![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144461654/rectangle_large_type_2_bb350d7500f71731e7f690071935f080.png?width=800)
#10 プロジェクトミッションのつくり方
前回は「プロジェクトを正しく理解する要件定義の構造」について紹介した。
先に述べた通り、プロジェクトの背景や課題、目的と目標などは、正しくその定義と構造を理解しなければ混同してしまったり微妙な認識のズレにつながりやすいため、こうして図に落とし込みながら整理していくといい。
![](https://assets.st-note.com/img/1718697068165-lM9IEmdSok.png?width=800)
しかし、プロジェクトの中で認識を揃えるために毎回この図を持ち出すのはあまり現実的ではないだろう。
整理したプロジェクトの存在意義は、端的な一文で言語化しておくとチームを束ねるのに取り回しがしやすくなる。
そこで今回は、プロジェクトの整理からプロジェクトデザインとドラフトデザインへの橋渡しとなるその言葉、「プロジェクトミッション」のつくり方について紹介していく。
プロジェクトミッションでは「変化」を語ろう
ここで呼ぶ「プロジェクトミッション」とは、プロジェクトの目的や意義をその背景も含めてひと連なりの文章に起こしたものだ。プロジェクトミッションという名前自体は便宜的な呼称なので適宜言い換えてもらっても構わない。
複雑な内容を短く伝えるものとして、プロダクトやサービスなどを端的に紹介するエレベーターピッチがあるが、そのプロジェクト版のようなものと思ってもらえるとイメージしやすいかもしれない。
一般的に、エレベーターピッチは「顧客のニーズ」「顧客像」「対象分野・カテゴリ」「特長・ベネフィット」「差別化要因」などの要素で構成される。
しかし、プロダクトやサービスと異なり、プロジェクトは始まりと終わりがある有期的な活動だ。その意義や価値を表すには、現状(As-Is)から理想のゴール(To-Be)への「変化」、つまりプロジェクトを通してどんなトランジションを起こすのかを表現する必要がある。
したがって、プロジェクトミッションには「①ステークホルダー」「②ニーズ」「③価値」「④ソリューション」「⑤コンテキスト」「⑥チェンジ」の要素を含めて構成するといい。
![](https://assets.st-note.com/img/1718697291448-fEwU5kkKgR.png?width=800)
例えば仮に、「制作会社がデザインコンサルティングへの進化を目指してコーポレートサイトをリニューアルする」プロジェクトミッションであれば、このように記述することができるだろう。
顧客となる「①社内外に変革を起こしたいが、何をすればいいか分からない企業」には、「②そのために何をすべきなのか、それにどんな価値があるのかを知りたい」というニーズがあり、「③様々なアプローチやノウハウ」に価値を感じるため、「④実際の事例とそのプロセスを言語化して発信する」というソリューションを「⑤コーポレートサイトをハブとするマーケティング活動」に導入することで、「⑥より広い顧客に対して価値創造のプロジェクトを創出する」。
プロジェクトミッション策定に使えるフレームワーク
要件定義キャンバスでプロジェクトの整理をする中で、自然とプロジェクトミッションをつくる材料が出揃い言語化できれば理想的だ。
しかし、うまく材料となる情報を抽出することができなかった場合は、他のフレームワークの手を借りることもできる。それが「ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル」と「ビジネスモデルキャンバス」だ。
ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル
ビジネスアナリシスの啓発を行う国際的な非営利団体「International Institute of Business Analysis™ (IIBA®) 」の定義によると、ビジネスアナリシスは「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動」とされている。
そして実は、上で挙げたプロジェクトミッションの6つの項目は、ビジネスアナリシスに関するコンセプトのフレームワーク「ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル™(BACCM™:Business Analysis CoreConcept Model™)」のコア・コンセプトと対応している。
①ステークホルダー:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ。多くの場合、ステークホルダーは、チェンジとの利害関係、チェンジへの直接的影響、間接的影響の観点から定まる。
②ニーズ:対処すべき問題または機会。ニーズがステークホルダーの行動意欲を駆り立てて、チェンジを引き起こすこともあれば、チェンジが、ニーズを生み出すこともある。
③価値:あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性。価値は、潜在的または実現した利益、利得、改善と見なすこともできる。また、損失の減少、リスクの減少、コストの減少が価値となる場合もある。
④ソリューション:あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法。ソリューションは、ステークホルダーが直面する問題を解決することにより、あるいはステークホルダーが機会を活用できるようにすることにより、ニーズを満たす。
⑤コンテキスト:チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況。これによりチェンジを理解することができる周囲環境。チェンジは、あるコンテキストの中で発生する。コンテキストとは特定の環境におけるチェンジに関係するあらゆるものである。コンテキストは態度、振る舞い、信念、競争相手、文化、顧客層、ゴール、政府機関、インフラストラクチャー、言語、損失、プロセス、プロダクト、プロジェクト、売上げ、季節、専門用語、技術、天候、その他定義に当てはまる要素を含むことができる。
⑥チェンジ:ニーズに対応して変える行為。チェンジは、エンタープライズのパフォーマンスを改善するためのものである。
ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルキャンバスは、「ビジネスモデルを9つの要素に分類し、各要素間の相互関係を1枚のキャンバスに示したもの」で、新規事業開発や既存事業改善でよく使われるフレームワークだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1718697977713-Q5wSwD4QTx.png?width=800)
ビジネスアナリシスの6つのコア・コンセプトは、ビジネスモデルキャンバスのこの9要素ともある程度対応している。
![](https://assets.st-note.com/img/1718697644876-61hyNTUcDd.png?width=800)
ビジネスモデルキャンバスは複雑な要素間の関係性を網羅的に1枚の図で可視化・把握できる優れたものではあるが、ある瞬間を切り取ったスナップショットであるため、「現状(As-Is)」から「理想(To-Be)」への変化は1枚で描けない。上のビジネスモデルキャンバスとコア・コンセプトとの対応表の中に、「⑤コンテキスト」と「⑥チェンジ」が登場しないのはそのためだ。
しかし、1枚で描けないなら、「⑤コンテキスト」と「⑥チェンジ」は、「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」で2枚のビジネスモデルキャンバスを描いて突合すればいい。
先の「制作会社がデザインコンサルティングへの進化を目指してコーポレートサイトをリニューアルする」プロジェクトを例にするとこうなる。
![](https://assets.st-note.com/img/1718760801831-zAvGFjfMKf.png?width=800)
ここから、ビジネスモデルキャンバスとコア・コンセプトの対応を意識しながら、以下のように6つの要素を考えていく。
ステークホルダー
概要:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ
BMC:CS:顧客セグメント/CH:チャネル/CR:顧客との関係/KP:主なパートナー
視点:本当の顧客は誰か?その仕事で誰が喜ぶのか?ニーズ
概要:対処するべき問題または機会(ニーズがステークホルダーの行動意欲を駆り立ててチェンジを引き起こすこともあれば、チェンジがニーズを生み出すこともある)
BMC:CS:顧客セグメント
視点:その顧客の真のニーズは何か?何を満たすと顧客はお金を払ってくれるのか?価値
概要:あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性
BMC:VP:価値提案/RS:収益の流れ/CS:コスト構造
視点:顧客に提供できる価値は何か?プロジェクト結果の具体的な目標(売上、利益など)は何か?ソリューション
概要:あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法
BMC:VP:価値提案/KP:主なリソース/KA:主な活動
視点:何を通じて価値が提供できるのか?コンテキスト
概要:チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況
BMC:「As-Is」と「To-Be」の差分
視点:そのチェンジが影響を及ぼす範囲は?(社内、社外、国内、海外 etc.)チェンジ
概要:ニーズに対応して変える行為、エンタープライズのパフォーマンスを改善するためのもの
BMC:「As-Is」と「To-Be」の差分
視点:ステークホルダーはそのソリューションを通じて何を変えるのか?
このように考えていくと、以下のようにプロジェクトミッションの形に言語化していくことができるはずだ。
顧客となる「①社内外に変革を起こしたいが、何をすればいいか分からない企業」には、「②そのために何をすべきなのか、それにどんな価値があるのかを知りたい」というニーズがあり、「③様々なアプローチやノウハウ」に価値を感じるため、「④実際の事例とそのプロセスを言語化して発信する」というソリューションを「⑤コーポレートサイトをハブとするマーケティング活動」に導入することで、「⑥より広い顧客に対して価値創造のプロジェクトを創出する」。
何事も最初が肝心
プロジェクトミッションの策定は、言わばプロジェクトデザイン&ドラフトデザインの「ステップゼロ」にあたるものだ。そんな準備段階のアクティビティとしてはかなり労力のかかるやり方に感じるかもしれない。しかし、こういったワークやステップを一つ挟むことでチームのプロジェクトに対する解像度はぐっと高まるはずだ。
もう引き返せない段階や軌道修正ができない段階になってから、根本的な部分のズレが顕在化してプロジェクトが空中分解するリスクを考えれば、プロジェクト最初の1〜2週間をプロジェクトミッション策定に費やすことで最悪の事態を避けられるなら悪くない取り引きだろう。
このプロジェクトミッションをチームで共有し目線合わせすることを出発点として、より言葉を磨いて別の形のドラフトに展開させたり、プロジェクトデザインに反映させていくことで、よりよいプロジェクトの実現に役立ててほしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?