見出し画像

【組織開発】実践に結びつけやすい内容・事例ながら、学術的知見にも支えられた良書!(早瀬・高橋・瀬山、2023)

今回は、組織開発に関する最新書籍のご紹介です。大変読みやすく、実務家にも参考になる一方で、学術的知見にも支えられた良書です。


どんな書籍?

一言で言えば、組織開発を知っている人も知らない人も、「はじめの一歩」を踏み出せることを目指した書籍です。組織開発の基本や7つもの事例を紹介し、組織開発をわかりやすくつかめる内容となっています。

初学者にも読みやすい平易な言葉を用いながらも、組織開発における重要な研究は押さえられているほか、組織開発の第一人者ともいえる、南山大学の中村和彦先生が監修に入っており、読みごたえも十分です。

その中村先生の前書きに、この本の特徴を表す部分が以下のような引用がありました。

本書のタイトルは、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』。このタイトルを聞くと、組織開発を始める際のポイントやスキルが書かれていると思う方もいらっしゃるでしょう。(中略)しかし、本書はそのようなスキルや知識を記述したものではありませんん。そして、組織開発の手法を解説したものでもない。つまり、組織開発のノウハウ本ではありません。
では、本書で取扱い、描いているものは何でしょうか?
それは、チームや組織が良くなっていくことに向けて、推進者たちのマインドや姿勢、変革に向けたリーダーシップが醸成されていく過程です。

P9

たしかに、組織開発の手法として頻出する「ワールド・カフェ」「アプリシエイティブ・インクワイアリ―(AI)」などは全く出てきません。中村先生は、こうした手法を通して、特別に設けられた場で対話や研修を行う取り組みを「構造化された組織開発」と紹介します。

本書では、こうした「構造化された組織開発」ではなく、組織の日常、日ごろの業務の中で、チームや組織のメンバーが現状に気付いてより良くする取り組みや行動を自発的に行うことが大切であり、そうした取り組みを「構造化されていない組織開発」と呼び、区別しています。

ワールド・カフェのようなワンアクションではなく、日常の中のかかわりを通した相互理解や関係形成の蓄積によって「漸進的に変化していき、人々の意識や行動が変わっていく」、そのことが大切であり、組織風土が変わるために重要である、といった説明がなされます。

この指摘に、思わずうなりました。

組織開発は、組織をWorkさせる意図的な取り組み、といった自分の理解の裏側に、見える化、対話、未来づくりというステップに囚われていた可能性を突き付けられたような気がしたためです。

対話も、日常の中のかかわりに変化をもたらすものに違いありませんが、大事なのは、ワンアクションではなく、日常の中で少しずつ変わっていく意識や行動である。そう捉えるなら、組織開発はもっと自由なのかもしれない、と、固定観念がはがれた感覚を得ました。


参考になる指摘

さて、ここからは、本書の中でも、個人的に参考になった点をいくつかピックアップし紹介したいと思います。

①組織課題は、適応課題にこそ有効

適応課題や技術的課題とは、ハーバードのロナルド・ハイフェッツ教授が指摘した課題の違いです。簡単に言えば、
技術的課題とは、新たな知識やスキルを習得することで、特定の「正解」を導き出すことができる課題であり、
適応課題とは、正解はもちろん、問題が何かということも、容易に特定が出来ず、単に知識やスキルを身につけるだけでは不十分であり、自らの「価値観」や「物の見方」を問い直す必要がある課題、です。

(適応課題と技術的課題については、以下のNoteがわかりやすいです。)

宇田川准教授の著した『他者と働く』という書籍(超名著!)でも、この適応課題と技術的課題について語られており、適応課題は、言ってしまえば「他者との関係性」のなかで生じる課題で、わかりあえなさや、関係から生じるやっかいなことの背景にあるものとされます。

こうした関係性による適応課題だからこそ、組織開発が有効である、と、著者らは主張しています。関係の質を高めるために、未来についての話し合いをメンバー同士で行うことで、互いの関係性に生まれていた軽い気持ちのズレや、もやもやの解消といった、相互理解や関係形成が進む、とのこと。

また、目の前の課題にとらわれ、即効性ある解決策に飛びつこうとする傾向についても指摘しています。つまり、適応課題を、技術的課題を解決するかのごとく、知識・スキルや、短期的な対応で解決しようとしてしまう、と説明されます。(耳が痛い)

日常のかかわりを通して、漸進的に関係性の良質化を図り、少しずつ意識や行動を変えていく、という長い目で見た組織開発こそが、適応課題に対する有効な対応だ、という指摘には説得力があります。


②組織開発とは、”私ごと”を”私たちごと”にする活動である

これまで仕事の中で、組織開発のプロセスを通じた自分ごと化、当事者意識の醸成、といった表現をこれまで使ってきましたが、”私ごと”を”私たちごと”にするというのは、言い得て妙だと感じる表現でした。

本書では、「私ごとだと考えていたものが、実はみんなに関わる課題だったり、組織の構造的な問題だったり」すると説明されています。

また、私ごとなのは、問題だけでなく、組織が良くなることを願う想いも同様とのことです。すなわち、組織開発とは、個人個人の中に内在化されている、組織が良くなることを願う想いや働きかける力を、外に出して共有し、私たちごとにしていく活動、と読み取りました。

もともと持っている個人の想いを、私たちの想いに、というのは、今後使いたいフレーズだと感じました。


③組織開発は、最初に時間を取る方が、後半に早く成果が出る

これも「確かに!」と思わされるメッセージでした。

メンバーの持つポテンシャルややりたいこと、出来ることなどを対話し、理解を深めてからアクションに進むとやり切れるけど、そこがスキップされると、「最初から私は難しいと思ってた」「それ聞いてなかった」という声が出て、こうしたモヤモヤを解消する手戻りが発生するとのこと。

「最初は時間がかかるかもしれないけれど、価値観を共有したチームは走り出すと早い。」という説明もありました。こうした、説得力あるフレーズは、組織開発を実際に進めたり、説明する際にも使えそうです。


感じたこと

ちょうど、仕事で組織開発について語らなくてはならず、改めて学び直そうと手に取った本書でしたが、自分の理解を深めることはもちろんのこと、組織開発に対する考え方を改める機会にもなりました。

枠に当てはめて組織開発をとらえず、技術的課題に取り組むように焦って短期的に取り組むこともせず、もっと自由に、焦らずに取り組むもの、という感覚を得られたのが大きな収穫でした。

世の中的には、TIK TOKのような動画アプリがはやるような、インスタントな情報収集や問題解決が望まれるように感じています。
他方で、多様性も複雑性も増す組織において、インスタントな解決でなく、組織開発のような、腰を据えて臨む手法が必要になっている

このパラドックスに向かうのは、なかなかのチャレンジだと思いつつ、地道にコツコツ頑張ろうと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?