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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがイノベーティブな行動に効くメカニズムとは?②LMXへの着目(Javed et al., 2021)

前回の投稿に引き続き、Javed氏らによる、インクルーシブ・リーダーシップ×イノベーティブな行動に関する論文の第二弾をご紹介します。

Javed, B., Khan, A. K., & Quratulain, S. (2021). Inclusive leadership and innovative work behavior: Examination of LMX perspective in small capitalized textile firms. In Leadership and Supervision (pp. 103-121). Routledge.



どんな論文?

この研究は、パキスタンにある比較的小さな資本の繊維企業の社員を対象に、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)、リーダーとメンバーの交流(Leader-Member Exchange:LMX)と、イノベーティブな業務行動(IWB)の関係を探ることを目的に行われたものです。

モデル図は以下の通り、(今回も)シンプルです。

P596

著者らが小資本企業を選んだのは、小資本企業ほど、革新的で変化志向が強く、革新性を高め得るとのことでした。さらに、こうした企業は、官僚主義がなく、変化に対する抵抗が少ないとのこと。

(逆に、これまで何度かNoteで紹介してきた「マッチョイズム」は、官僚主義的行動にも影響し得る文化であり、こうしたIL→IWBの関係を弱めてしまう可能性が想定されます)

こうした小資本企業の社員は、イノベーションのプロセスを促進するために、インクルーシブ・リーダーとの深い関係(高LMX)を経験しているのではないか、という仮説が立てられました。

データは、150人の上司と部下から収集され、定量的な分析の結果、IL→IWBの影響関係と、ILとIWBをLMXが媒介する関係が示されました。


研究の背景・問題意識

そもそも、色々あるリーダーシップの中で、著者らはなぜILとIWBの関係に着目したのでしょう?

これは、ILを研究しようと思うと、常につきまとう問いです。ILが他のリーダーシップと何が異なるのか、なぜILなのか。こうした問いに、先行研究を紐解きながら答えていく必要があります。

では、著者らの見解を見ていきましょう。以下に原文から引用します。

影響力ベースリーダーシップ(Influence-based leadership)、変革型リーダーシップ、カリスマ・リーダーシップ、トランザクショナル・リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップ、倫理的リーダーシップが従業員のIWBに影響を与えた。しかし、これらの研究の焦点は、IWBを推進する上でリーダーの性格やカリスマ性といった特性の重要性を強調するリーダー中心のアプローチにとどまっている。しかし、この見解は、IWBを促進する上で不可欠なリーダーとフォロワーの関係の役割を軽視している。本研究の目的は、このような先行研究の欠点に対処し、インクルーシブ・リーダーシップとIWBとの関係を検証することである。
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私たちは、ILが従業員との成熟した関係を育み、その中でリーダーと従業員の双方が信頼し合い、チームとして協力し合うものであると主張した。このような関係は、信頼、配慮、相互義務、長期的な関係の維持といった、高いレベルのオープンなコミュニケーションによって特徴づけられる。
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LMX理論に基づき、私たちは、インクルーシブ・リーダーは従業員と強い関係を築き、その結果、より質の高いLMX 関係を築くことができると主張しました。(中略)さらに、社会的交換に基づくLMXの質は、従業員が IWBを発揮することを促す。

P594-595

つまり、著者らは、先行研究を踏まえて、

  • 過去のリーダーシップは、リーダーそのものに焦点が置かれたが、IWBには、リーダーとフォロワーの関係(LMX)が重要である

  • ILは、他のリーダーシップと異なり、オープンなコミュニケーションという性質から、LMXを高めるリーダーシップである

  • よって、ILはLMXを媒介してIWBに影響する。

という論理構成にもとづき、仮説を構築しました。


IWBが発揮されるのはどのようなときか

この論文では、IWBが発揮される状況についても、研究をレビューしながら述べています。

従業員が IWB を発揮するのは、従業員が支援され、報われたときだけである(Clegg, Unsworth, Epitropaki & Parker, 2002; Janssen, 2005)。繊維産業の小資本企業(SCF)の文脈では、McAdam and McClelland (2002)は、イノベーションを強化する価値観は、SCFの従業員が変化する顧客のニーズに革新的に対応するのに役立つと述べている。その結果、従業員の IWB を通じて新たな変化にうまく対応するために、SCF のリーダーは、縁故主義や独裁的な統制の代わりに、従業員が新たなアイデアを革新するのを助けるために、効果的な対人コミュニケーションで従業員に権限を与えることを含む革新的支援価値を重視する。
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Openness、Availability、Accessibilityといったインクルーシブ・リーダーシップの特徴を示すことで、SCFのリーダーは従業員の職場でのIWBを促進する(Javed et al., 2017)。

ポイントは、IWBは従業員が支援され、報われたときに発揮される、という点です。
前回の投稿では、心理的安全な職場風土が、ILによるIWBの効果を高めるという、心理的安全性の媒介関係を紹介しました。
どうやら、IWBは、従業員の行動なので、その行動を促進するような支援や承認、および職場の肯定的な風土が重要になるようです。

なお、この研究では、前回の投稿で紹介した研究とは異なる、別のIWB設問が使われているようです。(なぜ変えたのかは記載がありません。。)


感じたこと

昨日に引き続き、Javed氏の論文を見ていきました。この2つの共通点としては、

  1.  インクルーシブ・リーダーシップ(IL)→イノベーティブな業務行動(IWB)のメカニズムを明らかにしている(前回は心理的安全性の媒介効果、今回はLMXの媒介効果)

  2. 上司と部下、同数からの回答を収集し、ILとLMXは部下に尋ね、IWBは上司に尋ねている

  3. イノベーティブな業務行動(IWB)は、「状況的要因」によって高められるという結論を導いている

といったあたりが特徴的です。一方、この2つの論文は2019年と2021年で、比較的最近なのですが、IWBの測定尺度を変えています。(前回:Janssen (2000)、今回:De Jong and Den Hartog (2010))今回の論文で、別の測定尺度を選んだ理由は、「多くの先行研究で使われているから」とあるだけ。

この疑問を解くためには、原点や、後者の尺度を使用した論文にあたる必要がありそうです、、、(研究レビューの旅はつづく、、、)


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