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【マッチョイズム】「男らしさを競う文化」の構成要素とは何か?(Glick et al.2018)

今回も、インクルーシブな風土に負の影響があると言われる、「マッチョイズム」に関する論文をご紹介します。

Glick, P., Berdahl, J. L., & Alonso, N. M. (2018). Development and validation of the masculinity contest culture scale. Journal of Social Issues, 74(3), 449-476.


どんな論文?

「男らしさを競う文化」=Masculinity Contest Culture(MCC)の尺度・設問を作成し、その妥当性を定量的に示した文献です。

因子分析の結果、MCCを測る項目は、4つのサブカテゴリと20の質問によって構成されることがわかりました。4つのサブカテゴリとは、

①弱さを見せるな(Show No Weakness)
②強さとスタミナ(Strength and Stamina)
③仕事第一主義(Put Work First)
④弱肉強食(Dog Eat Dog)

となります。

また、MCCは以下と次の事項と相関があることも示されました。

  • ネガティブな組織力学(e.g., poor culture and toxic leadership)

  • 支配的な社員の振る舞い (e.g., いじめ、ハラスメント)

  • ネガティブは個人の勤務姿勢(燃え尽き、離職意向)

  • 個人の不幸せ(poor personal well-being)


男らしさを競う文化が生まれる原因

論文では、MCCがどのような文脈で生まれるかについて説明されています。MCCは、男性が地位を競い合う文脈、すなわち歴史的に男性が支配的な職業において最も出現しやすいとのこと。
したがって、経営幹部や、ブルーカラーの仕事(肉体労働系)、男性優位の組織(警察や消防など)に多いとのこと。

このように、MCCは男性優位のシステムを反映しているため、女性は、男らしさを競う文化によって特に不利な立場に置かれ、悪影響を受ける可能性があると言えます。

また、歴史的に男性が中心であった職場では、男性的な規範が組織的規範となり、それが「成功」のための必要条件となる可能性についても言及されています(例:家族よりも仕事を優先する)。

こうした規範を正当化するために、規範が男性性に由来することを曖昧にしてきたケースもあるようです。文献では、例として、仕事を第一にするという規範は、ジェンダーに中立的な「理想の労働者」規範として描かれるようになることもあったとのこと(例えば、Acker, 1990; Davies & Frink, 2014; Williams, 1989)。

その結果、組織がMCCを規範として求める対象は、男性従業員に限定されるものではなくなってきたようです(男らしさの強い女性が昇進する、といったこともその一例でしょう)。

とはいえ、「男らしさ」も必要・・・?

ネガティブな印象の強いMCCですが、文献では、MCCによるポジティブな側面もあるのではないかと述べられています。

KiselicaとEnglar-Carlson(2010)は、男らしさの規範には向社会的な行動も含まれると主張している。彼らの見解を臨床事例研究で裏付け、男らしさは、チームワークによる友情の達成、回復力、ヒロイズム(例えば、危険を冒して他者を守る)など、肯定的な価値観を促進することを示唆している。経験的研究はまた、いくつかの肯定的な男性のステレオタイプや規範を示唆している。ステレオタイプ的に嫌われがちな支配的特性との関連はあるが、男性には、頼もしさ、リーダーシップ能力、決断力、合理性、リスクを取る意欲といった肯定的な主体的特性も割り当てられている(Prentice & Carranza, 2002)。これらのステレオタイプは、16カ国にわたって広く一般化されている。Glickら(2004)は、ステレオタイプが男性を「悪人だが大胆」(例:支配的だが大胆でもある)と特徴づけることを発見した。

また、文献では、Uberの事例のように、タクシー業界に有利な規制をかいくぐって新たなビジネスを生み出すために、積極的にリスクを取ることで(上述のような、男らしさのポジティブな側面)現在の地位を得た、と解説しています。以下が該当箇所です。

組織が何らかの形で男性性コンテスト規範から利益を得る可能性は否定できない。Berdahlら(2018)は、Uberを、違法行為、いじめ、セクハラ、同僚への妨害行為など、男性性コンテスト文化が生み出しうる多くのネガティブな結果を説明する訓話として用いた(Fowler, 2017)。しかし、Lashinsky(2017)は、Uberのリーダーシップが法律を回避し、タクシー業界に有利な規制を曲げ、積極的なリスク(すなわち、男性性規範が促進する種類の行動)を取らなければ、Uberが軌道に乗ることはなかったと主張している。今後の研究では、組織の有効性指標(例えば、投資利益率、市場シェア、成長率)を含めて、男性性コンテスト規範が出現し、市場シェアや初期成長を通じて、少なくとも部分的に報われるかどうかを見極める必要がある。もしそうであれば、男性性コンテスト規範が持続する理由の一端が説明できるかもしれない。とはいえ、長期的に見れば、Uberが経験したように、男性性コンテスト文化は、時限爆弾として機能する問題を生み出し、後に爆発する可能性がある(例えば、セクハラや倫理スキャンダルに発展する;Dowd, 2017)。

感じたこと

確かに、特にベンチャー企業などにおいては、MCCの要素である弱肉強食・弱さを見せるな・(一時的には)仕事第一にもならざるを得ないかもしれません。業界やビジネスのおかれた状況にもよるかもしれません。

MCCが必ずしも悪というのではなく、ダイバーシティ&インクルージョンの効果を弱めてしまう懸念を理解し、うまくバランスを取ることが重要なように思います。

ただ、サステナブルな企業経営や、多様な社員の力を最大限に活用しようと思うと、MCCが文化として内在し続けるのはリスクがあるのかもしれません。

また、「弱さを見せるな」「強さとスタミナ」「仕事第一主義」「弱肉強食」といった下位項目レベルでも、与える影響は異なると予想されます。(私の携わった共同研究でも、MCCの下位項目とインクルーシブな風土の下位項目では、一律の影響関係ではなく、傾向値がみられました。)

刺激的な概念・尺度であるため、解釈や扱い方も重要になりそうです。他の実証研究の結果なども気になるので、さらに調査を続けます。

(参考)前回の投稿にも関連するので、リンクを貼っておきます。


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