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#09 プロジェクトを正しく理解する要件定義の構造

前回「ドラフトデザインのコツ」の中で、プロジェクトを正しく理解・整理することを最初のポイントとして挙げた。

“いきなり水を差すようだが、実際にドラフトデザインに着手する前に、まずはプロジェクトの背景や目的をチーム全員が正確に理解する必要がある。その正確な理解なくして正しい「ゴール像」は描けないからだ。(中略)
別にこなれた美しい文章にする必要はないが、どんなドラフトをつくるにせよ、最初にこれらを言語化してプロジェクトチーム全員と共有することを出発点にするといい。
”

#08 ドラフトデザインのコツ

プロジェクトを正しく理解・整理することは、理想のゴール像を描くドラフトデザインの第一歩でもあり、同時に理想のゴール像を実現させるためのプロジェクトデザインとの接続点でもある。今回はその接続点となるプロジェクトの要件定義について、要素分解しながら構造を紐解いていく。


要件定義の構造

まずは改めてプロジェクトの要件定義に登場する言葉の意味を整理しよう。

  • 背景:プロジェクトの現状(As-Is)を受けて、なぜプロジェクトの実施に至ったのかの経緯。現状・理想のゴール・課題の関係性で説明される。

  • ゴール:課題が解決された、目指すべき理想の状態(To-Be)。

  • 目的:プロジェクトを実施する意味であり、理想のゴールの状態(To-Be)を実現することそのもの。何が達成されるとプロジェクトが成功だと言えるのか、「〜のため、〜するため」と記述すると分かりやすい。

  • 目標:目的が達成された理想の状態(To-Be)を客観的に表す指標。「この指標がこうなっていれば、目的が達成された状態だと言える」もの。

  • 課題:プロジェクトの現状(As-Is)と目的が達成された理想の状態(To-Be)との間にある埋めるべき差(ギャップ)。「それが解消されれば目的が達成された状態になる」もの。
    
要件:課題を解決するために満たす必要がある条件。

つまり、要件定義の構造を図にするとこのようになる。

こうして見ると、プロジェクト「背景」の中には「課題」も「ゴール」も入れ子構造で包含されており、また理想の“状態”を指す「ゴール」と、その状態に“なること”を指す「目的」には、微妙なニュアンスの違いがあることが分かる。

プロジェクトリーダーとして様々なメンバーやステークホルダーを束ねる上で、ここでの微妙な認識のズレは後に致命的なリスクになり得る。話の粒度が噛み合わなかったり、いつの間にか手段が目的化してしまったり、ボタンの掛け違いが起きないよう、今どこの話をしているのかをこのような「要件定義キャンバス(Requirements Definition Canvas)」に可視化しながら整理・目線合わせをするといい。

整理の順番

このように、現状(As-Is)、理想のゴール(To-Be)、そのギャップとしての課題が分かれば、それに対する解決策や満たすべき条件といった要件に落とし込み、ゴールイメージをはっきりさせると同時に、実現に向けたプロジェクトの設計(プロジェクトデザイン)へとつなげていくことができる。
しかし、必ずしもプロジェクトが開始する段階で現状・課題・理想などが明晰に整理できる状態になっているとは限らない。むしろ、最初は対話を重ねながら、曖昧な要望や紆余曲折した経緯を根気強く腑分けしていくプロセスを必要とすることの方が多いだろう。

「現状(As-Is)」が不明確な場合

よくあるケースの一つは、「なんとなくこうなりたいという理想像はあるけど、どうしていいのか分からない」という、「現状(As-Is)」が不明確なものだ。その場合は以下の順番で考えるといい。

  1. 理想のゴール像を精緻化

  2. 現状を把握

  3. 課題の洗い出し

  4. 課題解決に必要な要件の具体化

最初の手がかりになるのは「なんとなくこうなりたいという理想像」だ。まずはそこを起点にゴールイメージを精緻化・具体化していく。
対話やインタビューを通してプロジェクトオーナーに対して様々な角度で問いを投げかけ、曖昧なイメージを膨らませて引き出したり、リファレンス調査や先進事例調査の事例を照らし合わせることで、「Dos and Don'ts」の境界線や輪郭を探るのもいいだろう。
そうして広げた理想像のイメージをユーザーストーリーやカスタマージャーニーマップなどの形でドラフト化すると、一連の体験の中でどうするべきなのかを考えやすくなる。

ある程度理想のゴールがイメージできたら、次は現状の把握だ。プロジェクトメンバーや現場スタッフへのオンサイトインタビューや観察を通して、リアルな実態をポジティブもネガティブも含めて肌感覚としてつかんでいく。
ユーザーや顧客へのアプローチが可能であればアンケート調査を行ったり、データが取得できるものがあればアクセス解析などから得られる定量的な情報も材料にしたい。

こうして理想のゴール像と現状の把握ができれば、二つを並べて検討することで、その間にある乖離・ギャップとしての課題を洗い出すことができる。
課題が明確になれば、それに対する解決策や条件をロジカルに考えることはそう難しくない。プロジェクトの期間や予算など制約条件とも照らし合わせながら優先順位付けを行い、プロジェクト内でのスコープ設定や今後のロードマップに反映していく。

「理想のゴール(To-Be)」が不明確な場合

もう一つのケースは、「現状のままでは良くないことは分かっているけど、どうしたらいいのか分からない」という「理想のゴール(To-Be)」が不明確なケースだ。その場合は以下の順番で考えるといい。

  1. 現状を把握

  2. 課題の洗い出し

  3. (課題が解決された状態としての)理想像を精緻化

  4. 課題解決に必要な要件の具体化

この場合は、「現状のままでは良くない」という課題意識から紐解いていく。上のケースと同様に、インタビューや観察などのリサーチを通して現状を把握し、今抱いている課題意識がどこから来ているのかを探る。
このままではまずいと思っていることは、売上や商談件数などの数値上のものかもしれないし、社員の雰囲気や未来への不安といった漠然としたものかもしれない。その課題意識がファクト(事実)なのか、解釈や印象の問題なのかなど、課題の特定・構造化を適切に行うためにも、まずは現状を正しく把握する必要がある。

そうして課題を洗い出し、構造として整理できたら、それらの課題が全て解決されたらどうなるかを考えてみる。課題が解決された状態を仮の理想像として想像してみるのだ。
課題を反転させてみるだけで、マイナス面だけに目を向けていたときには見えなかったポジティブな景色が具体的にイメージできるようになるかもしれない。あるいは逆に、ただ課題を解決しただけでは思っていたほど心が踊らず、なぜかしっくりこない、目指したい景色だとは思えないということが分かるかもしれない。
その場合はおそらく真の課題が他にあるので、再度課題に向き直って仮説を立て直すことで、プロジェクトの意義をチューニングしていく。


次回は、こうして整理したプロジェクトの要件をもとに、どうチームを束ねる言葉に編んでいくのかを考えたい。


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