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野球選手のための腱板トレーニング

C-I Baseballで投球障害についての記事を担当しております新海 貴史と申します。

普段は整形外科クリニックで投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。私の記事では臨床目線でお話させていただければと思います。

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今回の記事では野球選手のための腱板トレーニングについて私なりの意見も交えながらご説明できればと思います。
最後までお読みいただけると幸いです。

■初めに

今回の記事では野球選手のための腱板トレーニングについて、投球障害からの復帰という観点で解説していきたいと思います。

セルフエクササイズというよりはセラピストやトレーナーがいる場合に行う方法メインで解説して行きたいと思います。

■回旋筋腱板(Rotator Cuff)とは?

回旋筋腱板(以下、腱板)とは皆様もご存知の通り、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋のことを指します。
三角筋、大胸筋、広背筋などは表層に存在する筋群であるため通称”アウターマッスル”と呼ばれますが、腱板はより関節に近い場所に存在するため肩関節における”インナーマッスル”ということになります。

回旋筋腱板(rotator cuff)


腱板の役割は、

✔︎ stabilizer
 上腕骨頭の動的な安定化
✔︎ depressor
 骨頭の下制、インピンジメント防止
✔︎ rotator
 回旋筋

✔︎ accessory ligament 
 靭帯の補助

などがあり、構造的に不安定である肩関節を安定させるために重要な役割を担っています。

■腱板機能に影響を与える因子

ここからは腱板機能に影響を与える因子を8つに分けて説明していきます。

1.腹圧機能(胸骨下角)

静的な胸骨下角は70~90度と言われています。
胸骨下角のアライメント不良は腹部の筋の「長さ-張力曲線」の関係より、
腹圧機能の低下を招き、土台となる体幹部分が不安定な状態になってしまいます。
土台の安定性を欠く事で肩甲骨の安定性も失われ、腱板の出力は低下します。

胸骨下角の徒手誘導によっても腱板の出力は変化するため、静的な位置取りも重要となります。

さらに、その位置を保とうとする安静時の筋緊張により、動的に胸骨下角のコントロールが出来ていれば、腹斜筋―前鋸筋などの筋連結により肩甲骨の安定性が向上して、腱板が働きやすくなります。

また胸骨下角が拡大して、肋骨が外旋傾向の場合、肩関節外旋などの際に本来主に働くべき肩関節の動く割合が低下します。
代償的に肩甲骨の内転や外旋の動作の比率が高まる傾向
となり、肩関節の使用率が低下することで機能低下が加速すると考えています。

2.肩甲骨位置

肩甲骨の位置についてはしっかり"基準点に基づいて評価すべき"かと思います。
ただ右側が下がっているから右肩下がりではなく、基準点に位置していれば右が正常で左肩が上がっていると評価すべきです。
基準点に対する肩甲骨のズレ幅が腱板の働きに大きく影響しており、しっかり捉えることが重要となります。

①肩甲骨の高さ

肩甲骨上角は一般的にTh1とTh2の間に存在すると言われていますが、そこに位置しているかを評価する事が非常に重要です。
今回着目している腱板もその位置に大きく影響を受けており、その位置に誘導して出力を確認すると出力が高くなることを確かめる事が出来るかと思います。

そのため、腱板の強化を行う時はしっかり肩甲骨の高さを整えた上でエクササイズを実施することが重要と考えております。
その位置でエクササイズする事により、腱板の強化に加え肩甲骨をその位置で保持するための肩甲骨保持筋の賦活にも繋がります。

肩甲骨の位置を修正すると最初は自分の今までの位置に対して違和感を感じる事があるかと思いますが、それは認知面の問題であり、運動を繰り返し行い学習することによって修正されていくかと思います。
ぜひ継続して取り組んでみてください。


②肩甲骨の回旋角度・棘鎖角

肩甲骨の高さに加え、肩甲骨の回旋具合も腱板の機能に大きな影響を与えます。鎖骨と肩甲棘が成す角を「棘鎖角」と言いますが、それぞれ前額面に対して30度ずつ角度を成しており、合計60度で棘鎖角を成しています。腱板の機能はその棘鎖角に影響を受けます。
肩の1stポジションにおいて棘鎖角が60度の場合、筋出力は高くなるかと思います。

チューブなどで腱板のエクササイズを実施する時に肩甲骨の回旋の位置を正して行う事が非常に重要となります。

肩甲骨が前方突出しているような選手に対しては肩甲骨の位置を修正させた状態でエクササイズを指導する事があるかと思いますが、過剰に内転・外旋させている状態ではアウターと腱板の出力の不均衡が起きるため注意が必要です。程度の問題があるため、その時は肩甲棘が30度の角度の位置になる程度に留めておくようにすると良いかと思います。
『案外、寄せない方がいいんだな…。』と感じる事でしょう。

3.上腕骨頭の位置

これは基本的な事になりますが、関節窩に対して上腕骨頭がどの位置にいるのかによって腱板の出力は大きく異なります。

元々定位置でありながら筋や関節包の伸張性低下によりobligate translationするようなケースでは、初期は出力は良いが最終域に近付くと出力が低下するのが特徴かと思います。
一方、定位置の時点でその位置が不良な場合は中間位の時点で出力が低下しています。そのため、出力を評価する場合は中間位での出力と最終域近くでの出力と少なくとも2つは見るべきかと思います。

定位置がずれているかどうかの確認は骨頭を前方に偏位させた場合の出力と後方に偏位させた場合の出力の両方をチェックしてみると評価しやすいかと思います。
臨床的には多くの選手は骨頭が前方に偏位しているため、骨頭を押し込んだ状態で出力をチェックすると向上することが確認出来るかと思います。
またその押し込み具合に関しても、どの程度まで押し込むとより良い出力になるのかを確認する事で治療するべき移動の幅も確認出来るため、方向に加えその移動量も意識して介入する事をお勧めします。

4.筋腱の滑走性

過剰使用などにより筋・腱の滑走制限が生じているケースの場合は滑走不全が生じている部位に対して、関節運動の時に筋・腱の動きを促す方向に誘導する事で出力の向上を認めます
また出力低下のみならず、滑走不全が起きている場合は滑走不良部位に集約するようなストレスをかけると、そこで圧縮ストレスが生じて痛みが生じる場合があります。
棘下筋が棘下窩外側で脂肪体と滑走不良になって、肩外旋動作時に後方でインピンジメントするようなケースがそれにあたるかと思います。

5.筋硬結

今度は先程と異なり、逆方向に誘導すべきケースです。代表的なケースは腱板損傷などにより筋硬結が生じている場合です。
そのようなケースでは筋全長の中で過度に短縮している部位と過度に伸張されている部分が混在しており、過度な伸張が加わっている部分には大きなストレスが生じます。この場合、短縮している部分を引っぱり出す事によって筋の伸張の割合を均一にする事により局所のストレスが減り、出力が向上します。
現状では症状もなく問題がないと自覚する選手の中にも筋硬結は多く存在しており、この硬結に伴い腱損傷に移行する場合もあるかと思います。
これを見極められる能力を身につけるためにも日頃の評価で意識するべき着眼点かと思います。

6.手根骨のアーチ

遠位の関節機能によっても腱板の出力は変化します。

手根骨のアーチがしっかり保たれている状態の場合、橈骨手根関節への適切な軸圧が保たれた状態となり、腱板の出力は安定します
一方、手根骨のアーチが低下した状態では、肩甲上腕関節への圧が低下し、肩関節が不安定となります。その代償として抵抗運動に対して過剰な努力が必要な状態となってしまいます。

手関節背屈時に手首を突き出すような動作が習慣化している場合、さらに上腕骨頭の前方偏位を助長してしまうため、安定性が失われてさらなる過剰努力を強いる事となります。

7.グリップの選択(ベンチプレス編)

高校生以上であればトレーニングとしてベンチプレスを行っている選手も多いかと思います。
その際、グリップの選択も腱板の出力に大きく影響すると思います。トレーニング時の代表的なグリップとしてサムアラウンドグリップサムレスグリップがありますが、それぞれのグリップによって腱板の働きは異なります。
トレーニング初心者はサムアラウンドグリップ、熟練者はサムレスグリップなどと指導する場合もありますが、機能的にはサムアラウンドグリップ一択かと思います。

サムレスグリップの問題点について👇

さらにベンチプレスなどの時には

一方、サムアラウンドグリップでは上記メカニズムの影響は少ない状態でエクササイズが可能になります。サムレスグリップでは三角筋前部の出力が挙がってしまい、サムアラウンドグリップでは大胸筋の出力が向上するかと思います。
両グリップで比較して、その主動作筋の違いについて感じてもらえばと思います。

8.握り方(ベンチプレス編)

最後に握り方についてですが、サムアラウンドグリップの時の握り具合も腱板の機能向上のため重要となります。
一般的に正しい握り方は指先が舟状骨(母指の付け根にある骨)に向かうのが正常と言われています。
そのためベンチプレスなどを行う際にもそのような意識で握ることが重要かと思います。

懸垂やローイング系のエクササイズの時にもしっかり握れているか握れていないかによって背中への効き方が異なりますので、ぜひ確かめてみてもらえればと思います。

腱板が上手く機能していない場合、握る時に指先を巻きつける形ではなく、手関節の付け根を突き出すようにして握る込んでいる場合が多いです。
これにより腱板の機能低下を招き、肩の怪我を引き起こすトリガーになるため、実施する際には特に注意すべきと考えています。

■腱板トレーニングの実際

腱板機能評価方法としては一般的な整形外科テストで良いかと思います。
具体的なやり方に関しては以下のnoteをご参照下さい。動画付きで解説しています。

どのトレーニングにも言えることは、

✔︎重だるさが出るまで追い込む
 ➡︎最終的には50回くらい連続で実施できることが望ましい
✔︎軌道を意識する(毎回同じ軌道になるように)
✔︎肩甲骨の代償に注意する

これらを意識して実施すると良いかと思います。

◉外転エクササイズ

https://vimeo.com/738889944/65dd38caaa

外転初期のsetting phaseを意識して、収縮が入る瞬間である外転初期に肩甲帯が挙上してしまわないように注意します。
*三角筋などのアウターも含めたトレーニングになります。

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