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本の紹介📚|マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険

私たちがよく“自然”と感じる山や森は、実はその多くが商品となる木材を供給するために計画的に整備された人工林である。それは人の手で作られた“木の畑”であり、本来の自然の様相とは大きな隔たりがある。
本書は、自然の森が持つ複雑性と多様性がもたらす、驚くべき秘密を解き明かしていく科学ドキュメントだ。
著者のスザンヌは、カナダの人工林で計画的に植樹した苗木がうまく育たず、そばに自然に生えた苗木の方が生き生きと育っていることに疑問を持つ。効率的に木を成育させる環境を整えたはずの苗木に不調が起きるのは何故なのか。
ヒントはその根にあった。原生林に生えた苗木の根は菌糸にびっしりと覆われていた。森の菌類は地中に菌糸を張り巡らせて、植物の根を繋いでいるのだ。
この菌類が形成する“ウッド・ワイド・ウェブ”を発見してから、彼女の長い研究が始まる。
林業においては長らく森の木々は競争関係にあり、ある樹種を効率的に成育させるためには他の種の排除が不可欠と考えられてきた。しかし実際には、木々は地中の菌類ネットワークを通じて、種を超えて水分や養分を取り交わしていた。研究を進めるにつれ、ネットワークのハブとなる「マザーツリー」の存在や、まるで脳の神経回路のように交わされる情報によって森全体が一つの大きな知性を持ち、支え合って生きていることが明かされていく。その展開に科学的な好奇心を刺激され、森や自然の見え方が大きく変わっていく感覚に引き込まれる。
そして本書のもう一つの顔は、著者スザンヌの人生のドラマ、人々のつながりの物語だ。
森林生態学の研究は実地で行われ時間もかかるため地道で過酷だが、自然の知の神秘に惹かれながら、苦しみ、喜び、試行錯誤する著者の心情が生き生きと丁寧に描かれていく。森の木々や生き物の描写に、その場にいるかのような空気感を感じるのは著者の捉える世界の解像度や生命への敬意が表れているからかもしれない。研究への不理解や批判、家族との別れ、病など多くの苦難に揉まれながらも、多くの仲間や友人、愛する家族たちとのつながりに支えられながら、ひたすら森に向き合い続ける。森の生命からの学びと自らの人生が重なり合いながら語られていく、長く温かい物語。

マザーツリー
森に隠された「知性」をめぐる冒険
スザンヌ・シマード|ダイヤモンド社

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