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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILの最新研究⑤ ILがキャリア・アダプタビリティにも効く!?(Shabeer et al., 2023)

今回もインクルーシブ・リーダーシップの最新研究です。メンバーのキャリア・アダプタビリティにILが効く、ということを示した論文です。

Shabeer, S., Nasir, N., & Rehman, S. (2023). Inclusive leadership and career adaptability: The mediating role of organization-based self-esteem and the moderating role of organizational justice. International Journal of Leadership in Education, 26(3), 496-515.

どんな論文?

パキスタンの高等教育機関において行われた研究で、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)、部下のキャリア・アダプタビリティに与える影響を検証するとともに、そのメカニズムを明らかにしようとしたものです。

「キャリア・アダプタビリティ」とは、個人のキャリアにおいて、変化の必要性が生じたときにその変化を受け入れ、適応できる能力のことを指す概念です。詳細は、日本の人事部のページをご覧ください。

また、ILがキャリア・アダプタビリティに与える影響を媒介するものとして、組織レベルの自己尊重(OBSE:Organization-based Self-esteem)という概念を検討しています。

OBSEとは、『組織構成員が組織の文脈の中で役割に参加することによって自分の欲求を満たすことができると考える度合い』あるいは、『個人は、自分自身が組織の一員として有能であり、重要であり、価値があると信じる度合い」と定義されています。

また、OBSEがキャリア・アダプタビリティに与える影響を調整する要因として、組織的な公正性(OJ:Organizational Justice)も扱われています。
OJとは、従業員が経営者の意思決定や行動が公正であると感じる度合いのこと(Folger & Cropanzano, 2001)を指すようです。

以下が概念モデル図です。


ILがキャリア・アダプタビリティに効くメカニズム

一見、ILが従業員のキャリアの適応に効く、というのは、意外な感じがします。まだ、「変革型リーダーシップ」の方が、フォロワーの認知を変えるリーダーシップという観点から、キャリアの変化に適応することを促進しそうです。

筆者ら曰く、

「本研究は、職場適応理論(TWA)に基づき、仕事上の重要な存在(リーダー、マネージャー、同僚、同僚など)からの帰属感(社会的支援)や独自性の受容(自尊心)が高いほど、CAが促進されると主張するものである。」

つまり、上司のILを通じて、メンバーが職場でインクルージョン認知(帰属感×自分らしさに価値が置かれる感覚)を高めることにより、キャリア・アダプタビリティが高まる、と考えたようです。


ほかにも、ILの要素として、メンバーの挑戦・成長を奨励するというものがあります。こうした働きかけにも、キャリアの変化に適応しようとするメンバーを後押しするような効果が想定できます。

今回の文献で興味深いのは、組織レベルの自己尊重(OBSE)を媒介変数として調査した点です。

キャリア・アダプタビリティは、自己尊重(Self-esteem)によって予測されるようです。自己尊重の意識を持った従業員は、挑戦や変化への対応にも立ち向かう勇気を持つ、といった過去の研究もあるため、キャリアの変化にも適応するだろう、と予想されます。

ILは、メンバーの挑戦や承認を後押しする機能を持ちます。よって、組織における自己尊重を高め、その自己尊重によって、キャリア・アダプタビリティが高まる、というパスが仮説として掲げられたわけです。

そして、組織における自己尊重は、組織の公正性(OJ)によって強められるという先行研究から、OJによって、自己尊重がキャリア・アダプタビリティに与える影響を強める、と筆者らは仮説を立て、これらはすべて支持されました。

分析結果、特に、OJによる調整効果に関する図を載せておきます。


P11
P12

(これらの2本の線が平行な場合は、交互作用がなく、調整効果は認められないのですが、2つの図が示す通り、OBSEにおいても、ILにおいても、OJの調整効果が示されました。)


感じたこと

これまで調べてきた、ILによって高められる要素は、創造性やボイス行動、プロアクティブ行動、失敗からの学びなど、組織成果と結びつきそうなメンバーの行動が多かったのですが、「キャリア・アダプタビリティ」のように、組織軸というより、個人軸に焦点を当てた研究はあまりなかったので、新鮮でした。こうして調査すればするほど、ILは色々な成果要因に効くのだということがわかってきます。

以前、ダークサイドについてもご紹介しましたが(以下リンク)、やはり管理職が効果的にメンバーを支援する武器として、ILは使えそう!という感覚を強めています。


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