『サムソンという街にて(ベトナム)①』  1997.5.27

『サムソンという街にて(ベトナム) ①』  1997.5.27

 サムソンという街にはバスにて朝の3時30分頃に着きました。夜明けを待ち、バス停から宿があると思われる方向へ歩いて行くと青い海が見えてきました。そこには海の家がありビーチパラソルがあり、まるで日本の海水浴場のようです。

 外国人の観光客は誰一人としていません。ベトナム人だけです。しばらくの間、海に見とれていたのですが、何よりもまず今晩泊まる宿を探さなければいけません。ベトナムに入ってからはガイドブックにはあまり頼らずに自分で探すようにしているので、安いホテルを求めて歩き回らなければいけません。

 サムソンでは5 US ドル(約500円)の宿を見つけると決めていたので、見つかるまで歩き回ろうと決めていました。歩いていると向こうから声がかかってきました。しかしベトナム語なので何を言っているかよく分かりません。しかし彼はホテルの方を指さしているのでシクロ(自転車タクシー)等の客引きではないようです。

 シクロの彼に従ってホテルの方行ってみると、なんとも立派な建物が見えてきました。“これでは10 US ドル以上はするな”と思い立ち去ろうかと思ったのですが、すでにホテルの従業員が7~8人ぐらい僕の周りに集まってきてしまったので、簡単には断れない雰囲気になってきました。

 一応、「バオニュー?」とベトナム語で料金を聞いてみると、15 US ドルという答えが返ってきました。「ダックワァー」(高い!)と言うと、「ノー」とおおげさにリアクション付きで彼は言いました。結局は8 US ドルまで下げたのですが僕は5 US ドルでないと泊まらないと決めていたので、「他を回ってみてからまた来るよ」と言うと、「 OK」 と言って「バ~イ」と言って手を振っていました。

 どうも8 US ドル以下にはやはり下がらないようです。同じようにして何軒か見て回ったのですがやはり6USくらいしか下がりません。それと先ほどから物珍し違って僕の後についてきているシクロの兄ちゃんが、「こっちに安い宿があるよ」と言っています。

 ただし彼も英語が話せないので多分そう言ってるんだと思い彼についていくと、人の良さそうなお兄ちゃんが出てきて、「こっちのホテルへ来い」と手招きをしています。一応そのお兄ちゃんについて行ってみると、そこそこ小綺麗なホテルが目の前に現れました。

 お兄ちゃんは“とりあえず部屋を見てくれ”と言ってるようです。今までのやり取りは全てベトナム語でサムソンに英語を話せる人はいないようで、部屋を見るよりとりあえずは値段交渉しなければいけないので、「一泊いくらだい?」と聞くと 10万ドン(10 US ドル)だと言います。「ダットクワァー(高い)」、4万ドン(4US)にしてくれと言っと、「4万ドン? そんなの無理だよ」とちょっと呆れたような顔で笑っています。

 もう交渉の時点で僕らの周りにたくさんの人が集まってきています。サムソンで外国人が珍しいようで、このお兄ちゃんの兄弟、お母さん、お父さんいとこなど全て集まって僕らのやり取りを面白そうに見ています。僕はこのような値段交渉の際は“極力ニコニコ”しながらオーバーアクションで楽しそうにやるようにしています。

 そうすると当然相手の対応も優しくなり、交渉が終わる頃にはフレンドリーな関係が作られているのです。「お兄ちゃん、もうちょっとまけてよ」「そんなにマケたら全然儲けがなくなっちゃいますよ」「そこをなんとかお願い!」「しょーがないなぁー。じゃあ特別に5万ドン(5US)でどうですか?」「よしじゃあ、5万ドンで泊まりましょう!」お兄ちゃんと握手を交わし、部屋を見せてもらうとかなりいい部屋です。

 ツインベッドの結構広い部屋で、バスルームもついておりトイレも水洗、テレビまであります。今までと泊まった部屋で一番いい部屋です。これで5万円は安いなと、なんだか幸せな気分になってきました。


 しばらく部屋で休んだあと、喉が渇いたのでホテルのおばちゃんに「I want have something cold drink」(何か冷たい飲み物はありますか?)と言ってみましたがやはり全然通じないので、ジェスチャーで腰に手を当てて飲み物をゴクゴクと飲む真似をしてみたのですが、“何やってんのあんた?”とおばあちゃんは不思議そうな顔をして、またしてもホテルのみんなを集め始めました。

 さんざんいろんなジェスチャーをしたあと、最後に「コカ・コーラ」と言うと、“なんだ。コーラのこと言っていたの? 初めから早くそ言いなさいと!”という風に僕のお尻をピシャリと叩きました。

  本当は炭酸系以外のもの飲みたかったのですがやむを得ません。僕がレストランのテーブルに腰掛けてコーラを飲んでいると、みんな僕の周りに座りはじめました。またしても5~6人に囲まれてしまいました。よほど外国人の珍しいのか、それとも暇なのかよく分かりませんが僕に色々と話しかけてきます。

 『ベトナム・日本会話集』という虎の巻があったので、ほんの少しのベトナム語はわかったのですが、ほとんど理解できないのであやふやに答えていると、それでもみんな僕の方を見ながら何やら楽しそうに笑っています。その笑いは好意的なものだと分かるので、こちらもとりあえずニコニコしながら適当にうなずくより仕方ありません。

 その輪の中に13歳の双子の女の子たちがいて、このうちの一人が英語が話せるので僕に色々と聞いてきました。「How old are you?」 僕が「27歳」と言うとその子がみんなにベトナム語で通訳します。それとおばさんは「嘘、おっしゃい。せいぜいあんたは23歳ぐらいしか見えないわね。」などとオーバーなジェスチャー付きで笑いながら言っています(27歳も23歳もそんなに変わらない気がしましたが)。

 そして女の子が紙に「You are nice(あなたは素敵)」と書いてきました。たぶん彼女は英語で話せる最大級のお世辞なのでしょうが、何やら嬉しくなり「カム・オン」(ベトナム語でありがとう)と言うと、「おー、べトナム語でありがとうだって!ははは~」と大笑いになりました。

 どうやら彼らにとって僕はいい暇つぶしになってるようです。彼らとの会話に少し疲れてきたので「海を見てくる」と言って逃げてきました。彼らの会話は想像力をフルに使わなければいけないので大変です。

 サムソンではただ歩いてるだけでは外国人だと気付かれません。ただし物を買う時にはやはりばれてしまうようです。僕もジュースを買う時はベトナム語を話すのですが、僕のベトナム語がぎこちないためか、たまに気付かれてしまいます。

 この時も海を見ながらスプライトを飲もうと思って値段を聞いたのは良かったのですが、おばあちゃんが何か話しかけてきました。何を言ってるのか全然わからなかったので仕方なく、「僕は日本人なので何を言ってるかよく分かりません」と言うと、おばちゃんは驚いて近くにいた英語話せる少年を連れてきました。

 その少年によるとおばちゃんは、「氷はいるかい?」と聞いたそうです。そのやり取りを聞いてから妙にその一帯がざわざわ始めました。そして椅子に座って海を見ながらスプライト飲んでいると、案の定二人の少年がニコニコしながら現れ、「Where do you come from?」(どこの国から来たのですか?) と聞いてきました。彼はサムソンに住んでいるようで英語と勉強し始めたばかりらしいのです。

 僕よりもたどたどしい英語で色々と質問してきます。二人ともまだ18歳であり、子供っぽさが残っていました。彼らと“明日一緒に泳ごう”と約束して30分ぐらいで別れました。サムソンでは一人ではボケッとしようと思ってきたのですが全然ゆっくりできません。


 海からホテル帰ってくると、またみんなはテーブルに集まってきていました。さりげなく通り過ぎようと思ったのですが“お兄ちゃんこっちへ来なよ”というふうに手招きしています。案の定また捕まってしまいました。

 仕方なく椅子に腰を下ろすと、男の人たちは太い木のパイプをみんなで回しながら吸っています。マリファナです。僕も勧められましたが断りました。ベトナムではマリファナは結構みんな吸っていて警察側も一応黙認しているようです。ちなみにハノイで会った日本人は警察官に「お前も吸いな」と勧められたことがあるようです。

 この時には4歳の男の子からおじいちゃんまで、家の人みんなの名前を覚えさせられました。そして彼らも僕のことを“ヨッシー”と呼ぶようになりました。普通のベトナム人と接したくてサムソンに来たのですが、偶然にも楽しいメンバーに巡り会えました。サムソンに来るまでは大変だったけど、ここではいい思い出が作れたような気がしました。


 夜、食事から帰りベッドの上でゴロゴロしていると、とんとんと部屋をノックする音が聞こえました。出てみると4歳の男の子と13歳の女の子が立っていました。僕は彼らが遊びに来てのだと思い、ちょっと待ってて、今行くから!」と部屋の鍵を閉めフロントの方まで歩いて行くと、24歳の頃お兄ちゃんがいて僕に何やら「Sorry」(ごめんなさい)とすまなそうな顔して謝ってきました。

 彼は彼の友人でしょうか、英語話せる男の子を連れてきていました。彼の友人の話によると、「あなたをこのホテル止めることはできない」というのです。はじめは宿泊料金を値下げしすぎだろうしたため、“もっと出してくれ”と言われるのかとおもいました。

 私は「Why?」(なぜですか?)と理由を聞くと彼ははしっかりとした英語で説明してくれました。「ポリスチェックが入ったのです。ポリスがあなたを止めてはいけないと言ってるのです。」と言う。

 ポリスチェック?。よく言ってる意味がわからなかったのでもっと詳しく聞いてみると、ベトナムには外国人を止めて良いホテルとそうでないホテルがあり、彼のホテルはどうも後者のようなのです。そして先ほどポリスがやってきて忠告して言ったようなのです。

 ここのホテルのお兄ちゃんの方を向くと、すまなそうに「Sorry」と言いました。通訳の彼は続けました。「あなたは今ホテルを移らなければいけないのです。でも今安いホテルを探しに行っているので待っていて下さい。」と言っています。

 しばらく待ってると、二軒となりのホテルのおじさんが現れ、同じ料金の5万ドンで止めてくれとのことです。せっかく楽しい宿に巡り会えたのですが仕方ありません。宿のお兄ちゃんは、「ホテルが移ってもいつでも遊びに来てください。歓迎しますので!」と言ってくれました。

 最後にみんなで記念写真を撮り、そしてその家の家族みんなに見送られながらホテルを後にしました。みんな笑顔で写っているこの写真。

 きっとこの1枚の写真はかけがえのない思い出の写真になるような予感がしました。


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