【マッチョイズム】「男らしさを競う文化」の構成要素とは何か?(Glick et al.2018)
今回も、インクルーシブな風土に負の影響があると言われる、「マッチョイズム」に関する論文をご紹介します。
どんな論文?
「男らしさを競う文化」=Masculinity Contest Culture(MCC)の尺度・設問を作成し、その妥当性を定量的に示した文献です。
因子分析の結果、MCCを測る項目は、4つのサブカテゴリと20の質問によって構成されることがわかりました。4つのサブカテゴリとは、
①弱さを見せるな(Show No Weakness)
②強さとスタミナ(Strength and Stamina)
③仕事第一主義(Put Work First)
④弱肉強食(Dog Eat Dog)
となります。
また、MCCは以下と次の事項と相関があることも示されました。
ネガティブな組織力学(e.g., poor culture and toxic leadership)
支配的な社員の振る舞い (e.g., いじめ、ハラスメント)
ネガティブは個人の勤務姿勢(燃え尽き、離職意向)
個人の不幸せ(poor personal well-being)
男らしさを競う文化が生まれる原因
論文では、MCCがどのような文脈で生まれるかについて説明されています。MCCは、男性が地位を競い合う文脈、すなわち歴史的に男性が支配的な職業において最も出現しやすいとのこと。
したがって、経営幹部や、ブルーカラーの仕事(肉体労働系)、男性優位の組織(警察や消防など)に多いとのこと。
このように、MCCは男性優位のシステムを反映しているため、女性は、男らしさを競う文化によって特に不利な立場に置かれ、悪影響を受ける可能性があると言えます。
また、歴史的に男性が中心であった職場では、男性的な規範が組織的規範となり、それが「成功」のための必要条件となる可能性についても言及されています(例:家族よりも仕事を優先する)。
こうした規範を正当化するために、規範が男性性に由来することを曖昧にしてきたケースもあるようです。文献では、例として、仕事を第一にするという規範は、ジェンダーに中立的な「理想の労働者」規範として描かれるようになることもあったとのこと(例えば、Acker, 1990; Davies & Frink, 2014; Williams, 1989)。
その結果、組織がMCCを規範として求める対象は、男性従業員に限定されるものではなくなってきたようです(男らしさの強い女性が昇進する、といったこともその一例でしょう)。
とはいえ、「男らしさ」も必要・・・?
ネガティブな印象の強いMCCですが、文献では、MCCによるポジティブな側面もあるのではないかと述べられています。
また、文献では、Uberの事例のように、タクシー業界に有利な規制をかいくぐって新たなビジネスを生み出すために、積極的にリスクを取ることで(上述のような、男らしさのポジティブな側面)現在の地位を得た、と解説しています。以下が該当箇所です。
感じたこと
確かに、特にベンチャー企業などにおいては、MCCの要素である弱肉強食・弱さを見せるな・(一時的には)仕事第一にもならざるを得ないかもしれません。業界やビジネスのおかれた状況にもよるかもしれません。
MCCが必ずしも悪というのではなく、ダイバーシティ&インクルージョンの効果を弱めてしまう懸念を理解し、うまくバランスを取ることが重要なように思います。
ただ、サステナブルな企業経営や、多様な社員の力を最大限に活用しようと思うと、MCCが文化として内在し続けるのはリスクがあるのかもしれません。
また、「弱さを見せるな」「強さとスタミナ」「仕事第一主義」「弱肉強食」といった下位項目レベルでも、与える影響は異なると予想されます。(私の携わった共同研究でも、MCCの下位項目とインクルーシブな風土の下位項目では、一律の影響関係ではなく、傾向値がみられました。)
刺激的な概念・尺度であるため、解釈や扱い方も重要になりそうです。他の実証研究の結果なども気になるので、さらに調査を続けます。
(参考)前回の投稿にも関連するので、リンクを貼っておきます。
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