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年金不安を煽って投資を薦める?

上の記事は、セゾン投信の中野社長によるものですが、どうも公的年金に関する記述に誤解を招くような部分が多く、結果として、年金不安を煽って金融商品を販売するという顧客本位とは言えない営業トーク的な内容になっています。

中野社長はご存知の通り、長期、積み立て投資を一般の生活者に広めることに尽力されてきて、その点においては金融業界の中でも信頼のおける方だと思っていただけに、今回の記事は残念というか、本当にご本人が書いたのかと思うほど、内容が雑に見えます。

以下に、この記事の問題だと思われる部分について解説し、公的年金の誤解を解き、投資の本来の意義について考えてみたいと思います。

市場ワーキンググループ報告書の趣旨は?

「5年に1度の健康診断」といわれる公的年金制度の財政検証結果を厚生労働省が公表しました。総じて公的年金財政の厳しい状況を示す内容で、日本経済の成長率が横ばいのケースでも所得代替率は3割近く低下するという将来予測になっています。「老後2000万円問題」と批判を浴びる憂き目に遭った金融審議会・市場ワーキンググループの報告書による問題提起が、いみじくも現実の課題であることを裏付ける検証結果になりました。

これによると、市場ワーキンググループ(WG)の報告書が、年金の水準低下による老後資金の不足という問題を提起していると読めますが、これは市場WGの趣旨を取り違えているのではないでしょうか。

第24回市場WGの議事録の中でも、竹川委員から以下のような発言が見られます。

【第24回市場WG議事録より竹川委員の発言】
このワーキングに関しては、先ほど林田委員からもありましたが、公助、共助、自助の中で自助をどうしていくかという話を中心に議論してきたものと認識しております。

このように市場WGでは、公助・共助といった社会保障制度の議論はおいといて、自助、すなわち資産形成、就労といったことについて議論をしてきたということです。

年金の水準低下という問題提起をすることは、市場WGの趣旨ではありません。そもそも、次に説明するように、将来の年金水準の低下は決まりきったことではありません。

年金水準の低下は自明の理?

次は、以下の部分です。

日本の公的年金制度は21世紀に入り、長寿化と少子化の同時進行で人口減少を伴い急速に支える側の現役世代が減っています。支えられる側の高齢者がどんどん増えていくこれからの日本社会で年を追うごとに年金給付水準が下がることは基本的に「自明の理」と受け止めざるを得ません。

これは、財政検証の本体試算を見てのことだと思いますが、本体試算だけを見て将来の年金水準を語ることは、あまり意味がありません。年金水準が下がることは自明の理ではなく、下がらないようにするための制度改革を着実に実行することが重要なのです。

よろしければ、先日書いた私のnoteをご覧ください。

公的年金は「公助」ではありません

公的年金は国民が安心して生活を営む上で大変重要な、国の社会保障制度における根幹ですが、安心の度合いはそもそもナショナルミニマム。つまり国家が国民に対して保障する最低限度の生活水準をサポートする公助システムであり、はなから国民各位が希求する豊かな生活や人生を全てカバーすることが約束された制度ではありません。

公的年金は、老齢、死亡、障害によって貧困に陥るリスクを、保険の仕組みを活用した「共助」によって防ぐことを目的としているものです。そのため、保険給付の原資は、基礎年金の半分は税金で賄われていますが、基本的には加入者の払う保険料によって賄われています。

一方、「公助」は貧困の状態にある人を国が税金によって救済するための制度で、生活保護が該当します。

このように、公助と共助は、その機能と役割が異なるもので、正確な使い分けをして欲しいと思います。

投資の本来の意義は?

今回の記事は、残念ながら不正確な情報に基づいて年金不安を煽り、投資信託の購入を推奨するといった、金融機関の古典的な営業手法を思わせるもので、顧客本位とは言えません。

でも、中野社長が長期積み立て投資を一般生活者に広めてきたことは素晴らしいことです。これからは、投資は老後の生活のためにするのではなく、世の中の企業にお金を回すことによって、企業のサービスや製品を通じて私たちの暮らしがより便利で豊かなものになり、その上、企業が得た利益が投資のリターンとして還元される、という投資の本来の意義を理解してもらうことによって投資の裾野を広げることを考えて頂きたいと思います。

#COMEMO #NIKKEI

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