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【ダイバーシティ】多様性は職場のパフォーマンスにどのような影響を与える?(Pelled et al., 1999)

今回は、多様性とパフォーマンスをつなぐものとして、コンフリクトに着目した研究を紹介します。

Pelled, L. H., Eisenhardt, K. M., & Xin, K. R. (1999). Exploring the black box: An analysis of work group diversity, conflict and performance. Administrative science quarterly, 44(1), 1-28.


どんな論文?

タイトルが示す通り、それまで「ブラックボックス」とされていた、ダイバーシティとパフォーマンスの間のメカニズムを明らかにすることを目的とした研究です。

具体的には、タスクと感情、2つのコンフリクトを媒介変数と想定し、どのようなタイプの多様性が、2つのコンフリクトを通してパフォーマンスにどう影響するかを見ています。
以下が、本稿で示されている2つのコンフリクトの具体的な定義です。

  • タスク・コンフリクト:目標、重要な決定事項、手順、行動の適切な選択など、タスクの問題に関してグループメンバーの意見が一致しない状態

  • 感情的コンフリクト:グループメ ンバーが怒り、不満、その他の否定的感情を特徴とする対人衝突を起こす状態

※コンフリクトの研究はその後も進んでおり、必ずしもこの2つの分類ばかりでもありませんが、今回は論文内容に沿って解説します

研究の結果が示した、2つのコンフリクトと多様性の関係性は、以下の通りです。

1.タスク・コンフリクトは、職務経歴の多様性によってもたらされる。意見が一致しないことは、必ずしも悪いわけではなく、機能横断組織などでは違った視点をもたらす正の効果もある

2.感情的コンフリクトは、人種・在籍期間の多様性によってもたらされる。人種や在籍期間の異なる人とは類似性の意識を持ちにくく、ステレオタイプ化(カテゴリー化)しやすくなり、感情的対立を生む

3.感情的コンフリクトは、年齢の多様性には基づかない。逆に、年齢が近いほど、(特にリーダーに近い職位の場合)嫉妬心のような感情が生まれ、対立が生まれる可能性がある

多様性とコンフリクトの関係を調整するもの

また、この研究では、多様性とコンフリクトの関係を調整するものとして、タスクのルーティン性に着目し、以下2つの仮説を考えました。

(1)ルーティンのタスクだと複雑性が高くないため、感情的コンフリクトが顕在化しにくいはずであり、逆にルーティンでないタスクだと、複雑性が高いため協業の必要性が高まり、感情的な対立が起こりやすい

(2)ルーティンのタスクだと、人は自分の仕事を面白くするために、異質な他者との議論を求める(タスクコンフリクトが高くなる)傾向にある

研究の結果、(1)と(2)、両方の仮説が支持されました。つまり、ルーティン性が高いと、多様性が感情的コンフリクトに与える影響は緩和され(対立しにくくなる)、多様性がタスクコンフリクトに与える影響は強化されました(意見の不一致が進みやすくなる)。


コンフリクトとパフォーマンスの関係

もう一つの示唆は、コンフリクトとパフォーマンスの関係です。

タスク・コンフリクトは、職場のパフォーマンスに正の影響が確認されました。意見が多様で一致しないということは、さまざまな視点が得られるということ。そのため、タスクへの深い理解や情報交換が促進された、と筆者は解釈しています。

本研究では、説明変数に職務経歴の多様性、媒介変数にタスクコンフリクト、目的変数にパフォーマンスを与えたモデルにおいても、有意な関連性が見られており、

 職務経歴の多様性 ⇒ タスクコンフリクト ⇒ パフォーマンス

という図式は示されたと言えます。

一方で、感情的コンフリクトがパフォーマンスに負の影響を与える、という筆者の仮説は立証されませんでした。それまでの先行研究では一貫した結果が得られていないようです。

つまり、感情的コンフリクトが、人間関係をややこしくしてパフォーマンスを低下させることもあれば、ある程度難しい相手とは距離を置いて仕事を行い、感情的対立と成果を分けて業務遂行できることもある、と、一概に言えない複雑な関係性であると筆者は指摘しています。

カテゴリー化と感情的対立の関係

本稿では、カテゴリー化と感情的対立の関係について、以下のように整理しています。多様性を促進する企業も多いことから、こうした心理的な作用について知っておくことは大変重要だと感じました。

異なる社会的カテゴリーに属する人々は、互いの否定的なステレオタイプ や利己的なバイアスに直接直面することになり、感情的対立がより顕著になる可能性がある。 どのような種類の多様性であれ、このようにカテゴリー化 、ひいては感情的対立を引き起こす可能性はあるが、ある種の多様性は、他の多様性よりもその傾向が強い。(中略)人種、性別、年齢、在籍年数などの属性の多様性は、カテゴリー間の衝突を引き起こす可能性が特に高い。(中略)異なる社会的カテゴリーに属する人の「立場に立つ」ことは 困難である。その結果、従業員は特に両極化していると感じ、別のカテゴリーのメンバーをステレオタイプ化する傾向が特に強くなる(Nelson, 1989; Kramer, 1991)。

P2

感じたこと

多様性とパフォーマンスの関係の間にある変数として、コンフリクトに着目したのは、今でこそ納得感がありますが、当時はブラックボックスであったようです。

研究は、こうした小さなブラックボックスを見つけて、新たな知見を世に提起することが求められますが、これがなかなか大変です、、、

日々、物事を当たり前と捉えず、批判的に見て、

「なぜ、そう言えるのだろうか」
「これは、別の視点から見るとどうだろうか」

と考えることが大事だと感じました。もっともらしい示唆を見ると、どうしても「なるほどー」と脊髄反射で感じてしまうので、批判的に見る癖を身に着けていきたいものです。




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