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盛岡、地域に根ざし暮らす人。

半年ぶりに、盛岡駅へと降り立った。

仕事の合間に立ち寄った喫茶店。

扉を開けた瞬間、珈琲の深い香りが鼻をくすぐる。
「いらっしゃいませ。」
店員さんのやわらかい笑顔に誘われるように、カウンターの端っこの席に腰を下ろした。

店内は、ほぼ満席。
半分以上が常連のお客さんのよう。

「わたし、昔このライブに行ったのよ。武道館に見に行ったの。」
海外のアーティストのCDを片手に、嬉しそうにご婦人が話している。

また一人、常連らしきお客さんがお店にやってきた。

「何時のバスに乗るの?病院間に合う?」
店員の男性がさりげなく声をかけている。

外は、冷たい雨。
店内にはあたたかな空気と珈琲の香りが満ちて。
忙しない毎日の中で知らず知らずのうちに固く結ばれていたこころが、少しずつほどけていくのが分かる。
このまま、うとうと、眠り込んでしまいたい…。

盛岡には、もうすぐきっと長い深い冬がやってくる。

この街に、地域に根ざしてお店を営み、暮らすひと。

"いつもの"会話が行き交う場所。

今日もこの街で変わらず続いている、日々の営み。きっと明日からも続いていくであろう、暮らし。

それが"生活"そのものであるゆえに、もちろんいいことばかりではないだろうけど。

誰かの拠り所となる場所を地域につくる、そして続けていく、いつかそんな暮らしをできたら、と。
中深入りの珈琲を飲みながらぼんやりと想いを巡らせた午後。

帰り際、お店で飲んだものと同じ豆を買った。
東京に戻り、この豆を挽いて淹れて口にする時、きっとわたしは盛岡で暮らすひとのことを思い出すのだろう。

また帰りたい、と思う大切な場所が増えていく。
それってもしかすると、ものすごく幸福なことなのかもしれない。

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