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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILが仕事の意欲を高める(Fatima et al.,2021)

今回の文献もパキスタンの大学教授によって呈されたものです。インクルーシブ・リーダーシップ(IL)が、組織変革の心構え(Readiness)を介して、仕事の意欲に影響を与える、という関係を示した論文です。

Fatima, T., Majeed, M., & Zulfiqar Ali Shah, S. (2021). A moderating mediation model of the antecedents of being driven to work: The role of inclusive leaders as change agents. Canadian Journal of Administrative Sciences/Revue Canadienne des Sciences de l'Administration, 38(3), 257-271.

インクルーシブ・リーダーシップ(IL)を英文で発信しているのは、ネイティブ以外では中国発が多いのですが、パキスタン発もパッと探せるだけで3件ありました。英語論文自体の発信が多いのか、それともこの領域に熱がこもっているのか、詳細は分かりませんが、少なくとも勢いを感じます。

どんな論文?

本研究は、パキスタンのサービス部門の従業員(N=215)から、3時点に分けて収集したデータを基に、ILと仕事への意欲の相関を見たものです。

興味深いのは、組織変革への心構えが両者を媒介し、集合的自己概念がこれらを高め得る、というメカニズムです。(組織変革への心構えや、集合的自己概念についての詳細は後段で解説します。)以下にモデル図を記載します。

P259

統計的検定(回帰分析)の結果、いずれのパスも有意な関係性が認められました。

仕事への意欲(Driven to work)とは、仕事に対するポジティブな内面的動機が掻き立てられることを指し、「仕事に対するモチベーション」と言い換えてもよさそうです。

この仕事の意欲が、ILによってどう高められるのか。そのメカニズムを少し詳しく見ていきます。


組織変革への心構え(Readiness for organizational change)

まず、従業員が持つ「組織変革への心構え」が、どのようにILと仕事の意欲を媒介するのか、について紹介します。

著者は、組織変革とは、従業員が現状を変えることを受け止め、変化をもたらす度合いという定義を紹介します。その前提に立つと、従業員が変革を受け止め、その変化を進めるという「心構え」に至るためには、リーダーが従業員のアイディアを聞いたり、従業員の姿勢を支援することが必要だと説明します。

よって、リーダーがILを発揮し、従業員の変化に対するポジティブな姿勢を支援することが、組織変革への心構えにつながるようです。

続いて、組織変革の心構えが、どのように仕事の意欲に影響するのかを説明します。簡単に言えば、組織変革に前向きな姿勢を持つ従業員は、変化が組織にも自分にも有益だと感じ、また、変化を推進するためのスキルが備わっているという自信を持つため、仕事の意欲が高まる、とのこと。

上に述べた、ILが組織変革の心構えに及ぼす影響と重ねて考えることで、筆者は以下のことがいえる、と説明します。

インクルーシブ・リーダーのフォロワーは、自分たちの問題に関心を示し、自分たちの意見が重要であると考えているリーダーを持つことを光栄に感じている (Choi et al., 2017)。このように、リーダーに認められた意見を通じて、従業員は組織変革への心構えを整え、最終的に変革に駆り立てられる動機付けられる。

P262


集合的自己概念(Collective self-concept)

ここで、聞きなれない「集合的自己概念」についても触れておきます。

集合的自己概念とは、所属する集団を通じて、自分の価値を評価したり、自分を定義するといった感覚が、チーム内で共有された状態を指します。「うちの会社っていい会社だよなー」「そこにいる自分は価値があるよなー」とチーム内で共有されている度合い、と言えるかと思います。

集団的自己概念の度合いを高くもつ従業員は、集団の一員という観点から自らを定義するため、集団の規範によって行動が左右され、集団の利益を優先する傾向にあり、集団の目標に集中するようです(Sedikides et al.、2015)。

集団的自己概念の度合いが高い従業員は、その会社やチームに所属することで「高い自己評価」を得ていると言えます。つまり、集団から自己評価を得ているので、その代わりに、組織の目指すゴールや規範に従うといった、組織に対するポジティブな行動を取るという「社会的交換」が行われます。

このように、集合的自己概念の度合いが高い従業員の場合は、組織に対してポジティブな態度を示すことが、これまでの研究から明らかになっています。これを踏まえると、インクルーシブ・リーダーの下にいるメンバーの中で、集合的自己概念の度合いが高いメンバーは、より組織変革への心構えを強く持ち、変革に向けて仕事の意欲を高める、と考えられます。


感じたこと

先行研究が丁寧にレビューされた論文であり、説得力がありました。また、集合的自己概念という、従業員の知覚に着目し、ILの効果性を高める要因を導き出している点も参考になります。

難しいと感じたのは、概念の違い、です。
例えば、「仕事への意欲」は、「ワーク・モチベーション」と何が違うのか。あるいは、「集合的自己概念」は、「組織アイデンティティ(組織同一化)」と何が違うのか、という点については、特に文献内で説明がなく、もやっとします。

(こんな類似する概念との違いに着目出来るようになった自分を褒めてあげたいです・・・)

研究を広く調べていくと、似たような概念がたくさん出てきます。これらの違いを丁寧に整理し、その違いを明確にすることも必要になりそうです。
研究って大変だ・・・。

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