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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがイノベーティブな行動に効果を及ぼすメカニズムとは!?(Bagorogoza et al. 2022)

今回は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)がイノベーティブな行動に対する効果を、インクルージョン知覚が媒介する、というウガンダの研究です。

Bagorogoza, J. K., Kabagabe, J. B., Nasiima, L. L. S., Mpaata, Z., & Arinaitwe, A. (2022). Inclusive leadership and innovative Behaviour: The mediating role of employee perceptions to inclusion in the Energy Sector in Uganda. ORSEA JOURNAL, 12(1).

先行研究がネイティブでない読み手にもわかりやすく整理されており(つながり、ロジックは気になるところがありますが。。。)、今回の投稿では、自分の備忘用に研究引用元もなるべく記載することにします。(XXXX et al., 20xx みたいな表記です)


どんな論文?

本研究は、ウガンダのエネルギー関連企業におけるILと革新的行動(Innovative behavior)との関係における、インクルージョン知覚の媒介効果を明らかにしたものです。

従業員サンプルから収集したデータをもとに、相関分析と回帰分析を用いて分析した結果、IL、インクルージョンの認識、革新的行動の間には統計的に有意な関係があることが示されました。

注目すべきは、認知を促し、尊重し、公正な待遇を提供し、失敗を許容するインクルーシブ・リーダーを採用し、育成することで、インクルージョンと革新的行動に対する従業員の認識を高める、という示唆です。モデル図は以下の通りです。


知覚されたインクルージョンとは?

本文献において、知覚されたインクルージョンとは、「組織における人事と経営の間の従業員の協力関係を示す (Pearce & Randel, 2004; Tang et al., 2015)」という定義を用いています。よく使われるShore et al.(2011)のインクルージョンのとらえ方、つまり、個人の組織に対する帰属感と独自性を尊重されている感覚、という定義とは異なっています。

本文献で、いくつかインクルージョンに関する研究知見が紹介されているので、こちらでも記載します。

  • Mor Barak & Cherin (1998)は、インクルージョンを「情報や資源へのアクセス、ワークグループへの関与、意思決定プロセスに影響を与える能力など、個人が重要な組織プロセスの一員であると感じる度合いの連続体」と述べている。

  • ChenとTang(2018)の研究結果は、従業員がインクルージョンを認識することが、従業員の革新的行動に直接的なプラスの影響を与えることを示している。彼らの研究はまた、インクルージョンがポジティブであると認識されている場合、従業員は日々の仕事にコミットする傾向があり、それがひいては彼らの革新的行動に影響を与えると説明している。

  • Bortree and Waters (2014)によると、社会的集団のメンバーと付き合いのある従業員は、仕事に対する満足度が高い傾向にある。

  • Jansen et al. (2016)によると、知覚されたインクルージョンは、従業員にとって親社会的な集団行動とポジティブな心理的結果、組織に基づく自尊心、組織市民行動を構築する。

  • Ferdman, Avigdor, Braun, Konkin, & Kuzmycz, (2010)の研究では、従業員がインクルードされているという感覚は、従業員が経験する公平性や安全性の認識を通じて現れ、その結果、組織の業績にプラスの影響を与える。

  • Li(2017)いわく、従業員は、自分がグループの一員であると感じると、意思決定プロセスに参加できると認識し、新しいアイデアを実行するだけでなく、率直に発言できるようになる可能性が高い。

一方で、知覚されたインクルージョンがどのような手段で従業員の革新性や創造性といったタスク関連行動を誘発するかは、明らかになっていない、というのが筆者の問題意識でした。


世代による違い

この文献における先行研究レビューで、興味深いのは「世代」に着目した点です。

リーダーシップにはいくつかのスタイルがあり、職場の世代タイプによって従業員に与える影響や、従業員がリーダーシップの包摂をどのように受け止めるかが異なる可能性があるとのこと(Al-Asfour et al., 2017)。

また、組織のリーダーシップ・スタイルが包括的であるか否かの従業員の判断は、各世代が持つ価値観が異なるため、組織内の従業員の世代タイプによって異なるともいわれます(Hou et al., 2014)。

リーダーシップ・スタイルに対する従業員の認識は、初期の男性的で自己主張の強いものから、現在では共同体的なリーダーシップ・スタイルへと、時代とともに改善されている(Wolfram & Gratton, 2014)とも紹介されます。


インクルーシブ・リーダーシップ ⇒ インクルージョンの知覚

インクルーシブ・リーダーシップがあると、チーム内に帰属意識や独自性が生まれ、それがイノベーションのようなポジティブな行動に直接影響するようです(Randel et al.,2017)。

その理由は、インクルーシブ・リーダーシップ・スタイルを採用するリーダーは従業員に対して寛容であるため、従業員はリーダーからサポートを受けているという認識を持ち、組織の発展のために新しく創造的なアイデアを出すようになるからとのこと(Zhu & Wang, 2011)。


従業員は、自分が認められ、奨励され、組織のリーダーシップの実践に参加させられていると認識することで、彼らの行動が組織の利益にプラスに改善されることが示唆されています(Fang, 2014)。
また、従業員の革新的行動への意欲は、従業員が組織にどのように包摂されていると感じているかに大きく関係する模様(Lee & Chang, 2006)。

例えば、満足度の高いリーダーは、従業員の創造性の発現を促す包摂の肯定的な認識を生み出すことができる(Pundt, 2015)。変革型リーダーは、従業員の知性を惹きつけ、「組織に必要とされている」という感覚を生み出すというポジティブな認識から、従業員が革新的であり続けるよう動機付けることで知られているようです(Zhang & Zhou, 2013)。

従業員のイノベーティブな行動は、リーダーシップのサポート体制が整っているという感覚にポジティブな影響を受ける。従業員は、リーダーが自分たちを支援してくれているという感情を持つことで、自分たちがより冒険的で創造的だと感じるようです(George & Zhou, 2007)。

さらに、Fang (2014)は、従業員がそのような認識を持つことで、従業員の自己効力感のレベルが高度に向上することが証明されているため、リーダーが寛容な行動をとることがいかに重要であるかを提唱している。

Liuら(2012)は、組織に取り込まれているという感覚が、いかに精神的能力を向上させ、組織の創造性に反映するかを確認している。これは、インクルーシブ・リーダーシップが中国の従業員のムードを改善し、したがって短期間で創造性が向上することを発見したJing (2015)の研究とも関連している。


こうした研究結果を踏まえ、ILが知覚されたインクルージョンを媒介し、イノベーティブな行動につながる、という仮説が立てられました。


使われた尺度

多くの研究で使われているものとは「ちがう」ものが使われます。

インクルーシブ・リーダーシップ:Fang et al.(2019)の11設問が使われています。下位次元は、①エンカレッジメントと承認、②尊重と公正な対応、③失敗への許容度です。

知覚されたインクルージョン:Hedman (2016)のインクルージョン設問47設問(!)が使われています。あまり見ない設問でした。設問数の多さが調査段階でのネックとなった可能性もあります。

イノベーティブな行動:Choi et al. (2016)の指標が使われたようです。(設問数記載なし)


感じたこと

個人的に、IL→インクルージョンを当たり前のものとせず、そのメカニズムを定量的に明らかにしたこと、その関係に「イノベーティブな行動」という成果変数を置いたことは参考になりました。

ただ、調整変数もないですし、インクルージョン認知が、イノベーティブな行動に与える影響はほかにも調べられておりましたので、示唆としては限定的にならざるを得なかったかな、と思います。

チャネルを変えて文献を調べるとまた新しいのが出てきて、本当にいたちごっこみたいです涙・・・



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