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菜の花のパスタとシチリア人ジョバンニの恩返し

2月に入ってから、近所の農家さんの野菜直販所では盛大に菜の花が売られています。東京に住んでいた時は旬の割高な食材のイメージだったのに、ここでは豊富に安く手に入る。これはまるで、、、そう、自分の記憶の中ではミラノを思い出す状況です。

今日は、あの時と同じ菜の花のパスタを作りつつ、愉快な安宿の仲間の思い出話。レシピは文章の最後に。

2013年2月7日。極寒のミラノを出てメキシコのカンクンに飛ぶ飛行機に乗ろうとした私たちは、離陸3時間前に空港に到着したにもかかわらず、当該フライトが15分前に離陸してしまっていた事を知って愕然としたのでした。

格安航空会社で買ったチケットについては、前日に航空会社から「出発時間が3時間ほど早まりました」というメールが来ていたのですが、勝手に迷惑メールに入ってしまっていて気づけなかったのでした。

慌てて航空会社に電話するも、格安故に何の保証もなく捨てチケットとなりました。次の便は11日後。我々は図らずも11日間ミラノに足止めを食らうことになったのです。

予定外に物価の高いミラノでの宿泊となったので、急遽、今までよりも安い宿を探して予約。大きな荷物を抱えてミラノ市街から空港、そして再びミラノ市街へ戻ってきてチェックインするというバタバタな一日にぐったりと疲れた日でした。

空港で次の航空券や宿の予約をする図。荷物背負ったままの姿に焦りがにじんでるなぁ。

そして翌日、用事を済ませようと宿の外に出ると目の前の路では青空市場が開催されていました。昨日の疲れを忘れさせてくれる新鮮な食材。そこで出会ったのが「チーマ」と呼ばれる野菜でした。菜の花です。わずかな金額で大量のチーマを入手し、魚屋で見つけた白魚も買って、ご機嫌なランチを作ろうと宿の最上階にある共同キッチンに行きました。

調理し始めたところに、昨晩もキッチンで言葉を交わしたジョバンニがやってきました。自称マグロの仲買人で、友人に会うためにミラノに来た、滅法明るいシチリア人。今日も我々の顔を見るなり、「おお、チーマか。チーマのパスタか。チーマを茹でさせたら俺の右に出るものはいないんだぜ」とか言って、ジョバンニ主導で調理が始まってしまったのでした。

ジョバンニに乗っ取られた!

実は白魚もあるんだよねー。と見せると俄然やる気になったジョバンニ。それを悟られまいとジョバンニは「あぁ、これは見た感じシチリア産じゃなくて中国産の安いやつだなぁ。キロ2ユーロってやつだね」とか言う。いやいや、キロ30ユーロの高級品なんですけど。でも、ジョバンニのほころんだ表情から、この白魚が高級品である事はちゃんとわかってる様子でした。

「俺の分は少なくていいんだからね」と気を遣うジョバンニ。図々しさと気遣いのバランス感覚が素晴らしくて、まぁ憎めないヤツです。

ということで、和やかにランチ

その夜。「今夜は俺に奢らせてくれ」とジョバンニが近寄ってきました。メニューはツナ缶とトマトのスパゲッティ。ジョバンニいわく、ミラノで見つけられる限りの最高級品を町中歩いて探してきた、極上のツナ缶だそうです。その真偽はともかく、本場シチリア人のパスタの作り方を目の前で見る事ができたのは勉強になりました。

ポイントはフライパンに1cmほどの深さまで入れた大量のオリーブオイル。これがトマトの水分と合わさって乳化してトロミのあるソースになるのでした。しかも、かなりアルデンテで茹で上げたパスタをフライパンに移してから強火で焼き付けるように炒めていたので、やや焼きそば風。これがまた食べた事のない美味しさでした。

以来、パスタを作る時は多めのオリーブオイルで水分と乳化させるレシピにしています。

さて、ジョバンニの恩返しはこれだけではありませんでした。安い箱ワイン2リットルとおしゃべり。夜も更けてキッチンに集まってきた各国の旅人にワインを振舞いながら、彼の65年の人生に起こった女性遍歴の武勇伝を滔々と語り始めました。

中でも面白かったのは、彼がシチリアの土産物屋をやっている時に、街に映画のロケハンがやってきた時の話。黒髪のスロベニアの美人女優が、休み時間となるとジョバンニの店を訪ねてくるようになりました。どうやら彼に恋をしてしまったようです。「俺と出会った女性は大抵はそうなるんだよ、仕方ないよね」とジョバンニ。

出会いから、逢瀬の楽しい話が3エピソードくらいあって、いよいよ映画の撮影が終わってシチリアを去る美女との涙の別れの話まで、全編を遠い目をして語るジョバンニと、笑いを堪えて懐疑的に聞くその他の酔っ払い達(私達を含む)。

ほぼ全員が泥酔野郎

そろそろ話が終わったかなー?と皆が思い始めた頃、ジョバンニは財布の中から古びた写真を取り出してテーブルにバンッと置いたのでした。そこには若かりし頃のジョバンニと、彼よりも頭2つくらい背の高い黒髪の美女が写っていました。「ほーら、俺の話は本当なんだからな!」というジョバンニのドヤ顔に一同、大爆笑となったは言うまでもありません。

この晩は、ジョバンニの他の武勇伝に加えて、フランス人青年達の旅の話や、スペイン人ゲイ男性のファッションデザイン画の披露なんかがあって、もう最終的には全員がベロベロに酔って、好きなだけ喋って解散となりました。

この日から出発までの10日間、毎晩のように色んな旅人と夜の宴会を繰り広げたわけですが、ジョバンニほどのインパクトのある人は他にはいませんでしたね。菜の花と白魚のパスタの恩返しとしてはお釣りが出るくらい、面白い夜を過ごさせてもらいました。

というわけで、今日は菜の花のパスタ。ほろ苦い春の味をアンチョビの旨味で楽しむ一品です。


★ 『菜の花のパスタ』
<材料 2人前>

  • スパゲッティ 250g (普通は200gだと思います)

  • にんにく 1かけ

  • 唐辛子 2本

  • アンチョビ 4尾

  • 菜の花 150g

  • 仕上げ用
     ―塩
     ―胡椒
     ―エキストラバージン・オリーブオイル
     ―コラトゥーラ/しょっつる/ナンプラー/ニョクマム


<作り方>

  1. お湯を2.5リットル沸かす

  2. 冷たいフライパンにオリーブオイルをしき、にんにくのスライスを入れて弱火

  3. にんにくが薄く茶色に色づいたら唐辛子を2-3に割って入れ、細かく切ったアンチョビ、ざく切りにした菜の花の茎部分を入れる

  4. 1に塩とスパゲッティを入れて、記載の湯で時間より2分少ない時間で茹でる

  5. 3全体に油がまわったら4のゆで汁をお玉で2杯入れてフタをする

  6. 茹で上がったスパゲッティと菜の花の残りの部分を5のフライパンに入れる(茹で汁は残しておく)

  7. 手早くかき混ぜて水分と油分を乳化させる(水分が足りなければゆで汁を追加)

  8. 器に盛って仕上げの調味料で味を調節。アンチョビの旨味が少ない場合はコラトゥーラか類似品で調節

余っていたスパゲッティ。茹で時間が違うので時間差で茹でる
オリーブオイル、にんにく、唐辛子、アンチョビ、菜の花の茎まで投入したところ
召し上がれ!

今回は冷蔵庫にうるめいわしが余っていたので、グリルしてトッピング。アンチョビの風味は菜の花にはしっかりついていたのですが、スパゲッティにまではまわっていなかったので、仕上げにしょっつるを加味しました。


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