冬が大嫌いだった私が、冬を少しだけ好きになれた話

幼い頃は、外で雪遊びをするのが大好きだった。毎年、初雪が降った日には大はしゃぎで外に飛び出したものだ。

ところが、大人になるにつれて、私は冬がどんどん苦手になっていった。疲れているときに冷気が当たると寒冷じんましんが出るし、季節性のうつにも悩まされるようになった。

晩秋になり、日没が早くなる季節を迎えると、心理的なストレスがないのに、日に日に憂うつな気分になっていく。冬季うつ病は、光に対する感受性から説明されることも多く、私自身は体質的なものだととらえている。それによって、晩秋から春まで、1年の3分の1以上の時間を不活発に過ごしてしまうことにつながっているのだ。

「そうだ、常夏の国に移住してみよう」

ある日、そんな考えが私の頭をよぎった。私はフリーライターで、パソコンとネットがあれば仕事ができるから、温暖な国に行けば季節に左右されることなく暮らせるかもしれない。実際、赤道に近い地域では、冬季うつ病がかなり少ないという話を聞いたことがあった。

まずは、タイやマレーシアに「下見」という形で滞在してみることにした。物価が安く、インターネットが使える地域なら、Webで毎月20万円くらいの収入が安定して得られれば生活していけると思った。

常夏の国では、当然ながら毎日が温暖で、薄着で過ごすことができた。日本で過ごす冬のように、モコモコのセーターやダウンジャケットを着る必要もない。とても身軽だし、洗濯をするのも楽だ。日照時間も長いので、夜まで活動的に過ごせた。

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初めのうち、私はそこでの暮らしがすごく気に入っていた。毎年やってくる冬という呪縛から解放されたような気持ちになった。

しかし、次第に「四季がない」ということに違和感を覚えるようになった。雨季と乾季という違いはあるのだが、日本のように明確な「四季」はない。

スーパーで販売される食材も、いつも同じようなものが並んでいて、なにか物足りなかった。窓から見る景色が変わっていくこともない。

そうした環境で違和感を覚えながら、私は自分が「変化」を楽しむのが好きだったのだと気がついた。食に関しても、私は旬の食材を味わうことが好きだ。秋にはサンマや柿を食べたい。春になると、山菜を食べる楽しみもある。それから、桜、新緑、紅葉。景色の移ろいを楽しむのも大好きだったことを思い出した。

私は、冬が大嫌いで常夏の国を視察に行ったのだが、そこで四季が恋しくなった。四季の素晴らしさを再認識してからは「冬も意外と悪くないな」と思えるようになった。あれほど大嫌いだった冬を、少し好きになれた。

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よく見れば、雪景色だって心が洗われるようで綺麗だ。冬になると、寒ブリやワカサギもおいしくいただける。冬がくると、季節の移ろいの中にある趣を感じられるようになった。

冬に対するネガティブなイメージが薄れたことで、私は冬の間も以前より活動的になれた。外で日光を浴びる時間が増えたことも奏功したのか、季節性のうつからは早い段階で抜け出せるようになった。

今年も師走に入ったが、四季の美しさを感じながら、北国の冬を楽しみたいと思う。