【ダイバーシティ】フォルトラインとは何か?多様性研究の必須知識を掘り下げる②(内藤, 2014)
引き続き、フォルトラインに関する文献を見ていきます。今回は以下のレビュー論文をご紹介します。
どんな論文?
ダイバーシティはプラスとマイナスの両方が存在する「もろ刃の剣」であるとし、その解消の糸口として提唱された「フォルトライン」に関する理論的背景や現状、課題を示したものです。
ダイバーシティが高まると、多様な意見が集まるため、意思決定、問題解決、創造性といったパフォーマンスが向上すると主張する (Ancona & Caldwell, 1992; Eisenhardt, Kahwajy, & Bourgeois, 1997; Shin & Zhou, 2007)研究もあれば、
一方で、
ダイバーシティが高まるとサブグループが生まれ、サブグループ間でコンフ リクトが生まれ(Pelled, Eisenhardt, & Xin, 1999)、社会的統合やコミットメ ントなどのグループパフォーマンスが損なわれると主張する(Jehn, Northcraft, & Neale, 1999; OʼReilly, Caldwell, & Barnett, 1989)研究もあります。
こうした、プラス面を活かし、マイナス面を抑えるための手掛かりとして、フォルトラインが提唱されてきたと筆者は説明します。
ただ、フォルトラインについても、プラスの効果を示した研究や、マイナスの効果を示した研究、両方があります。
以下、フォルトラインによる効果を詳しく見ていきます。
フォルトラインのマイナス面
まず、フォルトラインのマイナス面に関する側面が紹介されています。以下のような説明です。
簡単に言えば、フォルトラインは、集団を自分の仲間(内集団)とそれ以外(外集団)に分断する。そうすると、外集団に対するバイアスが生じ、対立が生まれ、結果、情報共有やら創造性やらにマイナスとなる、
ということです。
これは、社会アイデンティティ理論や、自己カテゴリー化理論というものに依拠しています。
社会アイデンティティ理論とは、自分がどのような社会集団に所属しているのかという自己認識のことです。
詳しくは以下のサイトにわかりやすくまとめられています。
自己カテゴリー化理論とは、自分のアイデンティティには高次の社会性や低次の個人性があり、属する集団・文脈に影響を受けるというもので、その集団の物の見方に、自分が影響を受けると説明されます。
つまり、自分の外集団に対しては、うがった見方をしてしまいがちなようです。
フォルトラインのプラス面
次に、プラス面が紹介されます。
ここで、インクルージョンを説明するグラウンドセオリーである、最適弁別性理論(Brewer, 1991)が登場します。最適弁別性理論については、以前の投稿で解説しています。
最適弁別性理論では、人は集団への帰属感と独自性の両方の欲求を持ち、それらを満たす集団にアイデンティティを持つ、とされます。
フォルトラインによって形成された内集団では帰属感を、外集団とは「違っている独自性」を満たすことができるとのこと(Thatcher & Patel, 2011)。
内集団に属している帰属感を持つ方が心理的に安心し、外集団に対しても意見を出しやすくなるようです。ただし、ここでも、フォルトラインは中程度が良いと説明されています。
ほかにも、不公正なリーダーがいる場合は、フォルトラインによって形成される内集団に属していると、そのリーダーによるストレスが軽減され、プラスとなるという研究もあるようです。
プラス・マイナス論
もう一つ、フォルトラインがパフォーマンスにプラスに働くか、マイナスに働くかは、フォルトラインの元になる属性によって異なる(van Knippenberg et al., 2004)という研究もあるようです。
タスク関連の属性のフォルトラインが強い場合では、サブグループ間で情報交換を行うとプラスに転じるが、一方、属性に基づくフォルトラインが強い場合では、コンフリクトを生み、情報交換が阻害される、とのこと。
ここでは、引用による紹介に留めます。
日本企業とフォルトライン
本論文では、日本企業で社会的カテゴリー化を生む属性が、「正規」「非正規」といった雇用形態にあると紹介されます。派遣社員のそこそこ居る職場だと、こういったカテゴリー化、サブグループ化は起きる可能性はありそうです。
逆に、日本企業では、人種・民族などの人口統計学的属性に基づくフォルトラインは作られにくいとのこと。(でも、女性と男性とかはありそうな気もします・・・)
また、欧米研究の多くは、フォルトラインがグループプロセスに与える負の効果として、内集団と外集団の感情的対立(コンフリクト)を挙げているものの、日本は他国に比べ、コンフリクトを回避する傾向があることが示されています(Ohbuchi & Takahashi, 1994)。和を以て貴しとなす国民性、と言えるでしょうか。
そうすると、欧米の研究で「フォルトラインが感情的コンフリクトを生む」とされていても、日本でそれが適用されるかは慎重に検討されるべき、というのが筆者の説明です。
感じたこと
前回の投稿と併せてフォルトラインを見てきましたが、改めて感じたのは、フォルトラインが諸悪の根源とは言えない、ということです。
フォルトラインによって、内集団(仲間)が出来ることは、安心感を生むというのは、何度か転職をした際に実感しています。新卒ばかりの会社で中途入社した場合、他の中途社員と仲良くなると安心できるでしょう。
ただし、多様性が経営成果に結びつく上で、フォルトラインによる負の影響は見過ごせないため、これをどう解消するか。最近はやりの「アンコンシャスバイアス」や、「越境」のように、ゆるやかに内集団と外集団の境界を越えて交流したり、認め合ったり出来ると良いのかもしれません。
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