鷹仁(たかひとし)

声と言葉でより多くの人の心を震わせる。ありのままのヒューマンドラマを書く。 好きな作品…

鷹仁(たかひとし)

声と言葉でより多くの人の心を震わせる。ありのままのヒューマンドラマを書く。 好きな作品は "佐賀のがばいばあちゃん" と"博士の愛した数式" です。 少しでも心に引っ掛かった部分がありましたら、軽率にスキしてくださると嬉しいです。 お問い合わせはTwitterへお願いします。

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【小説】光の三分間と声と言葉の青春①「声と言葉のボクシング」

この作品を読んでくれるあなた。 そして、すべての朗読ボクサーに“死”ではなく“詩”を “拳”ではなく“声と言葉”を贈ります。  ――青コーナー、二上高校ジム所属。厨時代!  リングアナウンサーの溌剌と響きわたる声が、会場の四方に設置されたスピーカーを通して観客たちの鼓膜を揺らす。  暖房が利いたコンサート・ホールは、千人の観客の呼吸とリングに降り注ぐ強烈なスポットライトでワイシャツが汗ばむほど蒸し暑かった。リングアナに呼び出された僕たちは、舞台袖からステージ中央のボクシング

    • 【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑫「銀河の行く末」

      前回  いつの間にか夜風は凪いでいた。  先ほどまで聞こえていた同級生の喧騒も聞こえなくなっていた。  月の光だけが照らす薄暗がりの静寂。中島が飲み終えた空き缶を潰す音が厭にはっきりと聞こえた。 「中島が俺に話しがあるなんて珍しいな。何か悩み事?」  何となく中島に影を感じたので聞いてみる。中島はしばらく黙った後、こちらを見ずに、新しい缶を開けた。空けてから、こちらに気を使って、もう一本飲むか聞かれたが、俺の缶の中にはまだ三分の一ほど残っていたので断った。 「いや

      • 【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑪「玉くしげ 二上山に なく鳥は」

        前回  毎年六月末になると、俺たち特進コースの一年生全員は二泊三日の勉強合宿を行う。勉強合宿といっても、三日間ずっと屋内に引きこもって通常授業を受けるわけではなかった。国語、数学、理科、社会、英語の各教科ごとにそれぞれ研究テーマとミッションが与えられ、タイムスケジュールに従って、合宿所の中と外で特別授業を受けるのだ。  今年の合宿所は高校近くの二上青少年の家だった。  一目見た感想は「とんでもないところに来たな」だった。ところどころ改築の跡が見受けられるが、コンクリートと

        • 【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑩「くうきにんげん」

          前回  勉強合宿まで残り一週間を切った。自室の勉強机には、学校でもらったプリントが散乱している。先ほどから、一時間ほど椅子に座ってシャーペンを片手にプリントの裏に文字らしきものを書いてはいるが、それが意味のある形になることはなかった。  おもむろに、ジャバラバの裏に書いた詩を見返してみる。しかし、これをみんなの前で発表して果たして観客に受けるだろうか。いや、受けないだろう。五十人の観客の前で誰にも届かない言葉を空に投げている自分の姿が容易に想像できた。そっと、ジャバラバを机

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        【小説】光の三分間と声と言葉の青春①「声と言葉のボクシング」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑨「リンダリンダ」

          前回  僕たちは檜山先生から詩のボクシングの説明を受けた後、高校から五分ほど歩いてラーメン屋“めんきち”に着いた。  この店は、ランチタイムにラーメンを頼むとご飯が無料で付くのが嬉しい。あいにく五時を過ぎてランチタイムは終了していたので、ライスは追加料金を払って頼んだ。  僕は富山ブラックラーメンのネギ増し。リョウヘイは味噌チャーシューメンを頼んだ。このブラックラーメンは濃口醤油で真っ黒になったスープがライスに絡んで相性抜群なのだ。乗っているチャーシューも厚切りで国産豚の甘

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑨「リンダリンダ」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑧「音楽が聞こえる」

          前回  蒸し暑さが本格化してくる六月の上旬。梅雨入りで毎日雨天続きの中、今日は珍しく晴れていた。  ディベート甲子園運営本部から正式な論題が発表されて一週間が経ち、ディベート部の活動は少しずつ地区大会に向けて動き出していた。  それでも大会まではまだ時間があるということで、あまり緊張感は無かった。部員のみんなは和気あいあいと情報処理室のパソコンで論題に使う資料探しをしていた。  僕は放課後、檜山先生に呼び出され、空き教室へと向かっていた。どうせまた成績関連でどやされる

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑧「音楽が聞こえる」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑦「職員室にて」

          前回  会議ほど、この世に不要なものはないと思う。  教頭に他の先生の前で一年二組の成績の悪さを詰められた。これは流石に堪えた。  教師は聖職者であるべきというのは分かっているが、キリシタンだった元彼ほど狂信的に学校を愛することはできない。教師になって十五年、私は教師に向いていないんじゃないかと思うときがある。  大会議室から職員室までの廊下で何人かの生徒に挨拶されたが、ちゃんと笑顔で返せていただろうか。小じわが増えてたまらない。今夜は家で飲もう。  職員室の扉を開け、私

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑦「職員室にて」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑥「女の子に着せたい服装はメイド服よりスク水である。是か非か」

          前回  僕は最初、帰宅部に入ろうと思った。クラスで浮いてしまって友達がいないうえ、学校での居心地の悪さは他の追随を許していないから。おそらく全国大会でも優勝できるのではないかとそう踏んでいたのだが、それは叶わなかった。  二上高校は生徒皆入部という校則上、一人何かしら一つは部活に入らないといけない。  僕はクラスメイトがいないのと、聞いたこともない競技であればみんな横並びで初心者だろうから最初から肩身の狭い思いはしなくても済むだろうという思いでディベート部に入った。  し

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑥「女の子に着せたい服装はメイド服よりスク水である。是か非か」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑤「ひとりぼっちの野外ライブ」

          前回  僕はブレザーのまま、ベッドに体を投げた。しかし、シャツが皮膚にくっついた瞬間の汗の不快感で、また体を起こした。階下では母さんの怒鳴り声がしばらく続いていた。早くこの不快感をぬぐいたかった。母さんが諦めてリビングに戻ったら、近所の銭湯に行こうと思った。  鷹岡家は、ばあちゃんが病床について以降、掃除好きの人は絶滅した。三年前まで毎日入っていたホーロー風呂は、すでにカビてペット用の物置と化している。汚い浴槽では余計汚れてしまうので、週三回は近所の不動湯を利用していた。

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春⑤「ひとりぼっちの野外ライブ」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春④「人は事実よりもイメージを優先する生き物だから」

          前回  十日ほど経った。いつものように、中休みに食堂に行くとヤスダがいた。何故か、申し訳なさそうな彼女からヤンキーに貸した十円を返してもらった。  どうやらヤスダと同じコースの生徒数名が深夜に駅の駐車場で他校の生徒と喧嘩して補導され、その中に僕が十円を貸したヤンキーもいたようだった。僕が教師から目を付けられることを心配して、ヤスダからは、もう私たちと関わらないほうがいいと言われた。僕は「分かった」とだけ答えた。  名残惜しかったが、僕たちの関係を繋ぎとめる言葉は見つからなか

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春④「人は事実よりもイメージを優先する生き物だから」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春③「無気力ラッパー」

          前回  二限目の英語が終わり、中休みの十分間で、三階の教室から一階の食堂までダッシュする。百円のわかめおにぎりと、二百円の唐揚げを買って、教室で早飯をするのが僕の日課になっていた。 「十円貸してよ」 「頼むよ、今度返すからさ」  階段下につくと、頭一つ分高いガタイのいい運動部の二人に絡まれる。 僕はよく知らない人に道を聞かれる。もしかしたら困っている人が話しかけやすい顔でもしているのかもしれない。  しかし、ミニマリストの僕は、人間関係も必要最低限に絞っているので、

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春③「無気力ラッパー」

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春②「紙飛行機は落ちこぼれを乗せて飛んでいく」

          前回  入学早々、担任からいじめられたのかと思った。  新入生学力確認テストで赤点を取ったのはここ十年で俺が初めてらしい。 「Be動詞なんてワケ分かんねえよ」  心の中で叫ぶ。解答用紙に書かれた三十四点の赤字が忌々しく光る。点数の横には担任から「これは高校生のレベルではない。もう少しやる気を出しましょう」のご丁寧なコメントが付されていた。  何が高校生のレベルではないだ。僕は、休み明けで伸び切った髪を掻きむしる。コメントに反論しようとするが、先生の指摘は正鵠を得ている。今回

          【小説】光の三分間と声と言葉の青春②「紙飛行機は落ちこぼれを乗せて飛んでいく」