【パーソナリティ】ビッグファイブ、HEXACO、ダークトライアドの関係とは?(Howard et al., 2020)
今回もパーソナリティ研究に焦点を当てます。タイトルに専門用語がたくさん並んで、何が何だかわかりませんね。。。
どんな論文?
この論文は、HEXACOという特性を分類する考え方の1要素である、Honesty-Humility(正直さー謙虚さ)が、ビッグファイブとどう違うのか、ダークトライアドとどんな違いがあるのかについて、約400(スクリーニング後)の文献に対するメタ・アナリシスによって分析したものです。
その結果、Honesty-Humilityは、HEXACOの「EXACO」、ビッグファイブの各因子(調和性を除く)と相関が小さく、有意に異なることが示されました。つまり、Honesty-Humilityは、他の因子と異なった因子、ということです。
(ビッグファイブ、HEXACO、ダーク・トライアドの詳細は後段で。)
ビッグファイブの「調和性」だけは、Honesty-Humilityと大きな相関がありました。つまり、似たようなことを聞いている可能性がある、ということです。ただし、ビッグファイブ全体では、Honesty-Humilityそのものを説明する度合いが高くないことも分析されています。したがって、
「Honesty-Humilityを扱うには、ビッグファイブよりHEXACOの方が、因子的にきれいに分かれており、適している」
というのが、本研究の1つの結論です。
そしてもう一つ、Honesty-Humilityとダーク・トライアドの関係です。ダーク・トライアドの表す、ナルシシズム、サイコパス、マキャベリズムという3つの因子との関連性は、過去の研究から指摘されていました。つまり、Honesty-Humilityと、これらの3つは対極にある関係であり、+なのか-なのかの違いだけで、同じ軸で測るものだ、という指摘です。
今回の研究は、たしかに強い関連性が見られたものの、詳細にみると、要素間によって異なった様相を示しています。つまり、Honesty-Humilityの要素の中でも、
「誠実さ」と 「公正さ」は、他のファセットに比べ、マキャベリズム やサイコパスとの関係が大きい
「謙虚さ」はナルシシズムとの関係が大きい
という、要素ごとの違いがあるため、Honesty-Humilityとダーク・トライアドをセットにして、同軸上で測るには少し無理がある、と言えそうです。
こうした分析の結果、HEXACO、 ビッグファイブ、ダークトライアドの各次元は、同じ構成要素として扱われるべきではなさそう、というのが、この研究におけるもう一つの結論です。
(こうした、概念/尺度の違いが妥当である、という研究も大事ですね。ちなみに、分析結果やその解釈はついていけてないのですべて割愛しました・・・)
言い換えれば、誠実で公正な人は、マキャベリズムやサイコパスになりにくく、謙虚な人は、ナルシシズムに陥りにくい、とは言えそうです。(これは感覚的にもなんとなくわかる気がします)
パーソナリティ研究における3つの主要概念
前回、パーソナリティ研究の動向に関するレビュー論文を紹介しました。そこでも、ビッグ・ファイブとダーク・トライアドは登場しています。
ビッグファイブ(Big five)は、人の個性を決め得る5つの因子で、「Openness(開放性)」「Conscientiousness(誠実性)」「Extraversion(外向性)」「Agreeableness(調和性)」「Neuroticism(神経症的傾向)」で構成されます。
HEXACOは、ビッグファイブ研究から派生したもので、「6つ目のファクター(Honesty-Humility)があるで!」というカナダの研究者、AshtonとLeeによって考え出されたものです。
早稲田大学の小塩教授(心理統計の書籍では大変お世話になっています・・・)のNoteから、HEXACOとビッグ・ファイブの対応関係を引用させていただきました。
以下にリンクを貼っておきます。とてもわかりやすいです!
そして、ダーク・トライアドは、ナルシシズム、サイコパス、マキャベリズムという3つの因子によって説明されるパーソナリティ特性です。
簡単に言えば、平気で嘘をつく、罪悪感が欠けている、人を裏切る、共感性がない、思いやりが足りないといったヤバイ特性、です。(前回のコピペ)
研究方法
今回の研究における方法論についても、少しだけ触れておきます。
最初に、Google ScholarとEbscoという論文検索により、HEXACO、Big five, Personalityといった用語に加え、「HEXACO-60」(HEXACOの具体的な60設問による尺度)なども検索に加え、3500近くの論文から、定量的な実証研究のみをスクリーニングしました。
その上で、394の定量研究を導き出し、これらの数値データを統合しました。(こんな方法があるのか!と思います。各論文のデータを合体させちゃうのはありなのですね。。。)
そのための細かい検定や、分析は専門的すぎるので、ここでは割愛します。
感じたこと
パーソナリティ研究で用いられる3つの概念とその弁別性、関連性を分析したこの研究から、Honesty-Humilityという概念を適切かつ的確に調べる必要性・重要性に対する著者の想いが感じ取れました。
この「Hファクター」と呼ばれる、Honesty-Humilityですが、研究面で言えばエドガー・シャイン先生による謙虚なリーダーシップ、実務面で言えば、パワハラの増加傾向など、より注目度が大きくなるように思います。
それゆえに、Honesty-Humilityという特性を、他のパーソナリティと合わせて適切に見るための尺度としては、HEXACOの方がビッグファイブよりベターである、という一つの示唆は、今後の研究者にとって大変有用だと思います。
(もちろん、ビッグファイブで研究できる、すべきものもあるようです)
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