見出し画像

【パーソナリティ】性格特性を表す「6つ目のファクター」とは何か?①(Lee & Ashton, 2012;小塩他訳, 2022)

少し前に扱った、パーソナリティ関連の概念について深めようと思い、小塩先生の訳された「パーソナリティーのHファクター」という書籍を取り上げます。もともと、パーソナリティ研究といえばビッグファイブ、と呼ばれる5つの特性が代表的ですが、カナダのリー&アシュトン教授によって、6つ目のファクターが提案されています。


どんな書籍?

6つ目のパーソナリティ要素と呼ばれる、Honesty-Humility(正直さ・謙虚さ。Hファクターと呼ばれる)を中心に、ビッグ・ファイブの特性を合わせた、HEXACOと呼ばれる、6つの特性の次元について紹介した書籍です。

多くの心理学者の中で中心的に調べられてきたのが、ビッグ・ファイブ、と呼ばれる特性です。(①外向性:外交的か内気か/②協調性:優しいか攻撃的か/③誠実性:規律正しいか無秩序か/④神経症傾向:情緒が不安定か安定しているか/⑤経験への開放性:創造的かありきたりか)

このビッグ・ファイブは、性格診断などにもよく使われるもので、ある言語のパーソナリティに関連する用語を抜き出し、それらに基づくアンケートを作成して定量的に分析したもので、数多くの言語で同様の5つの因子が発見されています。
そのため、この5つの特性を測定すれば、あらゆる人を測定できる(5つに当てはめるのではなく、その特性の度合いで説明できるという意味)と言われます。

この書籍の著者であるリー&アシュトンは、ビッグ・ファイブの研究が非英語圏でも見られるかどうかを調査すべく、韓国語のパーソナリティ用語から、同様の実験を行いました。定量的な分析(因子分析)を行ったところ、既存の研究とは異なる6つ目の因子が見つかったのです。
(正確には、ビッグ・ファイブと同様の5因子でもまとまりはよかったものの、6因子でもそれなりに大きな信頼性が得られた、というものです)

その6つ目の因子に該当する用語が、

  • 真実、率直、正直、控えめ、誠実、

  • (その反対の側面を表す)狡猾、計算高い、偽善的、尊大、うぬぼれ、お世辞、気取り

でした。著者らはこの因子をHファクターと呼び、それまでのビッグ・ファイブと合わせて、HEXACO(頭文字をとったもの)と呼んでいます。詳しくは、過去の投稿をご覧ください。


H因子×他の因子

この書籍では、その名が示す通り、Hファクターの特徴について多くの紙面が割かれています。他の特性、つまりビッグ・ファイブの解説は別のサイトに譲り、ここでは、H因子×他の因子、特に、本著のサブタイトルでもある、「自己中心的で、欺瞞的で、貪欲な人たち」という、低いH因子×低い他の因子を併せ持つタイプの特徴を紹介します。

1.低いH因子×低いE因子:恐れ(あるいは哀れみ)知らずの強欲
E(Emotion)因子は、情動性を示すもので、感情的、心配、神経過敏、傷つきやすいといった要素の特性です。
このE因子とH因子がともに低い場合は、金や地位、権力に飢え、欲望のためにリスクを冒すようなタイプと考えられ、「地位駆動型リスクテイキング」と著者らは名付けています。

地位や権力のためなら、他者への哀れみもなく、困っている人も助けず、自分の欲のために他者を傷つけることも厭わない、そんな特性のようです。

2.低いH因子×高いE因子:責任逃れと泣き言吐き
E因子の低い人達と比べ、E因子の高い人たちは怖がりで過敏なので、リスクテイキングは行わず、代わりに、さりげなく、卑怯な行動を取ったり、逃げ出したりする、とのことです。対立を避け、責任逃れをするために泣き言を言ったり、被害者モードに入るようなタイプといえます。

3.低いH因子×高いX因子:自己愛の暴走
X因子は、eXtraversionのX、つまり外向性を指します。高い外向性と低いH因子が掛け合わさると、ナルシストとなるようです。自分が生まれながらのリーダーだと考えており、初対面を苦にせず、大人数の場でも自信をもって発言します。
一方、自己顕示欲と自己喧伝欲があり、他者の幸福に関心がないどころか、それを見て憤慨することもあるとのこと。低いH因子の特性は、人を操るのが得意なので、自慢をしたり、望むものを得るために、露出度の高い服を好むなど、魅力を存分に使うようです。


4.低いH因子×低いX因子:いやに気取った静かなタイプ
外向性が低いと、自慢したり自己顕示したりはないため悪影響はないが、見栄っ張りで気取ったヤツ、とみられることが多いようです。


5.低いH因子×低いA因子:ただ普通に嫌な人
このストレートな表現。笑えました。
Aは「Agreeableness」で、協調性を意味します。つまり、H因子とA因子がともに低いと、尊大で協調性がない、言行不一致で自己中心的になるようです。また、キレやすく(許したくない)復讐に燃えるタイプとのこと。


6.低いH因子×高いA因子:怒らないが不誠実
A因子が高い場合は、協調性が高いので、いやなやつにも我慢ができるので、一見礼儀正しくにこにこしているが、それはお世辞や偽りの好意で、私利私欲のために平気でうそをつく腹黒いタイプだそう。

7.低いH因子×低いC因子:雇用主にとって最悪の事態
CはConscientiousness、誠実性を表します。つまり、謙虚さ・正直さ・誠実さがない、という、組織においてなかなかの問題児となるようです。仕事を遅刻してもさぼっても心が痛まず、私欲のために犯罪を犯す可能性すらありうるとのこと。非道徳的・反社会的なことを繰り返す「サイコパス」と呼ばれる人たちの特徴が、この2つの因子(+低いE因子)の低さによって説明されるようです。


8.低いH因子×高いC因子:自己中心的な野望
高いC因子の人は、目標達成や秩序維持という意味での誠実さは高く持つものの、H因子が低いので、公正さや倫理観には欠けており、自分のことばかり考えて出世しようとしたり、特権意識を強く持ち、欺瞞傾向があるようです。

9.低いH因子×低いO因子:浅はかで考えが狭い
もはや、シンプルなディスりになってきました。
OはOpenness to Experience(経験への開放性)という因子です。経験への開放、という呼び名は少しミスリーディングなのですが、O因子は、新しい知識を求めたり、芸術や自然に没頭したり、新しい解決策を受け入れる、というのが本来の意味合いのようです。
このO因子とH因子が低いと、金儲けができるなら倫理や美しさ、自然との調和などどうでもよい、といった浅はかなタイプとなるようです。また、富と名声に基づいて他人を判断する傾向もあるそう。

10.低いH因子×高いO因子:洗練された気取り屋
簡単に言えば、自分がいかに文化的で学識があるかを示すのが大好きな人たちです。長くて難しい言葉をあえて使うことを好み、それにより自分の優位性を確立しようとする傾向を持つようです。合コンなどで学歴をことさらに武器にしようとする姿(そして引かれる姿)が目に浮かびます。


感じたこと

大変興味深く読みました。周りにいる「面倒くさいやつ」「嫌なやつ」というのは、この10種類のどれかに当てはまりそうだと感じます。
Hファクターは、ダークトライアド(マキャベリズム×サイコパシー×ナルシズム)とも関連があることが研究上でも明らかにされており、今後重要となる特性でしょう。

ただ、正直さ・謙虚さのなさをどう測ることができるのでしょうか?その点について、次の投稿でご紹介したいと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?