【パーソナリティ】性格特性を表す「6つ目のファクター」とは何か?②(Lee & Ashton, 2012;小塩他訳, 2022)
前回の続きで、H因子(Honesty-Humility:正直さ・謙虚さ)について詳述された書籍の紹介です。今回は、H因子の低い人たちの特徴、自己中心的で、欺瞞的で、貪欲な人たちを見分けることができるのか?という部分を解説します。
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H因子の高さを見分けることができるのか?(5章)
この章では、H因子の高低を見分けることができるのかが解説されています。まず、そもそも、人のパーソナリティは他者が見分けることができるのでしょうか?
書籍によると、パーソナリティの中でも、外向性については比較的容易に観察可能だという研究があるようです。一方、それ以外の因子は初対面で判断することは困難なので、パーソナリティ診断を使うことが一つの手法と考えられています。
(なんと、この書籍にはHEXACOの質問紙もついています!)
次の疑問として、H因子は質問紙で正確に診断できるのか?という点が浮上します。H因子が低い=正直さ・謙虚さが低いので、そもそも診断の回答を欺く可能性があるのでは?と感じます。
この点に関して、本著では、以下のように述べられています。つまり、診断結果を欺こうとはしないのでは?とのこと。(ただ、個人的には、低いH因子の人たちに社会的望ましさを顕示するような傾向があるように感じます)
また、過去の研究でH因子得点の分布をみると、とても高い人も低い人も少ないようです。仮に、H因子の人が「偽って」診断に回答するなら、H因子の分布も高いほうに偏るはずだが、実際は(他の因子同様)そうなっていないため、診断の回答を欺く可能性は低い、と説明されています。
実際のところ、自身の利益に直結するような、企業における診断(採用、研修などで使用されそう)の場合は、欺いた診断結果になる可能性は否定できない、とも解釈できそうです。(不特定多数に、匿名回答依頼するインターネット調査などであれば、著者らの説明通り、素直に回答しそうです)
人は、どれくらいの期間で他者のパーソナリティを見抜ける?
著者らは、大学生1300名に対する長年の調査から、興味深い結果を見出しています。ある人物のパーソナリティを見抜くために、知り合ってからどれくらいの期間が必要か?という点を、診断の自己回答と他者回答の一致度で、付き合いの長い友人とそうでない友人の傾向を調べました。
結論から言うと、自己回答と他者回答の一致度は、付き合いの長さとの関連がほぼなく、人は1年以内に、H因子や他のパーソナリティ因子に対する優れた見立てができるとのこと。1年以内の友人関係における自己回答と他者回答の相関係数が、長い付き合いのそれと比較しても変わらなかったようです。
H因子の低い人たちの見分け方ーそして付き合い方(10章)
書籍では、H因子の低さを見分けるために、低いH因子を持つことの妥当な行動特徴が以下のように紹介されています。
社会制度を打ち破る:所得税や関税を逃れる方法、企業から盗みを働く方法などを自慢げに語る人には要注意。組織を騙す人は、個人も騙す。
取り入る:自分の欲しいものを持つ人や影響力のある人に、友好的で礼儀正しく、親しみやすく振る舞う人には要注意。自分の役に立つ場合のみ取り入るような行動を取る人は、お世辞や褒め言葉でたぶらかそうとする傾向がある。
ギャンブル:ギャンブラーにはH因子が低い人が多い。手っ取り早くお金持ちになる、という動機の裏には、楽して何かを得たいという欲求がある場合がある。
浮気:恋人を欺く人々はH因子が低いことが多く、略奪愛好きなども当てはまる。
顕示的消費:物質主義的で派手好きな人はH因子が低い傾向がある。1度や2度の贅沢ではなく(例えば、車好きが高い車を持つことは見せびらかすだけが目的ではない)多種多様な高価な品物を見せびらかすような行動パターンを示す人には注意。近しい考えとして「ネームドロッピング」がある。これは、有名人や権力者との関係をアピールする人たちを指す。
特権階級のメンタリティ:自称エリートの中にいる、社会階級や民族性、知性等の優れた強みを持ちそれを特権意識と感じる人は、H因子が低い。こうした人々は、劣った人からの搾取を当たり前と思い、税や経費を派手に使うことがある。
他のグループの蔑視:H因子の低い人たちは、他のグループを蔑視し、喜んで誹謗中傷する。
そして、著者らによると、H因子の低い人たちが周りにいる際の最良のアドバイスは「交流を制限する」ことだとのこと。要するに、近寄らないほうが無難なようです。
一方で、職場や個人的なつながりで、すでにH因子の低い人たちとの関係性がある場合にも触れています。
やってはいけないのが、公正さを説く等、その人を変えるような行動とのことです。下手をすると、搾取の対象と認識され大変な目にあうようです。
ではどうするか。自分のしたいことと、H因子の低い人たちの利益が一致する方法を見つけること、と著者らは言います。ただ、これが簡単でないとも同時に説明されており、なるべく距離を置く、というのが現実解な気がします。
感じたこと
大変興味深い書籍でした。たしかに、こういう人は居ると感じますし、距離を置かないと痛い目を見る、という経験もしてきました。
なんとなく、ですが、カルロス・ゴーン氏などを思い浮かべました。カリスマ型リーダーシップを発揮し、一時期、組織変革における手法が参考書として扱われていましたが、国外に退避し露出されている姿などを見ると、低いH因子の特徴に当てはまるように見えます。(メディアのスクリーニングが自分にもかかっているとは思いますが、、、)
H因子が低い人でも、牽引型・カリスマ型のようなリーダーシップは取れますが、インクルーシブ・リーダーシップは発揮できなそうだと感じます。