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恐竜絶滅から学ぶコロナ時代を中小企業が生き抜く方法(第3回/最終回)

隕石衝突による全世界的な火災によって森林がなくなり、食・住の観点から樹上性ではなく地上性の"新"鳥類が生き残ったというのが第1回のお話であった。

恐竜絶滅から学ぶコロナ時代を中小企業が生き抜く方法(第1回)
https://note.com/taka_asagao/n/n7f5fc36eef48

続いて、仮に今事業をしている自分自身が【鳥類に近い恐竜】だとして、如何にこのような劇的な環境に適応する形で変化していくべきなのか。
すなわち既存の事業の枠内で外部環境の変化に対してどう事業を展開させていくべきなのかについて検討を加えたのが第2回のお話であった。

恐竜絶滅から学ぶコロナ時代を中小企業が生き抜く方法(第2回)
https://note.com/taka_asagao/n/n96a183af6939

最終回となる今回(第3回)では、仮に今事業をしている自分自身が【鳥類からは遠い恐竜】だとして、如何にこのような劇的な環境に適応する形で変化していくべきなのか。
すなわち既存の事業では対応出来ないという結論に至った場合に、既存事業の枠を越えてどのように新規事業を展開していくべきなのかについて検討を加え、全3回の総括としたいと思う。


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■中小企業の多角化の実情

あまりに環境変化が激しい場合、既存の事業では対応出来ないという結論に至ることがある。

その場合取りうる方策として、【多角化】がある。
すなわち、別業種を組み合わせて、リスクを低減し、収益安定化を図るべきとは良く言われることである。

しかしながら、現実に中小企業が上手く多角化出来るかというと難しいと言わざるを得ない。

そもそもかけられるリソースと資金力に乏しい中小企業が多角化を進めた場合、ほぼ間違いなく本業に支障が出てくる。多少目減りしてでも本業に集中する戦略を取った方が遥かに効率的であるのが一般的であろう。

街の居酒屋がコロナで客が減ったからといって、飲食以外の事業(例えば不動産業)に手を出して上手くいくのかという話である。

とはいえこの状況…である。この環境下で上手く多角化していく方法は無いのであろうか。


■業種変更を考える上での概念整理

リスク分散を目的とした多角化を考える上で、まず業種変更を考える上で参考になる概念を整理してみる。

消費税法で用いられる概念が大変参考になるので、転用してみる。ポイントは大きく分けて2つである。

◆全ての取引は、3分類に分けられる

①譲渡(モノ)
②貸付(モノ)
③役務の提供(サービス)

名だたる上場企業から町工場まで多種多様な事業を行っているように見えるが、実はあらゆる取引は上記の3分類のどれかに集約できる

ユニクロは洋服というモノを譲渡する事業を展開しているし、ドコモは通信というサービスを提供している。

◆全ての業種は、6分類に分けられる

 業種   /原価率(利益率)
①卸売業  /90%(10%)
②小売業  /80%(20%)
③製造業  /70%(30%)
④飲食業等 /60%(40%)
⑤サービス業/50%(50%)
⑥不動産業 /40%(60%)

消費税法では、簡易課税制度という制度において、全ての業種を上記のような6分類に分けて整理している。
そして、正確には原価率ではなくてみなし仕入率と言うが、おおよそ各業種の原価率を簡便的に示している(逆に見れば利益率である)。

この6分類は、各業種区分を把握する上で大変理解しやすい。

さて、上記2つのポイントをまとめると、以下となる。
以下の図を「図表①」とする

【図表①】

 業種   /原価率(利益率)/モノorサービス(取引)
①卸売業  /90%(10%)   /モノ(譲渡)
②小売業  /80%(20%)   /モノ(譲渡)
③製造業  /70%(30%)   /モノ(譲渡)
④飲食業等 /60%(40%)   /サービス
⑤サービス業/50%(50%)   /貸付(モノ)orサービス
⑥不動産業 /40%(60%)   /貸付(モノ)orサービス

さらに話を展開しよう。

上記表を各業種ごとの位置関係を整理してみると、以下となる。以下の図を「図表②」とする。

【図表②】

画像1

以上2つの図表をもとに、具体的に検討してみることにしたい。


■業種を増やすことは難しいことではない

長いこと税理士業をやっていてわかったことであるが、一つの企業が複数の業種を営んでいることは実は少なくない。

それも本人はあまり認識していないーー正確には見えにくいーーというのが実情であり、先程の【図表①】の視点で見て初めてわかるという特徴がある。

分かりにくいので具体例で話したい。
例えば、「鉄道模型の企画・製作を請負っている製造業」の会社があるとする。

この会社は、まず先程の【図表①】でいうところの「③製造業(モノ(譲渡))」を行っているのは明らかであり、メインはこれで間違いない。

ただ、よくよく見てみると、それ以外にも多くの業種を展開していることがわかる。

例えば、

・鉄道部品単体の販売
・鉄道模型の定期的な保守・管理
・外注先への工場スペースの貸し出し業

を行っている。
これらは、【図表①】で当てはめてみると以下となる。

・鉄道部品単体の販売
 →①卸売業(モノ(譲渡))
・鉄道模型の定期的な保守・管理
 →⑤サービス業(サービス)
・外注先への工場スペースの貸し出し業
 →⑥不動産業(貸付(モノ))

このように、製造業以外にも業種が追加されているのがわかる。

他の例を挙げよう。

町の商店街に「爬虫類の仕入販売」を行っている会社があったとする。

一見すれば、一般消費者への譲渡を主とした「②小売業(モノ(譲渡))」だけに見える。

しかしながら、同様によく見てみると、

・爬虫類を他の事業者に転売する事業
 →①卸売業(モノ(譲渡))
・爬虫類をオフィスディスプレイとして貸し出す事業
 →⑤サービス業(貸付(モノ))

という事業を展開している場合がある。

このように、実は業種を増やすことは一般によく行われていることであり、難しくないことである。

しかしながら、意外と意識されていないし、意図的に行われていないと言うのが私の印象である。


■実は大手企業では当たり前に行われている

このような目線で企業の事業活動を概念整理してみると、大手企業も広くこの手のやり方で業種を追加している。

例えば、成城石井を例に見てみよう。

・メイン:輸入商品の販売
 →②小売業(モノ(譲渡))

・サブ:
 ・スーパー内に出店
  →①卸売業(モノ(譲渡))
 ・ポテトサラダ等の自社製品の開発
  →③製造業(モノ(譲渡))
 ・自社製品を転用したワインバー事業
  →④飲食業(サービス) 

これ以外にも展開されているだろうが、ざっと挙げただけでもほぼ全業種をカバーしている。

そして環境変化を鑑みながら、良い事業は伸ばし、悪い事業は撤退させることを繰り返しているのである。

プロジェクトXやガイアの夜明け、カンブリア宮殿等で、このようにして厳しい環境変化を乗り越えたという話を良く聞くが、よくよく観察してみるとこのように業種を追加展開しているケースがほとんどである。


■このような環境下だからこそ中小企業も業種展開を

今回のような【図表①】にあるような形で業種を整理し、【図表②】上で意図的に追加していく手法を概念として書かれた書籍は、私が知る限り存在しないため、あくまで今回個人的見解ということで投稿している。

メインとなる業種を中心としつつ、そこから業種を追加展開していくことで、中小企業が現実的に多角化を実践していけるのではないかというのが私の意見である。

具体例手順は以下となろう。

【例) モノを扱う卸売業の場合

(1)
図表②を活用し、現在自社がどの位置に属しているのかを把握する。
卸売業だと認識
          ↓ その時点から…

(2) まずは、前後に業種展開出来ないか検討する。
→例えば、一つ上流の製造業、あるいは一つ下流の小売業に展開出来ないかを検討する。
→上流の製造業への業種展開は、例えば自社製品の開発等がある。自社に製作のノウハウがなければ外注や業務委託を利用しても良いかもしれない。
 効果としては、図表①にあるような利益率上昇(≒付加価値増)やブランド価値の付加が期待できる。
→下流の小売業への業種展開は、これまでの売り先を事業者から一般消費者へ変更することを意味する。
 現場に近い多様な市場のニーズを把握できる効果が期待でき、本業の卸売業にもそのノウハウは活かせるはずである。
          ↓

(3) 次に、上下に業種展開出来ないか検討する。
→例えば、サービス業での業種展開を出来ないか検討する。モノの譲渡を主軸とした発想から、そのモノを貸し付ける発想(前述の爬虫類のレンタル業等)やモノではないサービスの発想(売った製品の保守点検やアフターサービス等)に転換することで、何か出来ることがないかを検討する。
 効果としては、図表①にあるような大幅な利益率上昇(≒付加価値増)や顧客満足度の増加が期待できる。

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図表②のポジションを動かすことを通じて、何か新しい業種を追加展開出来ないかを検討した結果、埋もれていたニーズが顕在化する等、現実に沿った新しい展開が見つかる可能性を高めることが出来ると思う。

今回は例として卸売業を扱ったが、他の業種でもやり方は同様である。自社が製造業なのであれば下流や上下(下)への展開を考えればよい。
自社がサービスなのであれば上下(上)への展開の仕方を考えばよい。サービス業であっても、パッケージ化してモノにする等いくらでもやり方はある。そのような業種を横断したものの考え方は、機会があればまた実例を踏まえて記事にまとめたいと思う。


■まとめ

多角化というとなかなかハードルが高く感じられるが、現状をベースにして業種を追加展開していけば良いと考えれば少しは心理的ハードルは下げられるように思う。

勿論、業種を追加しただけで、それ単体で収益を生むとは限らない。

実際にいくつか業種を追加展開してみた上で、その新しい環境に合うものを随時選定し、育てていくという発想は必須となることは言うまでもない。

大切なのは、環境が変わったことを認識し、自分も変わる必要があることを認識すること。そのために、現時点の立ち位置を認識した上で、展開の方向性を見出し、実行していくこと。これに尽きる。

このコロナ禍で、多くの中小企業が窮地に立たされている。廃業も増えていると聞く。

その中で、必死に頑張っている中小企業や個人事業主を税理士として沢山見てきた。

まだまだ外部環境は変化していくであろう。その端に立っているという感覚は常に感じる。大なり小なり変わらなければならないのは間違いないだろう。

ドラえもんの話に戻るが、飛びたいと願う鳥が必死にもがいている時、たとえ答えを持ち合わせていなくとも、一緒になって全力で考えたい。

頑張ってる方向が間違っていたために、折角の頑張りが無駄になってしまったという経験は、私にもある。

そしてそれを脱せたのは、意外にも、誰かが発した些細な一言がきっかけだったりする。

この全3回の投稿がその誰かになることを祈って。



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