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ストックオプションを再定義するnote ― ポータブル型ストックオプション

0.はじめに


アクセラレート法律事務所の西原です。

先月Facebookで「2023年はSOを僕らで再定義しましょう」という投稿をしたところ、何人もの方からご連絡をいただいたので、改めて詳細書くべくnoteの筆を取らせていただきました!ご連絡いただいた方はありがとうございました!

つい先日、国税庁が信託型ストックオプションについて総合課税する方向での発表があり、スタートアップ業界へのネガティブな影響が懸念されているところではあります。


正式な見解は未公表なので、信託型ストックオプションに関する詳細については述べませんが、これを契機としてストックオプション実務が大きく見直されていくことでしょう

一方、ストックオプションに関してはネガティブな話題だけではなく、ANRIさんがInvestment Policyを公開して、原則ストックオプションプールを20%とする設計旨を公表し、これに続くVCも出てきており、スタートアップ・従業員にとってポジティブな変革も始ってまっております。

Nstockさんをはじめ、現状のストックオプションの制度・商慣習上の課題認識が広まってきている背景の中、上記信託型SOへの課税処理を契機として、2023年という年はSOを改めて再定義していく年になると考えております。


私自身のプロフィールはHPにもありますが、弁護士として一年目から今に至るまでストックオプションの制度設計に関わり、事業家としても自社の資本政策を組み立てる中で何度も設計・発行してきました。


SOは本来、リソースが乏しいスタートアップが優秀な人材を採用し、会社・投資家側と同じ企業価値向上に向けたインセンティブ付けができる、素晴らしいツールです。


SOによってスタートアップが成長することはパイが大きくなることなので、スタートアップ・起業家・投資家、引いては(法人税の納付を受ける)国税を含めたすべてのステークホルダーにとってプラスになるはずなのですが、各ステークホルダーが自分のポジションから見た取扱い・慣行を求めて個別最適になった結果、SO本来の潜在価値が発揮できていないのでは?という問題意識を持っております。


「どうせ再定義していくなら、これを機にSO本来の潜在価値を最大限発揮できる形を考えてみよう」という発想で、今回、現行のSOに関する課題と、それを解決して、SO本来の潜在価値を最大化できる、ポータブル型ストックオプションについて、紹介したいと思います。


SOがポータブルか否か(=退職後も行使可能か否か)という以外の論点・設計についても書いており、また、全ての会社でSOをポータブルにすべきとまでは考えておりませんが、ポータブル性の有無が一番クリティカルに思いましたので、論点化させるべく「ポータブル型ストックオプション」という名称を付けた次第です。

そもそもストックオプションの制度概要や種類について知りたい方は、下記のnoteがよくまとまっておりましたので、こちらを先に読んでいただくことをおすすめします。


1.ストックオプションの本質的課題


まず、私がストックオプションの本質的課題だと考えているのは、(1)フェアな制度設計にすることの難しさと、(2)SO長者の事例(=成功事例)が少ないことの2点です。特に(2)が根深いですが、順を追って説明します。


(1)フェアな制度設計が難しい


上場した会社の人から話を聞くことがありますが、幹部メンバー全員がSOの割合に心底納得している会社は聞いたことがありません


SOの割合のセオリーは取ったリスク(入社時期)×貢献への期待値・実績(役職)で決めるというセオリーはありますが、入社時期も違えばパフォーマンスも違うメンバーをフェアに評価することは難しいのが実態です。


私自身、発行を検討する立場になって痛感しましたが、SO割合の決定は経営として最高レベルに難しい意思決定だと思います。

なぜなら、将来のパフォーマンスや組織構成という不確実さを踏まえた上で、エクイティ割合という不可逆の意思決定をしなければいけないからです。

特に、初めての起業だとSOの仕組み自体よく理解できておらず、アドバイザーに聞いても熟知しているアドバイザーが少ないという課題もあります。


上記に対応するべく、SO割合を後決めできるものとして信託型SOが普及しましたが、上記の通り税務上の課税が大きな論点になっている状況です。

(なお、信託型SOは付与割合が約束されず、制度としても複雑なため、付与者にとってインセンティブの要素が弱まってしまうという問題もあります。)


(2)成功事例(=SO長者の事例)が少ない


これはスタートアップのエコシステムとしての問題でもありますが、SO長者の事例が(特に欧米に比べると)圧倒的に少ない問題があります。


SO長者の定義にもよりますが、日本の生涯年収が2億1568万円(2022年)らしいので、仮にSO長者を2億以上の含み益を手にした人とするならば、日本でSO長者を数十人単位で生んだのはメルカリやビジョナル、ANYCOLORさんくらいではと思います(定量調査をしたわけではないのでご容赦ください)。


日本のIPOの相場は時価総額80億前後なので、普通の会社ではIPOを達成できても、SO長者になれるのは初期から残った経営幹部数人くらい、というのが実態だと思います。


SO長者が少ないのがなぜ問題なのかといいますと、(a)リスクを取ってスタートアップにジョインする人が減ってしまい、さらに(b)SOを元手にエンジェル投資や起業する人が増えていかないからです。


(a)については文字通りですが、皆さんのまわりでスタートアップに社員として入社して、SO長者になった人がどれだけいますでしょうか?

昨今はスタートアップブームが広がっているものの、創業メンバー以外はほぼSO長者になれないのが現実だと思います。

逆に、昔の同僚や知り合いがSO長者になっている人であれば、スタートアップでいっちょ当ててやるか?という人が増えてくると思います。


(b)は特にエコシステムに与える影響が大きく、SOのキャピタルゲインはただの個人資産ではなく、エンジェル投資や起業の元手にされるケースが多いので、どんどん循環していきます

SOがもっている本来のポテンシャルは相当大きく、SOのキャピタルゲインを元手にした会社がエグジットして、さらにその会社のSO保有者が儲かる、などの循環も考えると、現在の10~100倍くらいのポテンシャルがあると思います。


ではなぜSO長者が少ないのかといいますと、日本でユニコーン上場がそもそも少ないから、という理由もありますが、以下のSOの仕組み上の問題が大きいです。

①退職時に失効してしまうこと

②ストックオプション・プールが10%までという商慣習が存在すること

③税制適格(無償)SOではM&Aエグジットの場合に税制適格を捨てざるを得ないこと

順を追って説明します。


①退職時に失効してしまうこと


一番の問題だと思うのが、退職時にSOを全て(=べスティング済み分も含め)行使できなくなるという商慣習です。


そもそも、SOを経済的に見た場合、給与を下げることに対する補填であり、スタートアップに転職するリスクに報いるためのリターン、という意味合いが大きいです。


一方、上場までかかる年数は長く(最近では長期化の傾向もあります)、またフェーズによってジェネラリスト型orスペシャリスト型など、活躍できる人材に大きな違いもありますので、初期にジョインした幹部や社員がSOをすべて行使できる(=べスティング満了)まで在籍している可能性は低いのが現実です。


それにもかかわらず、退職したメンバーに対してSOの行使を一切認めない設計は、フェアではありません。また、その設計が理由で初期に多くの割当を受けた付与者が退職後に行使することができず、結果としてSO長者が少ない一番の理由になっていると思います。


さらに、SOを失効させるメリットとしてよく言われるのは株式を希薄化させずに済む、SOで人材を引き止めること(リテンション)ができる、というものですが、実は退職時にSOを失効させる設計にするのは会社にとってもデメリットが存在します


このデメリットはあまり知られていませんが、
(a)退職時に失効させるSOでは採用が困難になってきていること、
(b)SO行使の目的のために活躍できなくなった初期メンバーが辞めず、組織の新陳代謝が進まなくなること、
(c)退職後に関係悪化しやすいこと
、の3つです。

(a)退職時に失効させるSOでは採用が困難になってきていること

特にエンジニア採用で顕著ですが、優秀なエンジニアであれば既にスタートアップで勤務したものの退職時にSOが失効して一切キャピタルゲインを得られなかった、という経験や、そうした知人が多く、SOに関する知識を持っているエンジニアが増えています。

一方で、エンジニアは完全な売り手市場であり、そもそも平均在籍年数が2~3年という業界なので、IPOまでの5~10年コミットできる人材はめったに存在しません

初期フェーズであれば社長の友人・知人つながりで採用できるかもしれませんが、エンジニアを組織化するタイミングで、SOの制度設計がボトルネックになる可能性が高く、いざ変更しようにも(退職時に失効させるSOで設計した)初期メンバーとの不公平さがでてしまうので、行き詰ってしまうリスクがあります。

(b)SO行使の目的のために活躍できなくなった初期メンバーが辞めず、組織の新陳代謝が進まなくなること

上記は本当にある話で、初期に入社したものの、ポジションを奪われて活躍できず、やる気もなくなったメンバーが、数千万~数億のSOのために会社にしがみついて辞めない、という現象は実際に耳にしたことがあります

一般論としても、スタートアップのシード期では幅広に手を動かせる人材が求められる一方、レイタ―以降だとマネジメントや専門性が求められるケースが多く、初期に入社したメンバーがレイタ―以降も大活躍する、というのは現実的には厳しいケースも多いです。また、日本では解雇規制が厳しいので、パフォーマンスを出せなくなったからといって解雇することも原則できません。

それにもかかわらず、なまじっか退職時にすべて失効するSOにしたばかりにそうした人にしがみつくインセンティブを与えてしまうのは、会社にとっても、本人にとっても、また本当なら初期フェーズでの戦力として採用できたかもしれない他のスタートアップにとっても不幸なのではないでしょうか

リテンションの仕組みについては、別途べスティングをうまく設計して、退職時にべスティング期間が満了したSOだけ行使できる設計にするのが良いと思います。

これにより、長期間在籍するメリットを与えつつ、フェーズが合わなくなった場合や家庭の事情などにより辞めても一部行使はできるので、在籍するインセンティブとして中立・最適なものにできます。

(c)退職後に関係悪化しやすいこと

これはどういうことかというと、頑張って貢献したにもかかわらず、SOがすべて失効するというのは本人からすると心理的には非常にネガティブです(取締役会決議で特別に行使を認めるパターンもありますが)。

そのため退職後、会社に対する不平不満を社外に発信してレピュテーションを棄損したり、競合他社に意図的に転職してしまう可能性もあります。

逆に、SOを一部でも行使可能にすることで、副次的ではありますが、インセンティブを同じ方向に向けるというのがSOの本質的なメリットを退職後も生かすことができます

つまり、会社の上場可能性を低めるような行為を抑制するインセンティブを与えることができ、退職後もポジティブな関係を築きやすくなります。

以上、退職時に失効させるデメリットを見てきましたが、SO長者の事例が少ないのは、他にも理由があります。


②ストックオプション・プールが10%までという商慣習が存在すること

ストックオプション・プールとは、上場までの間に会社の判断で発行することが可能なSOの総枠をいいます。

株主からすればSOの分、株式が希薄化するのでSOの発行量を一定程度に抑えたいニーズがあり、実務的に10%がハードルといわれております。

メルカリさんのように20%近いストックオプションも発行するケースも増えていますが、10%以上の枠を投資家に受け入れてもらうには株式価値と人材採用の必要性について説明する必要があります。

そのためSOの発行は現実的には10%未満になっている会社が大半で、総枠が少ないことがSO長者が少ない原因になっていると言えます。

冒頭でご紹介したANRIさんのように、ストックオプション・プール20%を許容してくれる投資家が増え、10%という商慣習が見直されていくことを期待したいです


③税制適格(無償)SOではM&Aエグジットの場合に税制適格を捨てざるを得ないこと

SOで一番普及しているのは税制適格(無償)SOだと思いますが、M&A時にワークしなくなる点はあまり知られていません。

その理由としては、テクニカルに3つ存在し、税制適格の要件として(a)割当契約において行使期間が2年以上10年(直近で15年に改正)以内と定められており、付与から2年以内にM&Aが生じた場合に当該SOは行使できないこと、(b)証券会社等による保管・管理要件があり、M&Aのスケジュールでこれを満たすよう織り込むのはハードルが高いこと、(c)年間行使額が1200万円までとされており、(特にレイタ―期に多く割り当てを受けた社員は)一部しか行使できなくなる可能性があること、の3つです。

勿論、税制適格を捨ててSOを行使することは可能ですが、その場合は最大で55%の総合課税になります。しかし、例えば2億円のキャピタルゲインを得るはずだった人にとっては手取りが1億6000万になるか1億円になるかが変わってくるので、違いとしては相当に大きいです。詳細については下記のnoteでも解説されておりましたので、ご参照ください。

なお、上記ハードルのうち(b)の保管管理要件については「スタートアップ5か年計画」で当初見直す旨が定められておりましたが、直近の税制改正大綱では削除されており、今後の税制改正が望まれます。

また、一部で、M&A時も行使可能な税制適格(無償)という設計も検討されていたり、雛型として公開されていたりするケースもありますが、上記の実務的なハードルは依然として残っている理解です(詳細は各社に直接お問い合わせください)。

スタートアップでM&Aの可能性がゼロだと言い切れる会社はそうそうないと思います。

そのため、M&A時にも確実に行使可能な設計にするには有償SOを選択する必要があり、その場合にはオプション算定とオプション料分の有償での払込みが必要なため、税制適格(無償)SOと比べて設計コストが高いのが難点と言われております。


2.ストックオプションの課題が放置されてきた構造上の原因


以上、ストックオプションの課題を見てきましたが、次に、日本で上記のうちSOの成功事例が少ない課題の原因(=①退職時に失効してしまうこと、②ストックオプション・プールが10%までという商慣習が存在すること、③税制適格(無償)SOではM&A時にワークしないこと)が長らく放置されてきた構造上の原因について、踏み込んで考えてみたいと思います。


(1)税制適格要件以外の論点の矮小化


ストック・オプションに関する書籍を読むと、その多くが税制適格要件に関する説明ばかりなのに驚きます。M&A時にワークする有償ストックオプションについては解説すらされていないケースもあります。

従業員からすると、退職後も行使可能か否かや、べスティング要件や起算日をどうするかなどの論点も同じかそれ以上に大事なのですが、実務上は税制適格要件を満たすことばかりが検討事項になり、それ以外の論点が結果として深く議論されないまま発行してしまうケースが多くなってしまったものと推測しています。


(2)官民での問題意識のズレ


2022年11月に「スタートアップ5か年計画」が発表されましたが、直近の令和5年度税制改正を読むと、税制適格SOの期間が10年から15年に延長させる旨の改正が定められました。

もっとも、税制適格SOがそもそもM&A時にワークしない原因になっている保管管理要件の見直しは改正対象から落とされ、ストックオプション・プール枠の量的拡大や退職時に行使可能なSOを広めること、などについては「スタートアップ5か年計画」に記載すらされていません


そもそも税制適格SOは社外の人に配るハードルも高いなど、その他の点でも全体的に使い勝手が悪く、民間の知恵として有償SOや信託型SOが生まれて、これだけ普及してきました。その信託型SOについて、国税庁が実質的に潰す形で方針が公表されたことは、前期のとおりです。


だから政権批判をしたいというわけではなく、官民の役割分担と問題意識の共有をSOの領域でもしっかり行う必要があるように思います。


(3)雛型化による弊害


上記課題①②が商慣習であったように、ストックオプションの課題は商慣習による部分が大きいです。

この背景には税制適格ストックオプション契約の雛型が普及し、これに従っていれば問題ないだろう、という安易な考えで発行した結果、商慣習が維持・強化されてきたという見方もできます。
(他社と同じだから、ということで従業員側を納得させてきたという言い方もできます。)

もっとも、ストックオプションはエグジットの選択肢や規模感・時間軸、PMFの有無、組織構成、資本政策の状況によって採るべきパターンが異なるので、本来雛型化にはあまり馴染まないタイプの契約です。
「雛型と同じなら問題ないだろう」という日本人あるあるの発想で自社に合わせたカスタマイズがされていないのだと思います。

「当たり前になっている前提を疑って変えていく」のがスタートアップの得意領域であり、やりがいだと思うので、是非この商慣習を変えていきたいと考えております。

また、スタートアップの構造上、SOのノウハウを蓄積する機会が少ないのも事実です。

SOの設計が正しかったかどうかは、スタートアップが成功するまで(例えば、レイタ―期以降になるかエグジットが発生するまで)顕在化しないので、シード~シリーズAでSOを発行した会社が失敗に終わった場合、起業家側に学習する機会が与えられません

スタートアップでエグジットまでいける会社は限られているので、構造的にSOのノウハウを蓄積する機会が少なく、蓄積できるのはシリアルアントレプレナーか、その周りにいる人に限られてきたのだと思います。


3.ポータブル型ストックオプションについて


では、自分だったらどういうストックオプションを発行するのか?どうすればSOの価値を最大化できるのか?を考えた結果、ポータブル型ストックオプションという設計にたどりつきました。


ポータブルというのは退職後も持ち出せる、という意味です。

税制適格か否かより、従業員にとっては退職後も持ち出せるかどうかの方が重要なのでは?という考えから、名称の中に組み込みました

その内容について説明します。

①退職時も権利行使可能で、かつ、退職リスクにも対応


まず、退職後も行使可能にすることで、付与者が取ってくれたリスクに対してフェアに報いることができます。また、エンジニアを含めた人材採用の面でも優位に立つことができ、活躍できない初期メンバーが居残ってしまうというリスクも減らすことができます

また、退職後も同じインセンティブを持たせることで、レピュテーションの棄損や競合他社への転職等、会社の上場可能性を含める行使を抑止することができる、という副次的なメリットも発生します。

退職後も保有可能なSOというのは、徐々に広まってきており、例えばカウシェさんが米国で退職後3ケ月は行使可能な設計が一般的であることを参考に、退職後も保有し続けられる設計にしたりと、日本でも少しずつではありますが広まってきています


一方、退職した人がSOを持ち出す場合、連絡がつかなくなった場合に上場審査場のリスクが生じますので、届け出ている住所宛に通知後、一定期間返答がなかった場合は失効させることができるなど、リスクを手当てする条項が必要になります。

また、少し細かいですが、退職後、行使不可能になったべスティング未了のSOについて、ストックオプション・プールの算定から除いてもらうことで他の人への割当を増やせるので、その点はストックオプション・プールの増枠と併せて、投資家との株主間契約で交渉するのがベターかと思います。

個別のべスティング要件をどうするのか?については、上場までに必要な時間軸や付与割合、在籍するインセンティブをどこまで強めたいか?によって変わってきますので、個別にカスタマイズしていく想定です。


②有償SOにもかかわらず、リーズナブルな発行価格・設計コスト


有償SOはオプション料の払い込みが必要になる点がデメリットであると言われておりますが、実は行使条件を柔軟に設計することで、オプション料の支払いを下げることが可能です。


また、有償SOは設計費用が高いという点が、使い勝手が悪い税制適格(無償)SOを使わざるを得ない理由になっていましたが、今回、私と会計士の方が組むことで、費用面でもシード期のスタートアップが支払い可能な金額で、設計させていただきます(個別にご相談ください)。


③フェアなSO配分の設計


SOの本質的課題の一番目に「フェアな制度設計が難しい」というのがありましたが、これはSO発行の意思決定がそもそも難しく、発行するのが初めての場合は特に難しい点にあります。


フェアなSO配分を実現にあたっては個社ごとに入念に検討していく必要がありますが、後決めする信託型SOにしなくても、例えば、定期的にSOを発行することを定め、その時点で在籍している人に傾斜をかけて発行する、という発行方法も可能です。
具体的には最初の資本政策において、上場までの必要期間とオプションプールを考慮した上で、年間●%ずつ発行していく、というルールを定め、それを従業員及び投資家にも説明していくようなイメージです。


この場合、初期メンバーにとってはSOを一度に付与してもらう場合と比べて行使価格が上がってしまうデメリットはありますが、会社としてもパフォーマンスを踏まえながら段階的にインセンティブを与えることができるので、初期メンバーに必要以上に高い割合のSOを与えてしまうリスクや、より優秀な人が入社した際にSO配分が不公平になってしまうリスクなどを回避することができます


また、SOを定期的に付与していく副次的なメリットとして、社員側のSOリテラシーが上がり、SOの価値が社内に浸透しやすい、という点があります。

SO設計で見落とされやすいのですが、残念ながら経営者の独りよがりで複雑な設計にしてしまった結果、従業員の理解が追い付かず(=価値を感じてもらえない)、従業員のインセンティブにならなくなってしまうケースがあります。

入社してすぐの付与時に一度説明を受けただけでは正直理解ができなかったり忘れたりしてしまうケースが多く、その場合はSOの価値が社内に浸透していきません。

定期的に発行し、直近のファイナンス状況や上場計画、今後の発行予定を含めて丁寧に説明することで、SOの制度や価値に対する理解が広がり、SOの本来の目的である企業価値を上げるインセンティブを高めることができます。

なお、SOの配布戦略・バランスについては、「他社だとCTOに〇%配っているから」という理由で決める会社もありますが、エグジット規模によって同じ1%のSOでも価値が100倍以上変わり得ますので、エグジットの規模や可能性、時間軸を踏まえて決める必要がある点には留意が必要です。


4.まとめ


以上、日本におけるストックオプションの課題と、その解決策になり得るポータブル型ストックオプションを紹介してまいりました。


本投稿をきっかけに、ポータブル型にするか否か(=退職時も行使可能にするか否か)という論点がSOを設計する際の大きな論点にしてもらえると投稿した甲斐があるのでありがたいです。


繰り返しになりますが、SOはスタートアップエコシステムを循環させるための重要な要素で、その潜在的なポテンシャルは現在の10~100倍はあると思います。


社長だけが儲かって、他のメンバーはちょっとしたボーナス程度、というインセンティブ状況では、エンジェル投資や起業の数を指数関数的に増やすことは難しいです。

私も事業運営をやっている身ですが、SOはスタートアップのエコシステムを大きく変えるポテンシャルを秘めており、また実際に事業運営しているからこそ提供できるバリューもありますので、弁護士として支援していきたいと考えております。

なお、前期の通り、SO契約は雛型化になじまず、雛型化による弊害の方が大きいので、ポータブル型ストックオプションの雛型を公開することは現時点では想定しておりません。

具体的な見積もり等の依頼やご質問・ご意見などございましたら、気軽にTwitterのDMか下記のHPからご連絡ください。

最後が宣伝(ポジショントーク)っぽくなって恐縮ですが、本投稿を契機に、SOについて改めて考えていただき(特にポータブル型にするか否か)、業界として、SO再定義の機運を高めていくきっかけになっていただければ幸いです


それでは!!


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