見出し画像

小中不登校、ヤンキー高校から一年間の独学で阪大に受かった話 [Origin] 第12話 二日目




スーーーーーー…


強張る体をリラックスさせるために深く深呼吸を試みる。









ッゲッホゲホゲホッ!







おはよう、
センター試験2日目


今になって少し説明を挟みたいと思う。センター試験の形式は単純明快、4〜択のマークを制限時間内に塗りつぶして提出する。テキトーに塗りつぶしてもいいけど、ちゃんと答えを導いてからのほうが自分の得点ためだろう。その結果を自分の志望大学に送りつけて、「私はこのレベルの基礎力があるので、あんたの大学うけるわよ」と申告する。大学側は、そこで足切りする場合もあるが、大体は「はいそうですか」と受け取って、最終的にはセンターの結果と大学個別試験通称”二次試験”の結果の合算で合否を決める。

一般に難しいと言われている大学は「センター試験でたくさん点数を取らなければならない」かつ「二次試験が難しいため、点数を取りにくい」という二重の関門が敷かれているため難しいと言われている。

と、言ってもさっきも言ったように「合否は合算で決まる」

つまり、センター試験で大幅にリードを取っておけば二次試験で多少融通が利き、精神的余裕も生まれる。これが多くの受験生の狙いであり、僕もまた然りだ。


だから志望校が難関になればなるほど、センター試験での一つのミスが響く。僕の目標は9割超えだ。



周りを見渡してみると、1日目を終えて、結果を引きずっている者や、吹っ切れた者、あるいは今日の受験科目しか用がなく、今日が初めての受験の者…



皆の心のうちや、目指す場所はバラバラ






しかし気のせいだろうか、昨日よりも周りの表情が柔らかくみえる。






気のせいか。



寝ぼけたことは言ってられない。






一教科目から僕にとって最大の鬼門、センター数学IAが行われる。

僕はなぜか数学IIBよりもこっちの方が苦手なんだ。


特にデータの分析がやばい、人間のやるべきことじゃない。(過言)






ブドウ糖を口に放り込み、目を覚ます。



昨日まで赤の他人だった隣の席の人の顔を見て、僕は少しリラックスする。これが吊り橋効果というやつか。


そして回答用紙が配られ始める。



空気が張り詰める



「試験始め!」





毎度同じように、ザッと一斉に取り掛かる。




僕は少し怯えながら、でも呼吸を整えてページをめくる。




センター数学IA、こいつに取り組み始めたのは夏からだ。



と言っても、単元ごとに時期はバラバラだった。



夏の最初に、図形の分野をやった。図形が本当に苦手で、自分の書いた図で逆に混乱するってのがしょっちゅうあった。

特に僕は、イメージとか表で考えるタイプだから、式が言っていないことでも図に書き入れちゃう困った癖があった。

二等辺と書いてないのに、勝手に二等辺だと思い込んじゃうみたいな。

それを徹底的に矯正するために、図形の情報を式で捉える練習をした。

画像1

確率の分野は大雨続く9月ごろに徹底してやった。

確率の考え方がイマイチ腹から納得できてなくて、色々調べて、その考え方を当てはめて解こうとした。

同じ問題に5、6通りのやり方でアプローチした。


無論、参考書を買うお金がなかったからだけれど。


その甲斐あって、
「なぜこの解法では上手くいって、別のではダメなのか。

確率におけるエッセンスとは何なのか」をひたすらに考えることができた。


“胡散クサイ誰かの言葉を鵜呑みにして、知ったかぶっているバカ”よりも、僕のようなバカの方が幾分かタチが良いと思えた。



計算しながら、寒くて震えていたのをよく覚えている。(冷房)

そして何よりの鬼門がデータの分析の分野だった。
これが覚えにくいのなんのって。

分散とか標準偏差とか、相関とか、中央値とか四分位偏差とか……マーージで何言ってんだこいつってずっと思ってた。

文句ばっかりタレても仕方ないから、ゼロから調べあげて、定義を懸命に覚えた。

あとはひたすら過去問で使い方を練習した。

画像2



その解説を何度も読み込んで、一番自分がミスしない数え上げ方とか、計算方法を考えた。



入院中には、

「試験が始まったらこういうふうにページを開いて、
こういう配分で進めて、
このタイプの問題だったら、
なるべく早めにやって、後で確認して…」


みたいに何通りも自分が苦手なパターンを想定しては対策して、を繰り返した。


スポーツでいうならば敵チームのよく取る戦法を学ぶみたいな話だ。


言わずもがな、こうした数学1Aの取り組みも数え切れないくらいの失敗の連続だった。

何度「もういいわ!」と投げ出しそうになっただろうか。


その度に「…いや、よくないわ!」とペンを握り直した。


ー今、その全てをぶつけるだけだ。
「〇〇時間取り組んだから、大丈夫」

「この問題集をこれだけやったから大丈夫」

なんてチープな言葉で自分を安心させる必要なんてない。

僕はただ、逃げなかった。



目を背けずに、やり込んだ。



そして今、出来るようになっている。



その事実だけで十分だ。





…ペンを進める







…やっぱむずいな数1Aはw



「試験終了!」




出来としては、ちょっと不安。やっぱり前半で時間を沢山使っちゃった。



でも全ての問題を、時間以内に計算できたし、難しいとこは適宜とばして取り組めたし、及第点だと思う。



まあいい。





つーか、試験は終わったんだ。



今考えても仕方ないわ。



僕はそう思って頭をリセットする。


深呼吸、深呼吸。

スーーーーー





ッゲッホゲホゲホッ(知ってた)





続いては数学IIB。



小休憩にたくさんシュコっておく。



シュコシュコシュコシュコ!

ふうううう…

多少、息が吸いやすくなった。





クラクラする。



ずっと酸欠みたいな気分だ。



「試験始め!」






…数学IIB、


なぜかこいつには苦手意識がない。


むしろIAよりも簡単だと思っている。なぜだろう。
思い当たるのは、単純な理由







僕が今まで取り組んできた問題の方がはるかにハードだったからだ。






センター数学IIBの勉強を始めたのはセンター試験の1ヶ月前からだ。

そして数回繰り返すだけで80点はすぐに取れるようになった。


ここしか聞かなければただの天才に見える。


しかしそれまでに、凡才なバカは、誰よりも自らの力のなさを味わってきた。








数学も浪人が始まってすぐに取り掛かった。


こいつは僕が苦手とする一番の科目だと分かっていたからだ。



そして僕は分不相応にも、いきなり数々の大学入試の問題を解いた。


というのも、簡単な参考書を買い直すお金がなかったし、ネットで配布されている教材というのは大体が入試レベルのものだからだ。



何が正しい順序かは分からなかったけれど、とにかくそれらをコピーして解いていた。

春だ。煉獄での話だ。


桜に脇目も振らず、街を自転車で駆け抜けた。



市民センターの道すがらにあるセブンイレブンで、その日に解く問題をダウンロードしてコピーする。





ネットからのコピーは一枚20円だ。
高すぎんだろ!

部屋からかき集めた小銭とか、お母さんが僕を心配して握らせた数百円をしぶしぶ機械に投入する。




チャリンチャリンと十円玉が入っていく。

6枚のプリントで120円。

120円あればコロッケパンが買える。


クソ…クソ…



コロッケパンに目を向けないようにする。


そのプリントされた紙をカバンに突っ込んだら、また全速力で市民センターに向かう。


頭を抱えながらそれを解いていると、午前11時ごろにグウウウとお腹が鳴り始める。



午前11時から12時。


この時間が本当に辛い。


お腹が空きすぎてお腹が痛くなる。


胃がキリキリして、腸が潰されそうになる。


おまけに、お昼ご飯時には、目の前のソファで他の利用客がお弁当を広げて食べるもんだから、そのいい匂いをかぐのが本当に辛かった。

グッと堪えて、分不相応なレベルの問題を解く。


分不相応といっても、そういう問題は基礎的な知識から構成されている。



と言っても、僕には

「あ!この基礎知識から構成されているな!」

と見抜く目がなかったので、解説を何回も何回も何回も見て、



「え?どういうこと?」

となるたびに、YouTubeやGoogleで検索して、考えて、

煮詰まったらYahoo知恵袋やYouTubeのコメント欄に質問していた。

たった6問しか印刷していないのに、4問くらいで日が暮れた。

画像3


復習も怠ることなくやった。


むしろ、現役の時は全く復習していなかったので、「現役とは逆のことをする」というのが目標だった僕は、復習に全力を捧げた。



“この日々の先に光があるのか”、窓から空を見上げて何度と思った。


嫌になって、こっそり非常口から市民センターの屋上に出た。

ずっと遠くの方を見ていた。




遠くに手を伸ばして、尋ねる。









「僕はどこまでいける」












何度も館内の人に怒られた。





次第に、1日にこなせる問題量が増えていった。
その分だけ復習しなければならない量も、密度も大きくなったけれど。


大量の問題の復習の進度を管理するために、自由帳に問題ごとにその日の出来具合を◯×△で書き記した。

画像4




最初は×ばっかりだったそのノートは次第に△や◯が増えていった。


そして3ヶ月ほどそんな修行みたいな生活を送った時に変化が訪れた。




計算の指針が立つ。


この問題は何がしたいのかが分かる。


こうして数学が少しずつできるようになった。

それでも夏を超えても劇的に賢くなったわけじゃなかった。


計算方法が我流だったのだ。


計算方法が悪ければ、どれだけ指針が立っていようと途中で見失う。

あるいは計算ミスで雪崩のように間違った答えにたどり着く。  


何より、計算で煩うことは数学の苦手意識につながる。

秋も深まった11月頃から、計算のやり方、

例えば積分計算の方法、座標変換の考え方、数列の公式の導出…


自分を誰よりもバカだと自覚して、そして変なプライドを捨てて
ゼロから学び直した。



春に時間をかけていただけあって、変なプライドを捨てるのはとても苦労した。


でもその度に

「自己満足で気持ち良くなるためにやってんのか?」

と自問自答して、初学者であることを思い出させた。


画像5


そして今、ここにいる。
今、僕はセンター試験数学IIBを解いている。




センター試験数学IIBを、思いっきり捻じ伏せている。


ー僕の今までのすべてを以って。




「試験終了!」





…出来た。




タブン


特にコメントはない。まあ想定以上でも以下でもない手応えだ。


途中、ちょっと息が苦しくなったのが想定外だ。


参考書には、気胸対策のページがなかった。あとで出版社にはクレームを入れよう。  



ー昼休憩。




外に出て、まだ明るい空に昇る月を見上げる。



なんて綺麗なんだろうか。



ちっぽけな人間たちを見下ろす月。



勉強のことなんか忘れて、ただ見上げる。 


スーーーーー





ゲホッゲホッゲホ(ry





そしていよいよ、センター試験は終局へ。


最後の教科、


理科、二教科だ。


「やっと終わる、やっとセンター試験が終わる…」という安堵を、心のどこかで感じつつ、それに流されぬように一層に気を引きしめる。



「試験始め!」



理科のテストは二教科つづけて行われる。

一教科目の問題用紙が配られ、時間が経つと、強制的に二教科を始めさせられる。


その間に、席を立つことは許されない。




つまり、次に教室を出るときにはセンター試験は終わっている


そう考えると、やはり気分が緩みそうだ。

まずは化学だ。
化学はずっと嫌な思い出がつきまとっている。


神戸大学二次試験で手も足も出なかったことだ。


なんも分からずにサイコロを転がして答えた。

数値もそれっぽいのをテキトーに書いた。



「ああ、自分なにしてんねや二次試験で」



と書き込んでいる最中に思った。


そのときに改めて自分がただの嘘つきであることを思い知った。

あの悪夢のような75分が本当に忘れられない。


その恐怖のおかげで、煉獄のような春を乗り越えられた。

また、ああなるのが怖くて教科書を最初から読み下した。

そうすると目からウロコなことばかり書いてある。

正直、僕は文章を読むのがとても苦手でだ。

読んでいたら文章がグニャグニャと曲がってくるし、
読んでいる最中に別のことを考えてしまう。



そんな意識を何度も引き戻して、何度も読み返した。

読み返すだけじゃなくて、手を動かして教科書の例題に取り組んだ。


ランニングコースに何十時間と篭り、

記憶を徹底したのは言わずもがな、


座学の時には、高校で配布された簡単な問題集をやり直した。


問題集が新品同然だったのが、去年の僕を物語っている。

それに書き込んで、
何度も繰り返して、
覚えられないところはボイスメモを自作して、四六時中聴いていた。 


それでも成績は奮わず、なんとなく化学が苦手なまま、夏を終えた。


そしてあの模試を経て、結果を返却されて、

11月にもう一度じっくりと化学に取り組んだ。

画像6



変なプライドを捨てて「そもそもmolってなんや」と検索していた時に、「受験科学コーチわたなべ」というサイトで衝撃的なことが書いてあった。


「モルはただの単位。計算は比さえわかっていればオッケー」








…なに言ってんだコイツ



と思ったけれど、どうやら”僕の知らない何かがあるらしい”と思った。



そこで、そもそも「比」とな何なのか調べた。小学2年か3年生用の動画を見た。






「比 とは 検索」







そしてその時に全てが繋がった。



「え、ひょっとしてそういうこと?」


「単位ってそういうこと?



単位にそれぞれ記号がある意味ってそういうこと?」



「比が重要って、そういうこと?!」

つまり比というのはいわば「単位/単位」で出来ている。
もし仮に、mol(溶媒)というのか知りたければ比をひたすらに掛け算して、それだけを抽出すれば良いのだ。


ーそこからが早かった。



瞬く間に、すべての問題に共通性が見え始めた。

頭を抱えていた問題を久しぶりにやってみると、簡単に解ける。





センター試験も、いざやってみると20分を残して90点は余裕で取れる。





…気持ちいいイイイイイイいい!









と自習室で一人盛り上がっていたものだ(キモ)






そして今、僕はこ






…ッゲッホゲホゲホッゲッホ!!!!





ヤバイ急にきた



急にきた苦しい死ぬ







息が苦しくなって、服に手を突っ込む。




シュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコ!!!!




隣の席の人がこっちをすげえ見てる。


こっち見んな!(無理がある)



シュコシュコシュコシュコ…


「1教科目の試験終了!問題を回収しますので、教室から出ないでください」



こうして思わぬハプニングの中、化学は終了した。
やべえ死ぬかと思った。



「続いて、二教科目を始めてください。





試験始め」



ほぼノータイムで、次の試験が行われる。


試験室の緊張は続いたままだ。





え?


ああ、試験始めか。


酸欠で頭がぼーっとする




景色が霞む。




生物は…生物の勉強を始めたのは…



zzz



生物の勉強を始めたのは夏が始まる前の6月中旬だ。

ずっと教科書を持ち歩いていた。

これと言った問題集を持っていなかったので、ひたすら読み込んで、YouTubeの映像資料とかでイメージをつけてやっていた。

あんまり受験勉強って感じじゃなく、図鑑でも読んでいるかのようなノリだった。

画像7


「生物って不思議やなあ」と思いながら、読み込んで、入試問題を解いたりしてた。

生物の面白いところは、「絶対的な答えがない」ところだ。 

つまり、ロジカルに採点官を納得させられれば、それで点数がもらえる。

「理系版の国語」と言われるのも頷ける。

文章を書くために漢字が必要なように、納得させるには理系用語の意味を知っていることが必須だ。

だから生物は暗記が重視されており、マーク式のセンターは、いわば「漢字テスト」みたいなものだ。


もちろんその構造にすぐに気づけたわけではなく、二次試験の勉強をしている時に気づいた。

だから、秋からいっそう定義を説明できるようにコト細かに記憶した。

ボイスレコーダーで自分の説明を録音して、「えーっと、」「あれあれ」なんか言うたびに、説明をやり直させた。



…そして今…zzzz


ぼーっとしながらマークする。


やべえ…夢か現実か分かんねえ…




霞む目を何度も擦って考える。


シュコって隣のやつに睨まれる。






「試験終了ぉ!!」





心なしか試験監督の声もでかい。



彼も早く帰りたいんだろう。



問題用紙が回収される。


僕は力一杯、両手でポンプを押す。ひっひっふー






静寂











「はい、確認が終わりました。





皆さまセンター試験二日間お疲れ様でした。


帰るときには道に広がって帰らないようにお願いします。




お疲れ様でした」





場の空気が一気に緩む。

雑音が一気に溢れ出す。



まだ受験は続くと知っているのに、ひとときの開放感に心躍らせる。




僕もまた同じく。



外はすっかり暗くなっている。



スーーーーー

…深く息を吸い込む





ッゲッホゲホゲホッ!!!











痛ってええええええええええ!!!!!!







…痛すぎて逆に清々しいぜ(ドM)









…試験の手応えのことはそんなに気にならない。



ただ、じっくりと噛み締める。



僕は、ここまで来た。


ひとまずだけれど、ここまで来た。



一年前、ここでズタボロに負けて、また戻ってきた。



そう、僕は、



ここまで来た。


次回予告 

https://youtu.be/BH6XRUaD9_4



Twitter 【 https://twitter.com/TakadeMedia 】



instagram【 https://www.instagram.com/tkht1120/ 】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?