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現代のしんどさを孤独で乗り越える。谷川嘉浩著「スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険」を読んで。

倫理をテーマにした漫画「ここは今から倫理です。」が好きで読んでおり、他にも倫理に関係する本を読んでみたいと思っていたところ、オススメに出てきたのが本書でした。

「哲学」に対して難しい・おカタイというイメージがあるのですが、カラフルな表紙のデザインから肩の力を抜いて読むことができそうな印象を受けたこと、「常時接続で失われた孤独」という広告文からスマホを肌身離さず持っている自分が失っている孤独とは何なのか。それによってどんな問題が起きているのか?ということを考えることができそうだと思い、手に取りました。

本記事では特に印象に残った3つの内容について書いています。


1. “孤独”の意味

言葉が持つ印象から、一見避けるべきものに思える<孤独>。しかし、私たちは<孤独>を取り戻すべきだ。では、なぜそうすべきなのか。

第3章 常時接続で失われた<孤独> ースマホ時代の哲学

「第3章 常時接続で失われた〈孤独〉――スマホ時代の哲学」では孤立、孤独を失うことの問題となぜ孤独が必要なのか?について書かれています。

■ スマホにより情報がリアルタイムになる。
オフラインの行動とオンラインの行動を並行して行うようになる。
→それによって失われたもの
L 孤立:他者から離れて集中している状態
L 孤独:自分自身と対話・思考している状態
→孤立あっての孤独

■ ハンナ・アーレントの哲学
寂しさ:人と一緒にいる時に感じるもの
→誰かと繋がりを持ちたい。退屈を埋めたい。
→常時接続により”孤立”が無くなり、”孤独”になれず、”寂しさ”が増える。

本書を読んだ際のメモ(以下、メモと表記)

本書では「孤独 = 自分自身との対話・思考している状態」としています。スマホにより常に外と繋がっている状態になり、孤立の無い環境になる。孤立が無いことでそれを必要とする孤独にもなれない。

孤独が無いことで自分自身と向き合う時間が無く、そのときに感じていることや感情の動きに気づけなくなったり、日々の嫌だったことやストレスを放置してしまう。ストレス発散は必要だが、孤独が無いことで自分が向き合うべきことに向き合えなくなることが問題である、と私は理解しました。"孤独"という言葉にはネガティブなイメージを持っていましたが、このように考えるとポジティブに捉えることができそうです。「孤立 = 周囲との切断 = 集中できる環境」というのも新たな捉え方でした。

■ 何かを作る・育てることで自身との対話を行なっている
・アウトプットしたものは自分とは異なるもの
・作った自分とそれを直す自分
 自分が2人になることで自身との対話が生まれる

■ ネガティブ・ケイパビリティ
不確実、もやもや、分からない状態のまま抱えること。
言語化することで自分が理解できる範囲に"留めない"ことが重要。「完全な理解」は存在しない。

メモ

「第4章 孤独と趣味のつくりかた――ネガティヴ・ケイパビリティがもたらす対話」では、孤独を作り出すにはどうすればいいのかについて書かれています。

「アウトプットした時点でそれは自分とは異なるもの」という話が出ており、これは非常にしっくりくる内容でした。過去に自分が書いた記事や文章を読むと「こんなことを考えていたんだ」と他人事のように驚くことが多々あります。さらに今とは考え方が違うなんてこともあり、自分自身の変化に気づくこともあります。この「アウトプットで対話」については後ほど「趣味」という言葉で再度出てきます。

そして、本書で初めて知った「不確実・もやもや・分からない状態のまま抱えること」を表す"ネガティブ・ケイパビリティ"という言葉。

この「分からない状態のまま抱える」を読んだ時にふと思い出したのが、荒木博行著「自分の頭で考える読書」です。こちらの本でも「分からないものとして保存しておくこと」という形で出てきていました。私にとって「分からないまま抱える」ということ自体が頭の片隅に沈殿物として溜まっていたのだろうと思います。

2. 哲学を学ぶとき

「第2章 自分の頭で考えないための哲学――天才たちの問題解決を踏まえて考える力」では著者が考える「哲学の読み方」について書かれています。この内容は他の書籍や何か新しいことを学ぶ際にも覚えておきたい内容でした。

■ 知識と想像力
・ここでの想像力は「知識の使い所や使い方」のこと。
・知識あってこその想像力。両方を学ぶ必要がある。
・哲学者は人生を生きる上での「知識と想像力」を持っている。

■ 「概念」と「思考のシステム」
・概念:知識と想像力のセット→ものの見方
・思考のシステム:複数の概念をその人独自の組み合わせで結びつけた全体像。概念同士の結びつき。

■ 哲学を学ぶときにつまづくこと2点
1. 概念を思考システムと別で理解しようとする
哲学者によって思考システムも変わるため、考え方も変えて学ぶ必要がある。
→我々がやるべきなのは「自分なりに理解すること」ではなく、対象の想像力に従って知識を理解すること
2. 使い方を無視して知識に接する
知識だけに触れて理解した気になる

■ 哲学を読む時の注意点
1. 安易に結論を出さない
理解することには時間がかかる。自分の分かる範囲に落とし込まない。
2. 言葉をそのまま使う
自分独自の言い方に変えない。
 1. 抽象と具体を行き来できるようにする
 2. 条件と反実仮想を踏まえて概念について語れること
  この条件ではどうなる?それがなくなるのはどんな場合?
 3. 想像力にそって読む
  哲学で出てくる言葉は日常の言葉とは無関係とまでは言わないが、一旦忘れて読んだ方が理解しやすい。

メモ

エンジニアという仕事柄、新しい技術に触れることが多いのですが「自分の理解できる範囲に留める・置き換えて理解する」ことをしていたように思います。理解するための助けにするには良いが、自分の理解できる言葉に変換することは相手が本当に伝えたいこととズレが生じてしまうのではと気づきました。概念がその言葉を選んだのにはきっと理由があり、それを理解することも概念の理解になるのだと考えています。

漫画「ここは今から倫理です。」についても、作者自身が哲学者の思考のシステム自体を理解し、物語に違和感無く落とし込んでいるからこそ押し付けられ感や説教くさく無い作品になっているのだと思いました。

3. 現代社会のしんどさと自治

「第6章 快楽的なダルさの裂け目から見える退屈は、自分を変えるシグナル」では現代社会のしんどさと、孤独になる方法としての趣味について書かれています。

■ 自己啓発の呪い
「自分が変われば環境も変わる」は環境の問題も"自己責任化する呪い"。

自分の課題や社会課題を自己責任とする。
→ハイテンションや自己啓発で乗り越えようとする
 (自分の意識、忙しさ、激務)
→自分への意識が強まり、周囲の声がノイズになる
→「自分を疑う」ということができなくなる
この部分が本書で危惧している部分。必要なのは"孤独" 。

■現代社会のしんどさ = 競争と変化が当たり前とされる社会
・自己啓発で乗り切る(自身を奮い立たせる)
・快楽的なだるさに浸る(SNSなどの娯楽)

■できることは何か
上記のものから距離をおき、自身の"何か足りない"という気分と向き合うこと。
→"趣味"がヒントになる

■自治(self-geverment)
自分だけのルールを作り、それに従う。自由のある状態。
→自治は趣味で実現できる。

メモ

「現代社会のしんどさ」の考え方が面白いと思いました。
確かに、言われてみると競争や変化が当たり前とされていて、私自身も「努力して成長する必要がある」という考えが常にあると気づきました。

また「環境は変えられないもの、変えられるのは自分」についても、自分を変える必要があるから自己啓発によって自分を奮い立たせ、意識の矢印が自分自身に向くことで、周りの声がノイズになり、自分を疑うということができなくなってしまう。これは私自身もなる可能性が、いや既になっている可能性があると思いました。恐ろしいことだと思います。

そしてそれを防ぐための方法として提案されているのがマイルールの中で活動ができる自治であり、自治を実現できる「趣味」である、と本書では書かれています。趣味によって自身と対話すること、気づくこと、自分を疑うことができると。

まとめ 孤独の必要性

最後に本書で印象に残った部分をまとめてみます。

■ 孤独の必要性
孤独は自分自身と対話している状態。
→自分の感情の動きに向き合う、自身を理解するため。
→「自身を疑わない」ということではない。
 自己完結な生き方は他者をノイズとし、聞き入れないこと
→激務、スマホによる気晴らしや現代社会のしんどさは孤独を遠ざける
→本書では孤独をカジュアルにするため「趣味」という言葉を使う
→本書での趣味は「何かを作る・育てる活動」という定義。
 自治の中(マイルール)で試行錯誤しながら作ること。

メモ

ここで本書の趣味「マイルールの中で試行錯誤しながら何かを作る・育てる活動」に沿って、私自身の趣味は何だろう?と考えてみました。

・開発
自分が作りたいものを使いたい技術で作る
・読書
メモ、繰り返し読むことで著者の考え方を知り、自分の考え方を作る、気づく、育てる
・noteを書く
自分が感じたことを文章にする。過去の記事を見て内容を繋げる

こうやって挙げてみると、自分についての気づきやもやもやが生まれるタイミングはこれらのことをしているときだなと思います。これが私にとっての自治なのだと思います。みなさんの自治は何をしているときでしょうか?

本書はかなり読みやすかったです。日常で使わないような言葉も出てきますが分かりやすい説明がありますし、哲学者の言葉の引用や、映画「燃えよドラゴン」やアニメ「エヴァンゲリオン」の話も出てきたりと、哲学に少し興味があるという私のような方でも楽しみながら読むことができると思います。気になる方はぜひ手に取って読んでみてください。

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