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小田原から太陽へと続く長い道

僕が大好きな芸術家の一人・杉本博司による壮大な美術館「江ノ浦測候所」。小田原にある予約制の美術館で、今となってはかなり有名になったが、ここはやはり建築好きの人々にとっては垂涎の的だろう。予約制なので混むこともなく、ゆっくりと見られるのもいい。

とは言っても、芸術品が飾られているというよりは、建物自体がアート。その点で「豊島美術館」に通づるものがあって、好きなわけだ。しかも、建築は全て自然に向かって作られている点もいい。

たとえばこの「夏至光遥拝100メートルギャラリー」には杉本博司の「海景」という(実は一生のうちに絶対に欲しい)写真作品が飾られているのだけど、夏至の日にちょうど光がさす方向に向かって伸びているらしい。正面の窓からは「海景」そのままの風景が見られるのも粋だ。

こちらは「冬至光遥拝隧道」。当時の日に光が差し込む通路で、手前にある石は「止め石」と呼ばれる、神社などで仕切りを示すためのもの。これ以上は行ってはならない。

そのほか茶室は春秋分の日の太陽の方向に向かって道が伸びていたりするし、そもそも本館の地下ですらこんな風に光が差し込む時間がある。

言うなれば、自然信仰という印象を受けた。自然の偉大さを知り、それを崇めるための場所。山川といった大自然とは異なる人間が作り出した場所ながらも、自然と一体化できるというのが本当に気持ちよくて、ちょっとばかり現実から逃げたい人にはとてもおすすめな場所なのである。

「好きな日本文化」というハッシュタグがあったので、最後に追記してみると、やっぱり僕が好きな日本文化は「客観写生」だなあと思う。見たものを見たままに表現すること。俳句の基本であるが、この心を持つのは世界でも唯一日本くらいじゃないだろうか。「客観写生」ができるためには、移ろいゆく自然を眺め、それを知ることが必要。この場所はまさに、現代の「客観写生」のための場所とも呼べるんじゃないだろうか。


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