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前期高齢者納付金の見直しは、「取れるところから取る」ものではない

少し前の日経の記事。この見出しを見ると、前期高齢者(65歳~74歳)に対する医療費支援の負担を高所得者に求めているように見えて、「取りやすいところから取る」と思われそうですが、それは誤解です。

ということで、Think?でコメントしました。

この記事には全く書かれていませんが、元々の見直しのきっかけは、一部の大企業の健康保険組合の保険料率が著しく低いことなのです。下は、この見直し案が議論されていた、社会保障審議会医療保険部会の資料です。平成23年度と比べると、令和3年度の保険料率は全体的に上昇していますが、8%を下回る健保組合が117あります。

見直しの趣旨は、保険料率が著しく低い健康保険組合に対して応分の負担を求めるものなのです。

この見直しに対して、健康保険組合側は、「健康保険組合の保険料率が低いのは、保険者として従業員の健康維持、医療費の抑制に努めてきたからだ」と言っていますが、下のグラフがすべてを物語っています。

左のグラフを見ると、保険料率が低いのは給付が抑制されているからとは言えないようです。

そして、右のグラフを見ると、報酬額が高いと保険料率が低くなる傾向があることが分かります。要するに、保険料率が低いのは、保険者の努力によって医療費が抑制されているからではなく、単に加入者の報酬が高いので、保険料率が低くても、その保険料収入で給付を賄うことができるからなのです。

そして、全世代型社会保障構築会議でも、この問題は議論されていて、会議の構成員である権丈善一教授(慶應大学商学部)は、以下のような発言をしており、それに賛同するメンバーも何人かいらっしゃいました(太字による強調は筆者が加えたもの)。

多くの保険者ないし保険料設定の範囲が地理的な都道府県に収れんしつつあるため、医療供給体制との関係で論じられている都道府県の責務とも関連して考えられるべきだという御意見に私は賛成します。
今回の構築会議では能力に応じた負担というのが大事な概念なのですが、前期高齢者における総報酬割にのみ適用されていまして、時間軸をもって中長期的に考えるときには 少々適用範囲が狭過ぎます。健保組合を都道府県単位の協会けんぽへの一元化というような、これは年金では汗を流して成し遂げたことですけれども、そういうところまで視野に入れておいていいのではないかと。
そして、先ほど高久構成員からも話がありましたけれども、前期高齢者医療制度での加入者割から総報酬割への変更というのは、保険料率が収入によって逆進的になっているのを比例的にするというだけの話ですから、得をするところは多分に出てくるわけです。

第10回全世代型社会保障構築会議議事録より

健保組合の問題については、以前にも投稿していますので、よろしければご覧になってください。

#日経COMEMO #NIKKEI




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