても、社員と経営者では責任が違います。

私の場合は、責任感からか人間の器の小ささからか、思うように成果が出ない、売り上げが上がらない、ということで、ずいぶんと社員にきつく当たってしまう時期があり、ほとんどの社員が辞めてしまったことがあります。

今でこそ社員の方には長く勤めていただいていますが、最初は自分の考えていること、自分ができることはできて当然!何でそんなこともできないんだ?!くらいの気持ちで接していたので、ストレスを与えあっているような状況でした。

人は自分の思い通りには動かないということは、やっと最近自分の中でも納得して考えるようになった気がします。

友達同士や意気投合した人と一緒に起業する、ということもあるでしょう。しかし会社の経営となると、今までなかった摩擦が起きることはたしかです。

私の会社も最初は意気投合して、世の中にない面白いWebサービスを作ろう!と立ち上げました。
しかし最終的にはすったもんだあって、現在の創業メンバーで会社に直接携わっているのは私ひとりになりました。

今まで部下や後輩、プロジェクトメンバーをうまく動かしていた人であっても、会社の存続をかけて社員を動かすというのは、今までのチームを動かすのとちょっと違うと思います。

一人では大変なので、社員を雇えば自分の負担は減るどころか、自分の負担が増えることの方が多いです。

それは経営者なら覚悟しないといけないことですが、「人は自分の思い通りには動かないものだ」と念頭に置いておいて接することで、ストレスは少しでも減ると思います。

私はこのことに納得して考えられるようになるまで、10年かかりました。

****

昨今では起業・独立を進める記事を見かけることが多いです。

やりたいと思ったら、飛び込んでしまえば案外うまくいく、というのはその通りなのかもしれませんが、勢いよく飛び込んで溺れる人がいることもたしかです。

私のところにも、Web制作会社が潰れたので業務を引き継いでほしい、という相談はよくあります。

特に「今の会社が嫌だ」とか「会社という組織でやっていくのがきつい」という、ちょっと後ろ向きな理由で起業を考えている方は、今一度自分の状況を見直してみた方が良いと思います。

今の会社が嫌でも、転職してみると自分を認めてくれて、伸ばしてくれる会社に出会える可能性もあります。

私は起業してみたいという気持ちは少しはありましたが、小心者でリスクヘッジをする性格なので、なかなか自分でゼロからやろうと行動に移せませんでした。

運良く今の会社のオーナーに誘われて起業に携わりましたが、実際にやってみるとかなりの苦労もしましたし、一時期はストレスもかなり大きなものでした。(ストレスで、毎晩夜遅くまで酒を煽るような生活をしていました)

ただ、その経験のおかげで、自分がゼロから起業をするなら、またあれをゼロから始めるんだ、とかやるべきこととやらない方が良いことは、明確にイメージすることはできます。
(成功するイメージがなかなか湧かないのですが・・)

突然降ってわいてきたストレスやトラブルよりも、ある程度、他人の経験を通して覚悟をしておくと、受け止め方が違います。

ということで、小さなWeb制作会社を立ち上げた際の、小さなお話ですが、これからWeb制作で起業をしようと考えている方の、少しでも参考になれば幸いです。

マガジンでWeb制作会社の経営にまつわる、リアルな体験談を掲載していますので、こちらも気になる方はご購読ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?